小さな宇宙旅行
以前住んでいた家はマンションの2階だったので、ベランダから下を覗くと1階の住人が手入れしたお庭が見えていました。四季折々に咲く可憐な花たちを見るのが楽しみで、洗濯物を干すたびに下を覗き込んでは幸せな気持ちになっていました。
お庭は小宇宙。
それを上から眺めていると、心も体も解放されたような気持ちになります。
太陽の光を求めて上を向く花と目が合いました。
「こんにちは。今年も元気に会えましたね。」
それからは、マンションに住む知人・友人の家に遊びに行ってベランダに出ると、まず下を覗き込むのが癖になったようです。
先日7階のベランダから下を覗いたら、紅葉した大きな桜の木と、散った葉の色合いがなんとも美しい✨。
そういえばこんな絵画があったような気がします。
葉の色は緑でしたが大きな1本の木と、散った葉を見下ろすようなアングルから描いた美しい絵画・・・公園だったでしょうか、側に少年がいたかも知れません。作者はカイユボットだったかしら?
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と思って調べていたら、現在オルセー美術館では <カイユボット展> を開催しているのですね(2025年1月19日まで)。
ギュスターヴ・カイユボット(1848-1894年)の没後130周年に開催されているのは、彼の描いた男性たち。
オルセー美術館のHPを見ると、パリッとスーツを着てバルコニーに立つ男性、お風呂上がりに体を拭く裸の男性、トイレで用を足す男性まで・・・日常生活のワンシーンを描いた作品が展示されているようです。面白そうですね。
印象派展に参加し、印象派の画家たちと交友を深めていたカイユボットですが、画風はどちらかというと写実的で、映像を見ているだけなのにそこに本当に男性が立っているようでドキッとします。
裕福で仲間の作品をたくさん購入していたカイユボットは、自身のコレクションを「国家に遺贈」した、と以前記事にしたことがあります。
「屋根裏部屋や地方の美術館ではなく、リュクサンブール美術館へ、その後はルーヴル美術館へ収めるように!」と遺言に明記していたそうです。
カイユボットが遺贈を申し出た印象派の作品67点中、政府が買い取ったのは38点だけ・・・残念(涙。
とにかく、モネやルノワールの傑作がフランス国外に流出しなかったのはカイユボットのお陰なのですね。
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私が思い出そうとした絵画は、写実的ではなく筆致が柔らかく、観ていると幸せな気持ちになるような作品でした。カイユボットではなくピエール・ボナールだったかも。
と思考がとっ散らかります。
ボナールの作品が「特に好き!」というわけではないのですが、やはり美術史には欠かせない画家。さまざまな展示会でボナール作品を目にします。
そういえば、先月ピエール・ボナールの映画を観ました。
モデルを務めた恋人・マルトとの生活を描いた『画家ボナール・ピエールとマルト』。
以前ボナールについて少し資料を読んで、
“恋人のマルトは、嫉妬深く人付き合いが悪く、精神的に病んでいた”
とインプットしていました。
そういえばボナール作品に描かれているマルトははっきり顔が描かれているわけではなく、何となくいつも暗い顔をしているので、確かに・・・と勝手に納得していました。
しかし映画を観ると、常識からかけ離れてなんとも自由奔放なのはボナール本人であり、生涯の伴侶・マルトはいたって常識的な女性に描かれていました。そして何とも魅力的。
実話を元にした映画、といっても全てが正しい訳ではないのです。
何をテーマにして、誰の視点から描くのか・・・。先入観や固定観念を捨てて、物事を多視点を持つことも大切なのですね、どの世界においても。
そして「愛情」にはいろいろな形があるのです。
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私が探している絵は、ボナール作品よりもっと装飾的だったかも知れません。
ヴュイヤールだったかも?
エドゥアール・ヴュイヤール(1868−1940年)はボナールと共に【ナビ派】の代表的画家とされますが、構図・色彩共にとてもデザイン的、装飾的で「家に飾りたい!」と思う作品もあります。
この作品、華やかなオルセー美術館で異彩を放っていました。シンプルなのに惹きつけられる・・・温かい色合いが愛おしいのです。
機会を見つけてヴュイヤールについて追いかけてみることにしましょう。
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カイユボット、ボナール、ヴュイヤールは、それぞれ「庭」に関係する作品を多く残しています。
カイユボット(左)作品には働く男性が生き生きと描かれています。
ボナール(中)は、掛け軸のような屏風のような・・・さすがです。
へぇ〜。ヴュイヤールはこんな柔らかい光の庭を描いているのですねぇ。
それぞれの「庭」にそれぞれの宇宙があります。
お目当ての絵画は見つからなかったのですが、素敵な宇宙旅行ができました。
<終わり>