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わたしと <キュビスム展>

2023年10月に<キュビスム展>(国立西洋美術館)を鑑賞。とても刺激を受けたので
「自分の言葉でしっかり記事にしたい!」
と意気込んで熟考を重ねておりました。
が、気がつけば2024年1月29日、なんと<東京展>は昨日で終わってしまいました。大変!
3月、京都市京セラ美術館に会場を移して開催されるということで <京都展>に間に合うように慌てて投稿しております。
今回はわたし独自の鑑賞法と、特にお気に入りのパートに絞って投稿したいと思います。

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国立西洋美術館の企画展では珍しく(←すみません)教科書的にわかりやすい展示となっているので【キュビスム】をよく理解できる!と、事前に公式HPや美術WEBサイトで概要を抑えていました。
そこで、私なりに<キュビスム展>を10倍楽しむ鑑賞法を実践してきました。

【キュビスム】初心者の私は、相手に迎合したり 柔軟な姿勢を見せることなく、既成概念ギシギシで望むことにします。まず、ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』そしてラファエロ作品を頭の中で思い描きます。

左)レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』1503-1519年頃
右)ラファロ・サンティ『ヒワの聖母』1505-1506年

さらにティツィアーノの『ウルビーノのヴィーナス』。

ティツィアーノ『ウルビーノのヴィーナス』1538年頃

うーーーん。美しい✨。

次に、その後の美術史の流れを “一瞬” で辿るため、モネ『印象、日の出』(1872年)を頭の中でイメージします。マルモッタン美術館ではこの作品の前で涙しそうになりました。

2019年撮影:クロード・モネ『印象、日の出』1872年

歴史や文化、時代と共に絵画も変化してきたのです。
よし、これで準備万端です!

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<キュビスム展>の会場に足を踏み入れるとスタートはやはりセザンヌ。
[第1章 キュビスム以前ーその源泉(Sources of Cubism)]

左)ポール・セザンヌ『4人の水浴の女たち』1877-1878年
右)ポール・セザンヌ『ポントワーズの橋と堰』1881年

これが巨匠の作品?。何だか変、でも不思議なことに とっても気になる作品。。。これぞセザンヌ、さすがです!。
近代美術の幕開けとなったモネやルノワールの【印象派】を吸収しながらも、自らの可能性と個性を追求するセザンヌは、わたしを惹きつける魅力を持っているのです。

お次はアンリ・ルソー。やはり子供が描いたようにしか見えません。

アンリ・ルソー『熱帯風景、オレンジの森の猿たち』1910年頃
注)<京都展>では別の作品が展示されるようです

これなら私にも描けるかも・・・と思わせる斬新さ!。
西洋絵画の知識を持たず、純粋に自らの表現に取り組むアンリ・ルソー。
彼の作品を見出して高く評価した “ピカソの先見の明は凄い!” と痛切に感じました。

後ろを振り向くとアフリカ、オセアニアの彫像が並びます。

左)『ヨンベあるいはウォヨの呪物』(コンゴ共和国)
右)『ダンの戦闘用の仮面』(コートジボワール)

独特なデフォルメが施された彫像や仮面は、着飾ることのない人間の本能が剥き出しになっている気がします。暗がりで見つけたらギョッとしてしまうでしょうね。
全く別の文化や風習から生まれたアフリカやオセアニアの芸術【プリミティブ・アート】には制作者の魂がそのまま彫り込まれているようなパワーがみなぎってみなぎっているのです。

うわーーーっ。展示会場スタートの第1章で、全身がゾワゾワしてきました。
自分の遺伝子には組み込まれていない異物たち、これこそがピカソやブラックの感じた違和感、斬新さ、そして可能性なのですよね、きっと。

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途切れることなく展示作品は続きます。
[第2章「プリミティヴィスム」(“Primitivism”)]
[第3章 キュビスムの誕生ーセザンヌに導かれて(Cézanne as a Role Model)]

【キュビスム】の幕開けとして知られている作品=ピカソ『アヴィニョンの娘たち』(画像・左)の習作とも思える作品(画像・右)が展示されていました。

左)パブロ・ピカソ『アビニョンの娘たち』1907年(※今回は展示なし)
右)パブロ・ピカソ『女性の胸像』1907年(展示作品)

当時 ピカソのアトリエを訪れた仲間たちが衝撃を受けた『アビニョンの娘たち』(画像・左)(※今回は展示されていません)は、わたしの “いつか見たい作品” の一つ。そこに描かれている女性の顔は、今回の展示作品(画像・右)と同じように独特のデフォルメが施されています。松田優作氏ならずとも「なんじゃこりゃあ!」と叫んでしまいそうです。

そんなピカソの挑戦に刺激を受けて、絵画を“新しい空間”へと変容させようと共に歩むことになるブラックの作品も展示されています。

左)ジョルジュ・ブラック『大きな裸婦』1907-1908年
右)ジョルジュ・ブラック『レスタックの高架橋』1908年

ピカソ『アビニョンの娘たち』に衝撃を受けたブラックの描く “プリミティヴィスム”(画像・左)と、 ブラックが憧れていたセザンヌへの探求シリーズ作品(画像・右)。
個人的に、この “セザンヌに導かれて”【キュビスム】が誕生して行く時期の作品群は大好きです。

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何より嬉しかったのは、このスペースにアンドレ・ドランの彫刻があったこと(去年から “とても気なる画家” ベスト1に挙げています)。
ピカソ・ブラックらを【キュビスム】へと導くことになった大きな立役者たてやくしゃの一人がアンドレ・ドランなのです(^^)。

最初にアフリカ・オセアニア芸術に関心を示したのは、アンドレ・ドランとモーリス・ブラマンク。1905年に【フォーヴィスム】でアンリ・マティスと共に野獣のように色彩を解放した二人は、さらに自由な表現を、そして力強い魂を表現すべく探求を続けていたのです。
ヴラマンクが持っていたコートジボワールの彫像を譲り受けたピカソは、『アビニョンの娘たち』の制作に着手します。その制作中(1907年)に、ピカソにトロカデロ民族博物館に行くように勧めたのがアンドレ・ドランです。ピカソは博物館から帰宅後『アビニョンの娘たち』を大幅に描き変えたそうですよ。

そんなアンドレ・ドランが【フォービスム】の色彩を残しつつも【キュビスム】的表現にチャレンジした作品が『浴女たち』(画像・左下)(※今回は展示されていません)。
女性の頭部は仮面を思わせ、身体が幾何学的なブロックで組み立てられているようです。

左)アンドレ・ドラン『浴女たち』1907年  ※今回は展示なし
右)アンドレ・ドラン『立てる裸婦』1907年  展示作品

ワォーーっ!素敵ですね。ニューヨーク近代美術館所蔵の『浴女たち』、是非この目で見たいものです(『アビニョンの娘たち』の近くに展示されている光景を想像するだけで興奮します)。
そして今回の<キュビスム展>に展示されているアンドレ・ドランの彫刻(画像・右上)も面白い!『浴女たち』の真ん中に描かれている女性とシンクロしている気がします。

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いやぁ〜。この第1章から第3章を見ただけで 何かが生まれそうな予感がします。
自分が立っている地面が、大きな音を立てて「ごろんッ」と90°回転する瞬間に立ち会っているようなワクワク感があります。
何度も入り口に戻って追体験してきました(笑。

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そして本展の見どころ、
[第4章 ブラックとピカソーザイルで結ばれた二人(1909-1914年)
The Braque-Picasso “Mountain Rope”]

ピカソとブラック、二人が【キュビスム】史を歩み始めた頃の作品がずら〜っと並んでいます。
以前のわたしであれば「同じような色彩と手法を使って描かれているので、どれか一作品を観れば十分だ」と思ったかもしれません。
しかし、そこはピカソとブラックが刺激を与え合いながら試行錯誤を重ね 自分達が進むべき、いえ【現代美術】が進むべき道を模索しているラボラトリーなのです。

左)パブロ・ピカソ『裸婦』1909年
右)パブロ・ピカソ『肘掛け椅子に座る女性』1910年

この二つの作品↑、魅力的です。
作品に近づいて、描かれている小さなグリッド(格子)を覗き見したあと、作品から離れて全体を感じ、ピカソが「見た」景色を想像して楽しみました。
【分析的キュビスム】と呼ばれるこの頃の作品もいいですねぇ。美しい✨

左)パブロ・ピカソ『ギター奏者』1910年
中)ジョルジュ・ブラック『レスタックのリオ・ティントの工場』1910年
右)ジョルジュ・ブラック『静物』1910-1911年

ブラックの描いた『レスタックのリオ・ティントの工場』(画像・中)には引き込まれました。上に積み重なった工場は崩れ落ちて飛び出してきそうでもあります。しかしどこか温かみを感じるのがブラックらしいのかも知れません。

それぞれの作品で、二人が何にどうチャレンジしたのか わたしには理解することなどできません。
それでも
「あなたがその場所から見える景色を写し取ることだけが絵画ではないはずでしょ⁈」
と私にも突きつけられているようです。
絵画って何?

そんなピカソとブラックの問いかけに耳を傾けていると、ふと 歴史を変えた作品に囲まれて立っている自分に気がついて、胸が高まりました。
だって、ピカソとブラックは画商のカーン・ヴァイラーと専属契約を結んでいたため、当時のパリにおいてもこんな景色を見ることができたのは、ほんの一握りの人しかいないそうですよ!。これほどの作品を一挙に観られることは、ものすごく幸せなのです。

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<キュビスム展>はまだまだ続いていきます。
この調子で各章を語っていたら<京都展>まで終わってしまいそうなので、ここからは一挙に会場を駆け抜けます!。

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ピカソとブラックに刺激を受け、それに続く画家たちの作品が並びます。

左)フアン・グリス『本』1911年
右)フェルナン・レジェ『縫い物をする女性』1910年

↑ この二つの並びも、いいですね。好きです。

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そしてやはり圧巻の『パリ市』。
いつまでも いつまででも観ていられる作品でした。

ロベール・ドローネー『パリ市』1910-1912年

2019年10月にポンピドゥーセンターを訪れたときは観ることができなかったこの作品。4メートルを超す大きなカンヴァスに描かれた三美神に近づいてみると、彼女たちを組み立てている切り子(グリッド)はまるでパッチワークの布のようです。そのひとつ一つの色合い、筆運びに魅せられていると、不思議と写実描写よりも彼女たちの個性・体温が伝わってくるようでした。

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レイモン・デュシャン=ヴィヨンの彫刻『マギー』『座る女性』や『恋人たち』いいですよ。会場でご確認ください。
また、色彩と大きな直線そしてひとつ一つのグリッドを立体的に表現したジャック・ヴィヨンの『行進する兵士たち』(画像・下)はお気に入りの作品の一つです。

ポストカードを購入(ジャック・ヴィヨンの『行進する兵士たち』1913年)

銃を持った兵士たちが私の目の前を行進しているのが見えました。兵士たちは無表情。ちょっと悲しく寒々しい景色ですが、美しい✨のです。

マルシェル・デュシャンしか知りませんでしたが、今後はこの3兄弟に注目!ですね。

デュシャン3兄弟(展示会場にて撮影)
左)三男マルセル・デュシャン
中)長男ジャック・ヴィヨン
右)次男レイモン・デュシャン=ヴィヨン

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その後も美術史の展開は続いていきます。
そうか、ブランクーシやシャガールも【キュビスム】的な表現をしているのですね。

<キュビスム展>公式HPより

東欧からパリにやって来た画家たち、キュビスとたちが迎えた第一次世界大戦。そして【キュビスム】以後。。。

<キュビスム展>公式HPより

最後まで鑑賞してから、また第1章に戻って鑑賞。わたしの美術史の歩みを進めて来ました。
美術展の前半でピカソやブラックと共に、美術史の大きな転換を追体験したわたしにとっては、美術展後半の “【キュビスム】その後の展開” を戸惑うことなく楽しむことができたのです。美しい✨と感じる作品とも出会えました。

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【キュビスム】初心者のわたしも途中で落ちこぼれることなく最後まで現在につながる美術史の道程を辿ることができました。
いえ、【キュビスム】初心者のわたしだからこそ、誰よりも<キュビスム展>をわくわく・ドキドキ楽しめたのではないでしょうか。

<東京展>は終了しましたが、3月から京都市京セラ美術館で<京都展>が開催されます(2024年3月20日(水)〜7月7日(日))。
同じ文脈でも、会場が異なればまた違う印象を受けるはず。。。京都の<キュビスム展>も観てみたくなりました。

<終わり>

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