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松方コレクション展 作品紹介 その4

公開設定を失念していました💦 以下は3ヶ月前の内容です。 

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 閉幕が近づいてきた美術展《松方コレクション展》の作品紹介です。
第4回目は、今回の美術展の中心的存在にして、原田マハさんの『美しき愚かものたちのタブロー』でもキーポイントとなっていた一枚をご紹介します。

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フィンセント・ファン・ゴッホ『アルルの寝室』1889年 油彩・カンヴァス

オルセー美術館所蔵  57.5 × 74 ㎝

【3枚目の部屋】
 フランス・アルルでゴッホが暮らした家の2階の一室、左側の扉はゴーギャンの部屋に繋がっていたようです。
『アルルの寝室』には3枚あり、
第1バージョン(ゴッホ美術館)はゴーギャンがアルルに来る直前の1888年10月、次のバージョン(シカゴ美術館)は1889年9月に第1バージョン複製をして描いた作品です。
そしてこれ(オルセー美術館所蔵)は18890年に母親のためにサイズを縮小して複製して描かれたそうです。

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(画像は上が第1バージョン、下が第2バーションです)

 ゴーガンとの生活をスタートさせることに、夢と希望を膨らませて描く1枚。
夢破れ、後悔、悔しさ、寂しさ、やるせなさ、悲しみ、不安の中で、こうであったら良かったのに…と叶わなかった夢を思って精神療養院で複製する1枚。
家族のために3枚目を書いた時、彼は優しい気持ちだったのでしょうか。
それぞれの絵を比較・分析した文章もありますが、私には…。

今回展示されている作品について、原田マハさんの『美しき愚かものたちのタブロー』から引用させてもらいます。
「つつましい寝室。けれどそこはかとない明るさに満ちた部屋。
一見して奇妙なのは、この絵にはまったく影が描かれていないことだった。それでいて、描かれているすべてのものが浮かび上がり、こちらへ迫ってくるように感じられる。くっきりとした色彩は目に見える音楽のようだ。溢れる躍動感に、日置の心は瞬時にしてとらえられた。」

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観点、感性、表現力、文章力すべてにおいて、勉強させていただきます!

【キラキラ輝く1枚】
 さて<松方コレクション展>の会場。ロンドンから華やかなパリへと、松方氏が辿った軌跡を我々も辿っていききます。
  ロダン美術館を出ると、そこは薄いピンク色の壁に覆われた華やかなパリ・ブース。デュラン=リュエル画廊、ノードラー画廊、とパリの画廊を巡って歩いて行きます。
 すると展示会場に明らかに特別なスペースがありました。壁が一部くり抜かれ、白い枠と少し濃い色のピンク色の合わせ板。その間から眩しいばかりの明るい光が漏れ出でて、飾られた一枚の絵を際立たせているのです。
 この演出により、まるで描かれた窓の外が希望に満ちた光で溢れているように感じます。開きかけた窓ガラスごしから漏れる光は、ベッドに置かれた二つの枕とシーツのクリーム色を眩しいほどにキラキラさせ、ベッドの赤い毛布の色をいっそう鮮やかにしています。
 絵をよく見ようと顔を近づけると、自分たちの影が合わせ板に映し出されます。我々はまるで舞台上の寝室でこれから繰り広げられる物語を待ちわびて想像を膨らませている観客になったような気がするのです。

 図録によると、松方氏は1921年9月14日パリのローザン=ベール画廊にて『アルルの寝室』に出会いました。同行の八代幸雄氏は「稀代の傑作で、これはどうしても日本に買って行ってください、とせがんだ」とあります。流石!
 もしこの作品が日本に戻って国立西洋美術館の顔となっていたら、また違った未来が待っていたことでしょう。松方氏が集めパリから寄贈変換された作品を中心とする国立西洋美術館のコレクション。どれも素晴らしく、愛すべき日本の宝なのですが、もし国際的にみて「これ!」という目玉作品に欠けているのとするならば、この『アルルの寝室』がそれになり得る存在だったのかも知れません。

  この展示会が終了したらまたオルセー美術館に行ってしまうこの作品。今度はパリで会いましょう!と声をかけてお別れするのでした。

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