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La Bella Simonetta [Ultima metà]

前回 投稿した<美しきシモネッタ展>前半、そして今回の後半戦。
いずれもマニアックで、自分の思考を辿ってひとりで楽しんでいる内容となっているので、お時間がない方はスルーしてくださいませ。

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[3]シモネッタをモデルにした絵画作品について

“比類なき” 美しさを備えたシモネッタは、多くの芸術家たちを魅了しました。
まずは、ボッティチェリの描いたシモネッタと思われる女性の肖像画がこちら。

左)丸紅ギャラリー(1469-1475年頃)※今回の展示作品
中央)シュテーデル美術館(1480-1485年頃)今回は展示なし
右)ベルリン国立絵画館(1475-1480年頃)今回は展示なし

今回の展示作品(画像・左)だけが唯一、シモネッタの存命中に描かれた可能性がある…と解説に書かれていました。ということは、本物のシモネッタに一番近い肖像画となるのですね。ただ15世紀のことなので、少ない資料からさまざまな説が生まれているようです。ふむふむ。
1476年22-3歳で亡くなったシモネッタ。
確かに画像・中央のシモネッタは少し年齢と経験を重ね、落ち着いた美しさを持つ大人の女性になっているような気がします。
そして画像・右は、ちょっとかたくて怖い…。別人が描いたか、もしくは別の女性を描いた作品のようです。それともボッティチェリがドミニコ会の修道士サヴォナローラの信奉者と成り果てた後の作品なのでしょうか。そうであるならば、制作年数はサヴォナローラ登場後の1494年以降ではないかしら?などと。。。疑問が湧いて資料を読んで、さらに想像が膨らんで…と、この3週間ほど迷子になっていました。

そんな時に見つけた高階秀爾先生の言葉、
「ボッティチェリは “優美で官能的、そして女性的な優しさに溢れている” という一面と、当時の彼に対する評価 “知的で、力強く男性的” という二面性を持っている」。
この3枚のシモネッタの肖像画を見るだけでボッティチェリの持つ多面性に、ふむふむ。
そう考えるといずれもボッティチェリの筆によるシモネッタなんだね、と迷子の自分を落ち着かせることができました。

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シモネッタの葬列を目にしたという 24歳のレオナルド・ダ・ヴィンチ。彼が残した素描『女性の頭部』は、その時のシモネッタではないか、と言われているそうです。

レオナルド・ダ・ヴィンチ『女性の頭部』(1468-75年頃)

柔らかな髪に包まれた顔の輪郭はとても繊細なのですが、瞳だけはかたく・深く閉じられおり、二度と開くことはないようです。永遠の眠りについたシモネッタだ!と思えてきました。
シモネッタと同年代のダ・ヴィンチは「死してなお美しい彼女を何とか描きとどめたい」とその日のうちに筆を走らせたのかも知れません。

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そしてピエロ・ディ・コジモ(1462-1521年)の描いたシモネッタがこちら。

ピエロ・ディ・コジモ『シモネッタ・ヴェスプッチの肖像』1490?年頃

これまた素敵なシモネッタです。
あれ? この作品どこかで見たぞ!と、3年前にパリを旅行した時の写真アルバムを探していたら、ありました、ありました!
シャンティイ城のコンデ美術館に行った時、展示スペースに一枚だけ置かれていた写真。
フランス語がわからないので「この作品は貸し出し中?それとも修復中かしら?わざわざこんな写真を置いてるくらいだから、とても貴重な作品なんだろうなぁ」
と写真をパチリ✨と撮っていました。

2019年10月4日撮影

2019年6月1日から10月6日まで、シャンティイ城の敷地内の特別会場で開催されている<La Joconde Nue(裸のジョコンダ)展>で、この作品を鑑賞してみてはいかがでしょうか。

写真の説明文の内容

そうでした!私がシャンティイ城を訪問したとき、
<裸のジョコンダ(La Joconde Nue)展>
が開催されていたのです(← 帰国後に知りました)。
シャンティ城内にあるコンデ美術館が所蔵するデッサン『裸のジョコンダ』(下の画像・左)は、ダ・ヴィンチの真筆ではないか?という展示会。

『裸のジョコンダ』のサイズはルーブル所蔵の『モナ・リザ』(1503〜1519年)とほぼピッタリ。紫外線、赤外線などさまざまな科学的検証により、ダ・ヴィンチの時代の紙が使われていること、左利きの画家が描いたこと、ダ・ヴィンチのアトリエで描かれたことがわかったそうです!。そしてコンデ美術館の学芸員が「巨匠自身の手による可能性が極めて高い」と発表したのです。

<裸のジョコンダ展>より

当時の私はそんな美術界の大ニュースも知らずに、シャンティイ城にあった展示会のポスターを見て「何だろう?」と素通りしてしまったのです(涙)。この展示会に行けば『裸のジョコンダ』のみならず、ピエロ・ディ・コジモの描いたシモネッタにも逢えたのですね。残念無念。

再登場!ピエロ・ディ・コジモ『シモネッタ・ヴェスプッチの肖像』1490?年頃

さてこちらの作品。
蛇がとぐろを巻いているような変わった髪型…、と思ったら首に巻き付いているのは本物のヘビ⁈。彼女に害を加えようとしているのではなく、彼女に近づく何者かに襲いかかる守り神のようです。透き通るような肌に掛けた布(マント)は少しエキゾチックなテイストなのかしら。胸をハダけている少女は、濁りのない瞳ではるか彼方かなたの「未来」を見つめているのですね。
その「未来」・2022年を生きる私は、“自分の弱さ”を 彼女のまっすぐな眼差しに見透かされているようでドギマギするのです。
ピエロ・ディ・コジモが描いた伝説の女性…。画像で見ているだけなのにノックアウトされそうです。

いやぁ〜、実物を観たかったです。
シャンティイ城のオーマル公の遺言「展示品の配置を絶対に変えてはならない。コレクションの貸し出しを禁止する」がある以上、私がもう一度シャンティイ城のコンデ美術館に足を運ぶしかありませんね。

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少し話は逸れますが、ピエロ・ディ・コジモといえば私の中で “ちょっと変わった絵を描く画家”。
<メトロポリタン美術館展>で『狩りの場面』を観ました。

ピエロ・ディ・コジモ『狩りの場面』1494–1500頃

感想は 「んっ???」。
私はその不思議な世界観が全く理解できなかったのですが、“変わった絵” としてとても印象に残っています。このまま理解できずにモヤモヤしているのは嫌なので、ちょっとだけ調べてみました。
“原始時代に火の有用性を知った人間は、森に生き 動物を狩って生活していた”
という人類の原始時代の様子が知られるようになったのは、なんと15世紀イタリア。古代ローマの詩人ルクレティウス(BC.99−55)の説がルネサンス時代になってやっと見直されたのですね。その原始時代の様子を神話のケンタウロスなどと一緒に描いたのがこちらの作品というわけ。なるほど、少し面白くなっていました。
ピエロ・ディ・コジモ。不思議な世界観を持つ画家の名前を覚えておきましょう。

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[4]シモネッタをとことん堪能する!

大きく話が逸れてしまったのでシモネッタに話を戻します。

「ボッティチェリの神話画に、シモネッタに似ている女性が多く登場するのは、彼が彼女に魅了されていたから」なのでしょうか。

左)『春(プリマヴェーラ)』(1480年頃)部分
中)『ヴィーナスの誕生』(1485年頃)部分
右)『ヴィーナスと三美神から贈り物を授かる若い女性』(1483年頃)部分

私はちょっと違うのではないかと思います。
ボッティチェリはシモネッタという女性に魅了されたのではなく
「自身の作品に描く美しい女性の “原形モデル” としてシモネッタが最適だったから」
のような気がするのです。
なぜそう考えるかというと、彼の描く男性がとても魅力的だから。。。

生涯独身だったボッティチェリ、男色の疑いがかけられたこともあったボッティチェリ。本当に男色だったかどうかはわかりませんが、彼が容姿に関して「魅力的だ」と惹かれる対象は男性だったような気がします。
実は、私も容姿に関して「魅力的」と感じる対象は女性であり、電車に乗っても気になるのは女性ばかり。整った顔の男性がいたとしてもそれほど興味が湧かないのです。
ボッティチェリ「一緒にしないでくれ!」と言われそうですが(笑)。
彼の描く[神話画]の女性が皆同じような顔をしているのに比べて、男性の顔、表情はバラエティ豊か。そして彼の[肖像画]も男性の方が人間味に溢れているのです。

ざっくりとした『男性の肖像』のご紹介をお許しください

この中で、『メダリオンを持つ若い男性の肖像画』(画像・下の段 左から2枚目)が2021年オークションで落札されたときのことを投稿しました。

その作品がこちら(画像・右)。

左)『美しきシモネッタ』※今回の展示作品
右)『メダリオンを持つ若い男性の肖像画』今回展示なし

この若い男性が誰なのかは特定できていないそうなのですが、魅力的ですよね。
シモネッタは作品にきっちり閉じ込められた「静」のイメージですが、この男性は窓枠からはみ出しています。そしてメダルを持つ左手は額縁を越えて近づいて来ているではないですか!目の前にいる男性に触れることができそうで、ドキドキします。

ボッティチェリは[神話画]に登場させる美しい女性のイメージにピッタリの女性=シモネッタに出会い、彼女を基本モデルにすることで、“美しい女性の顔を描くこと” にあまり力を注がなかったのではないでしょうか。そして、同じような顔を何人描いても、全く違和感なく時代を超えた永遠の美を感じ取ることができる…それがシモネッタだったのではないでしょうか。

勝手に憶測を進めて自分一人で楽しんでいることをお許しください。

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そんなことを考えながら展示室でシモネッタに話しかけていると、ふと
シモネッタが鑑賞者から見えない側の左目を閉じてウインクしているような、そんな気がしました。

そんなチャーミングな魅力に溢れたシモネッタ、そしてそれを知っていながら「わかる人にだけわかる」ように描く、そんな遊び心のあるボッティチェリであったら面白いなぁ…と勝手に想像してニタニタしていました。

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実はこの3週間『美しきシモネッタ』を鑑賞するときに流す[音楽]を探していたのです。意外にも私の中ではベートーベンの『エリーゼのために』がピッタリきました。
小学生のとき、同級生が辿々たどたどしく『エリーゼのために』を聞いて以来、ピアノの練習曲のようなイメージを持っていましたが、プロの演奏を聴いてみると何と素敵なメロディなのでしょうか。

ベートーベンが愛する女性を想って残していた小曲。
過度な感情表現を抑えるように、美しい旋律が淡々と繰り返されるのを聞いているとせつなくなってきます。やがて窓の外に広がる雄大で永遠の時間の流れを感じていると、激しく苦しい胸の高鳴りに襲われ…。そしてまた日常に戻っていく。。。
短くも美しい生涯を送った「シモネッタのため」にこの曲を捧げます。

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展示室を出て見つけたのが「プリント アーモンドサブレ」(画像・下)。
お手頃価格だったので5枚入りを3袋購入。埼玉福祉事業協会 あかしあの森 で働く方々がプリントしてくれたシモネッタ・サブレは、甘さ控えめで美味しい✨
<美しきシモネッタ展>とシモネッタ・サブレをおススメするために職場の人に配って、勝手に満足していたのです。

この3週間、ボッティチェリとシモネッタのことを考えて過ごしました(ちょっと異常ですね)。そろそろ年末年始のあれこれを考えることにします。

<終わり>

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