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ビヨンセとルーヴル美術館からのメッセージ

日めくりルーヴル 2020年9月14日(月)
『黒人女性の肖像』(1800年)マリー=ギエルミーヌ・ブノワ

2018年7月。洋楽のランキング番組を見ていて度肝を抜かれました。
ビヨンセが『モナ・リザ』や『サモトラケのニケ』の前で歌い、踊っているではありませんか!
セット⁈ それとも本当のルーヴル美術館⁈

それはThe Carters(カーター夫妻=ビヨンセとJAY-Z)の新曲 “Apeshit” のミュージック・ビデオ(MV)でした。
『モナ・リザ』に始まり、『ミロのヴィーナス』『ナポレオンの戴冠式』『メデュース号の筏』など、マスター・ピースの前であんな事やこんな事を!
間違いなく本物のルーヴル美術館です。

いいの?こんな事、いいの?
2年前の私にとって、ルーヴル美術館はまだ “いつか訪れたい夢の場所” でした。
もし、他のアーティストが同じことをしていたら、憧れの聖地が軽んじられたような気がして憤っていたかも知れません。

実は、ビヨンセは以前から好きだったアーティスト。さらに2016年に発表されたアルバム『Lemonade』のMVにノックアウトされて、Instagramもフォローしていました。そんなビヨンセのルーヴル美術館ジャックを前に我が家のリビングは興奮のるつぼと化しました(笑)。

美の殿堂・ルーヴル美術館の展示室で、ビヨンセと有色人種の女性ダンサーたちが音楽に合わせて踊る6分間のパフォーマンス。美しい✨。そして込められたビヨンセのメッセージが意味深です。

白人の、主に男性によって華やかに彩られてきた美術史、そして彼らエリート集団による作品を展示するルーヴル美術館は、人種・性差別の象徴なのでしょうか?
そんなこと、考えてもみなかった自分にショックを受けました。

人種差別や宗教問題など、自分自身の問題として実感できない私は、アーティストをはじめとする著名人の作品や発言に「耳を傾け、何かを感じ取り、自分で考えてみることが大切なんだ!」と自分を落ち着かせます。

カーター夫妻から映像のアイディア提案を受けたルーヴル美術館サイドは
 “美術館と作品への深い敬意が感じられた”
と すぐプロジェクトに賛同したそうです。相手への敬意を忘れない批判、そして批判を受け入れる姿勢、さすがです。

そんな衝撃のMVの中で印象に残ったのが、5分37秒にかけて一瞬だけ現れる黒人女性の表情。それが本日のカレンダー作品『黒人女性の肖像』でした。

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“黒人女性” ただ一人を描いた肖像画。1800年の作品で⁈… 見たことないです。
身体にまとっているスカーフと布の白さが際立つカンヴァスをよく見ていると、こちらを見つめる彼女と目が合いました。その控えめながら何かを訴えるような瞳は、モデルではなくこれを描いている画家本人のまなざしであるように感じました。

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描いたのはフランス・新古典主義の画家 マリー・ギエルミーヌ・ブノワ(1768−1826年)… “白人” の “女性” です。

ブノワは、1781年(12歳)の頃からヴィジェ=ルブラン(白人・女性)に絵画を学び、1786年からはダヴィッド(白人・男性)の工房に入り、その後1791年にはサロンに作品を出展しています。エリート・コースではないですか!
1793年には貴族で銀行家の伯爵(白人・男性)と結婚しています。

1794年、それまでフランスの植民地で続いていた奴隷制度は、第一共和制によって廃止が宣言されます。
その廃止宣言から6年後(1800年)に発表したのが『黒人女性の肖像』。
ブノワがどんな問題意識を持ち、何を考えてこの作品を制作したのか…。当時は強い意志と決意が必要であったことに間違いはないでしょう。

しかし1802年、権力を握ったナポレオン・ボナパルトが奴隷制度を復活させ、奴隷労働を合法とします(涙)。
そしてブノワは、ナポレオンの依頼で彼の家族の肖像画を描くことに…!!
彼女が、時の権力者の依頼をどんな気持ちで受け、どんな思いを噛み殺して描いたのか…。

その後のブノワについて調べていると、
「さまざまな公職についた夫の政治的立場を優先して芸術活動から離れた」との記述を見つけました。
筆を持ち続けること=自分の感情を押し殺し、自分自身を偽ることなってしまう…。それに逆らうことができない状況に苦しみ、押しつぶされそうになったのではないでしょうか。
肖像画の黒人女性はブノワ自身であり、自らを解放させたい!と闘っている彼女の叫びが、カンヴァスの中から聞こえてくるようです。

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自分の感情や主張を自らのパフォーマンスで自由に表現できるビヨンセは、力強く眩しいほどに輝いています✨。
時代がそれを許さなかったブノワは、自らが闘った証として作品を残しました。
ビヨンセが、MVでブノワの作品を映し出したことに大きな意義を感じます。

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今回ブノワのことを調べて、思いがけず嬉しい発見がありました。
毎年発売されているフランスの美術切手、2020年は本作品でした!

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たまたま彼女に出会えたのも何かのご縁。早速購入しました!

<終わり>

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