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ルーヴル最大の絵画、その条件。

日めくりルーヴル 2020年9月9日(水)
  『カナの婚礼』(1562−63年)
パオロ・カリアーリ(通称ヴェロネーゼ / 1528−1588年)

“ルーヴル美術館で一番大きい絵画” をしっかり見ておこう!と決めていました。
しかし、昨年10月は<レオナルド・ダ・ヴィンチ展>の開催準備のため、閉鎖しているスペースや作品の移動があり、結局この作品とは会えなかったのです。
残念💦。

題材となっている『カナの婚礼』は、カナ(という場所)で催された婚礼の祝宴に招待されたキリストが、水をワインに変えるという新約聖書に登場する奇跡のエピソードです。
ヴェロネーゼは、1562年にヴェネツィア🇮🇹の修道院から制作依頼を受けます。
その契約条件は詳細に決められていました。
例えば、
1.食堂の奥壁全体を覆う巨大な絵画にすること
2.顔料の品質と種類は最上級のものを使用すること
3.可能な限り多くの人物像を描くこと
などなど。
ヴェロネーゼはこの条件を見事にクリアしたのです。

1.巨大な絵画
指定された修道院食堂の奥壁は66㎡!家族で生活できる広さです。
ヴェロネーゼは15カ月かけて、縦6.77m 横9.94mの大作を完成させました。
それから235年間、この作品はサン・ジョルジョ・マッジョーレ修道院の食堂に飾られていたそうですよ。
想像してください!厳かな修道院の食堂、その奥に広がる華やかな祝宴風景を!敬虔なひととき、というより陽気で賑やかな食事の時間になりそうです。

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興味深いのはその後。
1797年、ナポレオン・ボナパルト🇫🇷 がイタリアに侵攻し、修道院からこの作品を略奪しました。この巨大な絵画を2枚に裁断し、無理やりパリに持ち帰った後で元通りに修復したそうです。恐ろしい話。
他国の芸術品を略奪することで、自分たちが持ち合わせていない 輝かしい歴史や文化が手に入るとでも思ったのでしょうかねぇ。
略奪された後、修道院での食事風景がどんなものだったか…涙が出そうです。

ナポレオン失脚後イタリアから返還要求を受けたフランスは「作品が大きすぎて運送できない!」とキッパリ拒絶。
しかし、普仏戦争の時は箱詰めしてトラックで疎開させ、また第二次世界大戦の時は額から外してグルグル巻きにして運び出したそうですよ(笑)。

2.顔料
出身地のヴェローナからあだ名がついたヴェロネーゼは、ヴェネツィア派を代表する画家の一人です。
それまでのやり方 = 【構図決め → 線描 → 色付け】をしないヴェネツィア派は、直接絵具で描き始め、制作途中でも構図や形、人間のポーズも自由に変更する 感覚的で豊かな色使いが特徴です。それはジョルジョーネからティツィアーノ、そしてティントレット、ヴェロネーゼへ受け継がれました。
ヴェロネーゼはさらにマニエリスムの要素も取り入れ、まばゆいばかりの色彩と光を駆使して、宗教画をも壮麗に描き出したのです。
そんなヴェロネーゼに課せられた ‘高級な顔料の使用‘(例:青色の顔料にはラピスラズリを使用したウルトラマリンを使用すること)は望むところだったかもしれませんね。

実は『カナの婚礼』、その色使いをめぐって芸術界でひと悶着あったそうです。1989年から修復を始めたルーヴル美術館は、画面左下の使用人のタバード(袖なしの上着)の紅い栗色を除去します。「本来の色は緑色だった」と。
ヴェロネーゼ・グリーンですね。

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(画像左:修復前、画像右:修復後)
しかし、緑色を紅い栗色に変更したのはヴェロネーゼ本人である!という批判があり、修復論争に発展したそうです。
後年になって色や筆が足されたことが最新科学で判明しても、それが誰の手によってなされたのか…。んーーっ、難しいですね。

この修復後、作品は大変な目に遭います。
美術館内で漏れた雨水が飛び散ったり、展示の際に床に落として裂け目ができたり…、ぎゃーっ、恐ろしい💦。
今後は何もありませんように、と願うばかりです。

3.多くの人物像
‘可能な限り多くの人物像を!‘ この条件を受け、ヴェロネーゼは130人もの招待客を描いています。うわーっ、何が何だか… とにかく「蜜です!」。
よく見ると、中央には聖母マリアとキリストがいます。
その手前でヴィオラを弾く白い服の男性はヴェロネーゼ本人で、後ろから顔を覗かせるのがティントレット(顔が近い!)、真向かいの赤い服がティツィアーノではないか、と言われています。画面左下の隅でワインを待つのが新郎新婦だそうです。
他にも聖職者、皇帝や国王に政治家や貴族に東方からの客人、一般人や召使…。

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それだけではありません。犬や猫に鳥、料理に楽器…。さらにキリストの受難を予告するアイテムも描き込んでいるそうです。
水で満たされていたはずの水瓶からワインが注がれる様子=奇跡の瞬間✨もしっかり描かれていますね。

これは小さい画像に目を凝らして見ている場合ではないですよ。
壮大なローマ建築の中で人々の談笑、鳥の鳴き声や音楽を聴き、料理やワインの匂いを感じながら遠くまで広がる青い空を見上げたいものです。
次回は、ルーヴル美術館でヴェロネーゼの描いたこの祝宴をじっくり味わいます!!絶対に。

<終わり>

追伸:9月9日は我が家の結婚記念日。カレンダーをめくって『カナの祝宴』を見つけたとき、嬉しかったです。

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