[論文メモ] オオコウモリの認知地図 1
Toledo et al.
Cognitive map–based navigation in wild bats revealed by a new high-throughput tracking system
Science, 369, 188–193 (2020) オリジナル論文のリンク
※ 解析方法を理解しきれていないこともあり、かなりざっくりなメモ
対象種
エジプトルーセットオオコウモリ
Egyptian fruit bat (Rousettus aegyptiacus)
果実食
Wikipediaによると
・エコロケーションする
・洞窟で眠る
のが多くのオオコウモリとの違いらしい
問い
エジプトルーセットオオコウモリは採餌トリップ中に空間記憶(認知地図)を使っているか?
検証方法
過去に通ったことのないショートカット経路を使って既知の2地点間(餌場や寝場所)を移動することがあるかを調べる。
1. ATLASというトラッキングシステムで計172匹の移動経路を記録
+ 餌場の候補地として行動圏内の果樹や果樹園を網羅的にマッピング
[ATLAS]
無線発信機を動物の体にとりつけ、その動物の行動範囲に受信機ネットワークを作る。複数の受信機の受信時間差に基づいて発信機の位置を推定するとともに、その位置データを受信機に記録する。リアルタイムに近いトラッキングができる。
2. トランスロケーション実験
ATLASタグをつけたコウモリをunfamiliarな場所へ連れて行き、放す
→ 帰ってくる経路を記録する
結果
・いくつかの特定の餌場間を直線的な経路で移動していた
→ ランダム探索ではなくgoal-oriented movementをしていた、と言える
・トランスロケーション実験で放された個体は、採餌トリップ中と同程度に直線的な経路ですぐに戻ってきた。
・採餌トリップ中とトランスロケーション実験のどちらにおいても、過去に通ったことのない経路を使っていたことが示唆された。
→ 認知地図を使えるという仮説を支持。ただし、認知地図だけに頼っていることを主張するつもりはない、とも書いてある。今回使ったデータの限界についても言及している(解析方法の工夫で改善されている部分もあるっぽい)。
・juvenile(3〜8ヶ月齢)とadultで移動パターンに有意差はなかった。
すごいと思ったこと
・ATLASすげー。4g, 1秒〜8秒間隔の位置情報, 最長219日記録。35km x 25kmのエリアをカバー。
・14314本の果樹、18111箇所の果樹園、をハンディーGPSでマッピングしたらしい。すげー。
(追記:よく読んだら、人力マッピングしたのは果樹のほうだけで、果樹園の数は推定値みたい。それでも充分すごい。)
おもしろかったこと
・自然環境下での移動経路記録とトランスロケーション実験の組み合わせ。さらに神経行動学的な知見もこれまでに蓄積されているそうで、ナビゲーションの「包括的な理解」が実現できそうな雰囲気。
・ラストパラグラフにある果実食の霊長類との共通点の話。
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