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鳥類のナビゲーション研究 [1]


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生物の科学 遺伝 2017年11月号『特集 生物のナビゲーションを科学する』に寄稿した内容を分割して公開しています

元記事のPDF↓

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はじめに

鳥は生涯を通して,渡り,餌獲り,帰巣といった移動を繰り返している。彼らはいかにして迷わず目的地に辿り着くのだろう。本稿では,鳥類のナビゲーション研究がいままでどのように進められてきたか,そして何がわかったのかを概観した上で,これからの課題についても述べた。

【ナビゲーションとは】 本稿では,現在地から目的地へたどり着くプロセス全般を指す。直接的な手がかり(目印や匂いなど)をたどる場合もあれば,そのような直接的な手がかりがない状態で,現在地と目的地の位置関係と,進むべき方角を知覚して目的地まで到達する場合もある。


1. 鳥類の移動

鳥は空を飛ぶ。進化の過程で身につけたこの移動様式により,彼らは地球上を縦横無尽に旅することができる。

1 羽の鳥の生涯について想像してみると,そこには多様な時間・空間スケールの移動が含まれていることがわかる。生まれて初めての渡りに親鳥の助けもなく挑む種もいれば,春になるたびに越冬地から繁殖地へと長い道のりを移動する種もいる。繁殖期には,巣と餌狩場とを何度も往復する。よい餌場を求めて巣から遠く離れた場所まで出かけることもあるが,卵を温めるため,そして雛が生まれた後は餌をやるために,適切なタイミングで迷わず巣に帰ってこなければならない。さらに,天敵から襲われないように仲間と集まって営巣する種ならば,たくさんの似たような巣の中から自分の巣を見つけ出す必要がある。

ここで,筆者らの研究を一つ紹介する。日本周辺の島々で繁殖するオオミズナギドリ(Calonectris leucomelas)[ref 1] は,海でカタクチイワシなどの餌を獲るために,日帰りもしくは数日間の旅行に何度も出かける。旅行を終えて巣に帰り着く時刻は, 島周辺の昼行性の捕食者(猛禽類やカラス)を避けるためか,日没後数時間以内に限定されている [ref 2]。 採餌場所は旅行のたびに変化し,ときに島から500 km 以上離れた海域から帰ってくることもあるにも関わらず,必ず決まった時間帯に帰巣するのである。オオミズナギドリを GPSで追跡したところ,親鳥はあたかも“門限”を守ろうとしているかのように,採餌場所から島までの所要時間に合わせて帰り始める時刻を調節していた(図 1)。時計も地図もスマートフォンも持っていない鳥たちが,道に迷わず時間どおりに巣に到着できるとは驚きだ。

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それでは,鳥たちは何を手がかりにナビゲーションをおこなっているのだろうか? この答えを見つけるために,数百年も前から研究者たちは手を尽くしてきた。


つづく

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