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高階秀爾先生と企画する<受胎告知展>

私が最初に見た『受胎告知』は、幼い頃 両親と行った大原美術館のエル・グレコ『受胎告知』です。全く絵画に興味がなかった私は ろくに展示を見ていなかったのですが、この作品には惹きつけられました。何を描いているのかわからなかったのですが「これ、好きかも」と。それ以来、エル・グレコは常に気なる画家です。

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左)エル・グレコ『受胎告知』
右)カルロ・クリヴェッリ『聖エミディウスを伴う受胎告知』

一番最近見た『受胎告知』は、<ロンドン・ナショナル・ギャラリー展>のカルロ・クリヴェッリ『聖エミディウスを伴う受胎告知』。
いやーっ、何時間でも観ていられましたよ。そして絵画の中に吸い込まれそうになりました。本当に危なかった💦。
そういえばこの作品は、イタリア教皇から自治権が与えられた町を祝うために描かれた作品で、自治権を与えらえた日がちょうど受胎告知の日だった…と<ロンドン・ナショナル・ギャラリー展>で学びました。
その日は3月25日…もうすぐですね。タイムリー!ということで、先週は受胎告知を勉強しました!

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『受胎告知〜絵画でみるマリア信仰〜』高階秀爾先生を読み直しました。

文字数が少なく薄い新書で、40作品以上の『受胎告知』の名画をカラーで見ることができます。初心者の自分にピッタリ!と思って一年ほど前に購入してサラッと読んだのですが、その時の私には しっくりこなかったです💦。
本棚の「いつか再チャレンジ!」スペースに置いてありました。

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絵画鑑賞に興味を持つようになってから、美術史の流れ、絵画技法のアレコレ、ヨーロッパの歴史やキリスト教について何冊か本を読みました。しかし どうも頭に入らず、字面だけを追って“覚える”ことに努めていました。例えば「ゴシック期→ルネサンス期→マニエリスムの後にバロック期ね」と。
昔から勉強嫌いだった私は あまり本を読んでこなかったこともあり、自分の理解度に合った本のチョイスが下手なのかもしれません。「いつか再チャレンジ!」スペースには多くの本が眠っています。

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しかし今回の再チャレンジは大成功。現在の私の理解度、興味度合いにぴったりきました!この一年で少しは成長したのかもしれません。まだまだ初心者レベルですが💦。
本の内容はこちら↓。

『受胎告知』に焦点を当てることは、キリスト教と西洋美術の関係を紐解くことにつながる。そこで、各時代における『受胎告知』の代表的名作を鑑賞しながら、その背景にあるキリスト教をはじめ時代の精神的風土との関連を解き明かそうというのが、本書の狙いである。(序章より)

今 まさに知りたい!と思っていた『受胎告知』作品を軸に、関連する周辺情報を幅広く簡潔に教えてもらっているようで、いろいろなことがストンっと腑に落ちました。

例えば…。

▶︎ルネサンス期のフィレンツェ暦では3月25日から一年の幕が明ける、そしてお告げの天使にちなんで郵便業者の祝日だった
▶︎ヨーロッパの教会堂は東向きに(エルサレムに向かって)建てられている

といった豆知識から、

▶︎キリスト教の基本思想と『受胎告知』の位置付け
▶︎フレスコ画、テンペラ画、そして油彩画の特色
▶︎ルネサンスを特徴づける三つの様式
▶︎マリア信仰におけるルネサンス、そして宗教改革
▶︎三度の偶像破壊運動

などなど曖昧にしか覚えていなかった知識まで。『受胎告知』作品から読み解いていくと、何ともすんなり頭に入ります。

そして、カラー画像で見られるジョット、フラ・アンジェリコ、ボッティチェッリ、ダ・ヴィンチ、クリベッリ………エル・グレコなどなど。
美しくてため息が漏れます。

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上)フラ・アンジェリコ(1440年)サン・マルコ修道院
下)レオナルド・ダ・ヴィンチ(1472年頃)ウフィッツィ美術館

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いつかはこの目で実物を見たい作品の数々。
調べてみると、レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』は2007年に来日していたのですね。全く知りませんでした…見たかった😭。

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再現模型や映像による解説で天才ダ・ヴィンチに迫る展示会は、総入館者数79万人を超えたそうです。さすが!ダ・ヴィンチ様。

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ふと、『受胎告知』を鑑賞していると、どうしてこんなにも清らかで美しく神聖な気持ちになれるのか考えてみました。

中世においては画家みずからが絵の主題を選ぶということは稀で、主に教会や王侯貴族らが注文主となり、画題を指定して発注したそうです。
私が『キリストの磔刑』と『受胎告知』の制作を依頼された画家だとします。
いずれもキリスト教において最重要場面であり、教会の祭壇や入口に飾られることが多いこれらの主題の受注は、大きな名誉であり腕の見せどころ。私自身の信仰と画家としての技量の限りを尽くして制作に取り組むことでしょう。

しかしそこに込める思いは大きく異なります。
悲しみや痛み、後悔や戒めの思いを込めて生み出す作品は、ひと筆ひと筆が重く、苦しみを伴うことでしょう。たとえどんなに美しく描いたとしても悲しみで胸が締め付けられそうになります。想像するだけで苦しい…。
一方、神の子イエスが宿る神秘的でもっとも祝福すべき場面に筆を走らせる私は その制作期間中、穏やかで優しい表情をしているはずです。大天使ガブリエルのポーズ、マリア様の表情を考えながら色を置いていく筆には、喜びと感謝の気持ちを込めることができるからです。

なるほど。ガッテンです。

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本は次のように締め括られています。

『受胎告知』は本質的にキリスト教絵画である。人々を信仰に導くため、そして神の栄光を讃えるために描かれた。美術館や展覧会のために描かれたわけでは決してない。人々はジョットやダ・ヴィンチ、エル・グレコらの絵を鑑賞したのではなく、深い信仰の念に包まれて、絵の前で心からの祈りを捧げたのである

キリスト教徒ではない私は、どうしても『受胎告知』を美術館や展覧会で鑑賞する対象としか観ることができません。
しかし、作品のもっと深い部分に近づけるように、『受胎告知』を鑑賞するときに必ず心の中で唱えることに決めました

(大天使ガブリエル)
おめでとう、恵まれた方
主があなたと共におられる

(聖母マリア)
わたしは主のはしためです
お言葉どおり、この身に成りますように

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最後に。
この本、何より高階秀爾先生の余裕ある文章がいいです。

私は美術について何も知らないので、資料を集めて必死に読み込んで精一杯の文章を書きます。「1」しか知らないのに、人が書いた文章や情報を詰め込んで詰め込んで「5」の理解を、さらに膨らませて無理やり「6」の投稿をする。
いっぱい いっぱいで余裕もなければオリジナリティも少ないという情けない結果です💦。

西洋美術に関する数多くの著作を出され、啓蒙的役割を果たしてこられた高階先生は、この本に書かれた どの項目に関しても記載の100倍も1000倍も語れるのだろうなぁ…と簡潔な文章に広がりを感じます。

1932年のお生まれ⁈。現代のように図書館やインターネットで “ちょちょい”っと調べることなどできない時代。現地に足を運び、どれ程の原書を読み込んだことか…。そして独自の考えを確立し、ご自身の言葉を紡ぎ出してこられたのか…。
憧れ、尊敬などというのもおこがましいほど とても遠い存在のお方です。
以前たまたま私の職場にいらした時、とてもダンディで気さくに皆さんと挨拶され、ベンチで論文(?)をチェックされているお姿を拝見しました。素敵✨

高階先生!世界中にある『受胎告知』を一堂に会する展示会、観たいです!

紛争や疫病により世の中が混乱した不安な時代にマリア信仰が加速したように、見えない不安に怯え 縮こまって耐えるしかない2021年の現代において求められるのは、奇跡、神の恵、喜び、美しく穏やかな情景、そして新しい命の誕生=希望なのだと思います。

もし夢が叶うならば、企画書を10本くらい作成してプレゼンさせていただきます(笑)。

<終わり>

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