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ネーデルラント第二世代の画家クリストゥス

先月訪れた<メトロポリタン美術館展>の第一章【信仰とルネサンス】。
前回のクリベッリに加えてもう一人注目したいのが、ペトルス・クリストゥス(生年不詳、しかし1444年には活動〜1475/76年)です。

クリストゥスについて資料を読んだのは今回で二度目。
昨年8月にnoteでクエンティン・マセイスの記事を投稿したときに、クリストゥスの『仕事場の聖エイリギウス』(1449年)(下の画像)を参考にしていたので、大阪市立美術館の展示室で「おっ!あのクリストゥスさんですね!」と作品にご挨拶できました。

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画面の隅々まで写実的に描き込まれたモチーフは教訓や宗教的なメッセージが込められ、聖人を両替商に見立てているあたりはまさにネーデルラント絵画
おっ、前回調べたこの作品もメトロポリタン美術館の所蔵作品でした。

そして今回<メトロポリタン美術館展>に来日している作品がこちら。
ペトルス・クリストゥス『キリストの哀悼』(1450年頃)(油彩/板)

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十字架から降ろされたキリストの体の曲線と、その後ろで哀しみにくれる聖母マリアの体が描く曲線が、シンクロしています。二人で苦しみを分かち合っているのかもしれません。全体を見ると、登場人物全員で2つの弧を描いているようにも見えます。観ている私にまで哀しみが連鎖してきました。

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そして油彩の色が美しい✨。
中央で聖母を支えている男性の衣装と 左手前でキリストの体を支える男性のタイツの色、
画面右で布を持つ男性の衣装と 左上の女性の衣装の色、など
同じ色を使うことで、全体の調和を保っているような気がします。

油彩画の技術を完成させたヤン・ファン・エイクが1441年に没した後、クリストゥスがその工房を受け継いだとされています。展示室でクリストゥス作品の油彩に注目できた自分を褒めてあげたいです(笑)。
(注)ただし、近年の調査でクリストゥスはヤン・ファン・エイクとは一線を画する画家であるとする説もあるそうです。

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ところで。
【ルネサンス】について本を読んでいると、
[イタリア・ルネサンス]と、アルプス山脈を挟んで北側に位置する[北方ルネサンス]が出てきます。
そして15世紀[北方ルネサンス]の中心だったのが、ドイツでもフランスでもなくネーデルラント(現在のオランダとベルギー)です。

それぞれの特徴として、
① 単一の消失点を持つ線遠近法(一点透視法)の理論が確立されたのは[イタリア・ルネサンス]で、
油彩の薄い色層を丹念に重ねて透明感のある色彩と精緻な描法を獲得したのがネーデルラント北方ルネサンス]。
↓ こういうことですね。
① 遠近法の理論確立=[イタリア・ルネサンス]
② 油彩画技法の完成= ネーデルラント[北方ルネサンス]
いつもなんとなく「そうなんだぁ」と読み流していました。

では、 いつネーデルラントの画家が理論的な遠近画法を学び、 どのようにイタリア人画家が油彩画法を学んだのでしょうか…興味あります!
知りたい、知りたい!。

なんと! ①にも②にも クリストゥスが関係している可能性があるかも⁈
実は今回はまだ深く調べていない💦ので、手元にある資料で知りうる範囲の投稿となります。

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① ネーデルラント画家と遠近画法について。
クリストゥスが1457年頃に描いた『聖ヒエロニムスと聖フランチェスコのいる玉座の聖母子』(下の画像)は、[イタリア・ルネサンス]で確立された線上の遠近画法を正確に論証した最初の北ヨーロッパ絵画だそうです()!わおっ。

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床の模様や、玉座の下の台が一点に消失されていくのでしょう。私は “正確に論証された遠近画法” がどういうものか、“正確に” はわかっていないのですが … 面白いです!

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② 油彩画の技術と[イタリア・ルネサンス]の関係について。
油彩画の技法とネーデルラント美術の概念を広めたイタリアの画家と言われているのは、アントロネ・ダ・メッシーナ(1430-79年頃)。ヴェネツィア派のジョヴァンニ・ベリーニに大きな影響を与えた人です。
では、メッシーナはどのようにして油彩画の技法を習得したのでしょうか(②)。

メッシーナがミラノを訪れた同時期に、ミラノに「ブルッヘから来たペトルス」と思われる記録があるそうです!ペトルス・クリストゥスのこと⁈。
メッシーナとクリストゥスの肖像画に類似性が見られることからも、二人の画家はミラノで出会っていたのかもしれない⁈ …との記述がWikipediaにありました。それ以外の資料は見つからなかったので、まだまだ怪しいですね。
しかし、もしかしたらクリストゥス作品が[イタリア・ルネサンス]に油彩画の技術を伝達する一助となっていたのかもしれないのです。
とても、とても面白いです。この ①、② について書かれた最新の論文があれば、是非読んで見たいものです!

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ちょっと妄想が膨らみ、突っ走ってしまいました💦。

さて<メトロポリタン美術館展>の図録によると、現存するクリストゥスの作品は30点にも満たないのだそうです(涙)。
そんな中で 私が気になって仕方ないのは、彼の描いた肖像画。

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左)『エドヴァルト・グリムストンの肖像』(1446年)
ブルゴーニュ宮廷にいた英国の大使グリムストンを描いた左の肖像画は、ヤン・ファン・エイクの影響を受けながらも、窓のある部屋の角にモデルを描くというクリストゥス独自の創意が見られるそうです。

右)『若い女性の肖像』(1470年)
数年前に画像で見つけて以来、何度見ても惹きつけられる作品です。描いたのはクリストゥスだったのですね!知りませんでした。
円筒形の黒い帽子に施された白い刺繍や幅の広いあごひも(?)は上品で手触りが良さそう。首元にフィットしたネックレスや、襟元に毛皮の縁取りがあるV字の青い衣裳は上品で無駄がなく、つるんッとしたアーモンド型の顔や肩幅の狭い女性の体をすっぽり包んでいます。
目に焼きついて忘れられない、いつまでも観ていたい!、そんな不思議な魅力を持った肖像画です。
よく見ると、いずれのモデルも 右目と左目の大きさや形が異なっているようですね。

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作品評として “無表情で冷たい視線を送っている” という表現を見るのですが、私の印象は少し違います。
確かにクリストゥスは「表情」を要求していないのかも知れませんが、2人の「人となり」はしっかり描かれており 強い意志も伝わってきます。私には次の瞬間に2人の口元が緩み、笑顔になる「絵」を想像することができるのです。
いま この瞬間は、私が彼らを鑑賞するのではなく、彼らが私に何かを語りかけてくるのを感じ取るための時間なのかもしれません。素敵です✨。

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ペトルス・クリストゥス。
<メトロポリタン美術館展>を機に、注目したい画家がまた一人増えました!
ありがとうございます。

<終わり>

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