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雪が解ける頃に P.2


猫と犬が導き出した答えが
「一緒に寝たい」だとしたら

犬と猫はどう歩み寄るのか

もう少しだけ覗いてみたくなった

手を繋いだまま歩く部屋までの道
君とわたしの部屋はそう距離はなかった
それでもずいぶんと長い道のりに感じ
引き戻すなら今だとほんの少しだけ考えたりした

君がどんなセックスをするのか
どんなふうに抱いてくれるのか

そんなことばかりが頭を占めていた

部屋に着いて君はなんで部屋に呼んだのかを聞いた

なんとなく。このままバイバイしたくなかったから

君はなんでここに居るの?

きっと聞き返したはずだが、その答えは頭の中から抜け落ちている。それも仕方がない。
酔いと程よい緊張感のせいか、一つ一つの記憶にノイズが入っている。思い返してもダイジェストのような断片的な記憶しか残っていない。

思い出せることは、気がついたら抱きしめられていたということ。

どちらのものかわからない熱と鼓動に酔いそうになったこと。

じゃあこのまま一緒に寝よう?

そう言って、軽く触れるようなキスをする

わたしは同じくらいの軽く触れるキスを首元に返す

肯定もしないし否定もしない
そんな柔らかい時間がただよう

この先が、ただ気になるだけなんだ

犬は飼い主にどんな情を返してくれるのか?

そんな漠然とした好奇心に縛られたまま優しく抱きしめる

今もこうやって君の隣で過ごしているほどには
君とのセックスには満足している

基本的には優しく抱く君は
たまに何もせずにただ寝るだけの時間を作ってくれる

ただ一緒に映画を観ながら寝転ぶ日もあったし
呑みながら講義での出来事とか教授への愚痴を話したり
本日のバイト先の迷惑な客の発表をしたりしながら
もう寝るわーと眠たそうにわたしのベッドに潜り込んで
自分の左端をあけて腕を枕に置いて待つ

この光景が当たり前になっていることに
少し喜びを感じながらも何も言わずに腕に潜り込んで
今日も君の腕に抱かれながら眠る

時には寂しさを埋めるために夜中に呼び出す

そんな夜はキツく抱いてほしい傷つけてほしい

その合図だと
いつしか君は気がつき

ちゃんとわたしの要望に答えてくれる

白い肌に残された痕を触りながら
君の優しさに また心をあたたかくする

その寂しさを君は少しずつ少しずつ埋めてくれる

消えてゆく痕に儚さと寂しさを感じ
またわたしは君を呼び出す

ひとつ、またひとつと増えていく痕をみて
いつしか君の存在は大きくなっていることに気がつく

それに気がつくまでにわたしたちは
ずいぶんと長い時間を一緒に過ごしていた

飼っていたはずなのに、飼われる
そんな感覚にいつしかのめり込んでいった

それでも求めた分だけ返してくれる君
拒まれることもなくそのまま包み込んでくれる

そうわかっていたからまた君に甘える

でもわかってるよ

君がわたしのそばにずっとは居れないことを

君には彼女が居る

そのことを知ったのは初めて一緒に寝た日から
少し経った時だった

不思議と何も感じなかった

手癖の悪い男とも思わなかったし

ふしだらな関係であることには変わりないけれど
容認している自分に対してもむず痒くもならず
後にも先にも罪悪感も抱くことはなかった

だからただ飼い犬と戯れる時間程度に留めようとしていた

優しさを求めず、見返りを求めず

ただ互いの寂しさを埋めるためだけに使う時間

そういう前提があったはずなのに

今のわたしはもう君を求めずには居られない

君が隣で寝る日が当たり前となり

好きだと伝える日が多くなり

それに返ってくる同じ気持ちだという言葉に
苦しんでいる自分が居た

ふとこの時間がなんの意味を持っているのかを
考えることが増えた

好奇心から始まった ただそれだけの時間

それを思い出してもなお
意味や答えを求めはじめたわたしに
君はなんて思うのかな?

横に並んで歩く猫と犬の歩幅は

あまりにも違いすぎた

君はいつでも合わせてくれる

わたしがゆっくりと進みたい時には
駆け抜けていったと思ったらすぐに折り返して
少し前まで来て待っていてくれる

わたしがプイと先に歩き始める時は
追い抜かないようにぴたりと後ろに着いてくる

でもきっとわたしの歩くスピードは
あなたにとっては気持ちいいものではなかったはず

駆け抜ける理由には、その先に何かがあるから

振り向く理由には、その後ろに何かがあるから

その理由がわたしであったら嬉しいのに

あなたの目には
いつでもわたしの先にあるものが写っている

そのことに気がつく前の
手の触れ合ったあの瞬間に
戻れたらいいのにと

今日も君の隣で目を閉じながら考える

ぽつり ぽつりという雪解けの音が

わたしの流れ落ちる涙をかき消す


lazy S.


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