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《松方コレクション展》作品紹介 その2


現在開催中の美術展《松方コレクション展》の作品をご紹介していきます。第ニ回目は 、[第III章 海と船]に展示されている大きな作品です。

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シャルル・コッテ『悲嘆、海の犠牲者』1908−09年 国立西洋美術館所蔵 263cm×347cm

【第I章 ロンドン 〜 第II章 第一次世界大戦まで】

  《松方コレクション展》は、プロローグの『睡蓮』を観た後、地下3階に進みます。そこはまるで古いヨーロッパの美術館。数多くの絵画が、ところ狭しと展示されています。
  「この絵の説明書きはどこにあるの?」とキャプションを探すのに苦労する展示ですが、縦横無尽、作品に囲まれた空間にいるだけでワクワクします。松方氏が共楽美術館を開設していたら、こんな展示方法だったかもしれません。
  ほとんどが国立西洋美術館所蔵作品のはずですが、初めて見るものが多い。こんな素敵な作品もこの美術館にあったのね、と感心しきり。
  絵画だけではありません。ガラスケースには、展示会と銘打った売立目録。その近くには目録の表紙に掲載された作品も展示されています。
  また2016年に発見されたロンドン(パンテクニカン倉庫)で焼失した作品のリストも展示してあります。100年を経て初めて明らかになった事実も多い松方コレクションは、まだまだ解明されていない事も多いようです。

  この展示会には、ガラスケースに入れて絵画の裏面も見られるようになっている作品が2点あります。画廊のラベルや展示会出展のシール、そして差押えの銀行の印(日本語で十五銀行と読めます)もありました。その絵がどこを旅してきたかわかる、パスポートのようなものですね。探してみてください。

【第III章 海と船】

  地下3階から階段を登ると、そこは少し狭い空間。
川崎造船の社長を務めていた松方氏の初期コレクションである、船や海景を主題とする絵画が展示されています。

◎『裕仁殿下のル・アーヴル港到着』ウジェーヌ=ルイ・ジロー
  こんな絵も国立西洋美術館が所蔵していたのですね。

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  皇太子裕仁親王(後の昭和天皇)は日本の地を離れた最初の皇族で、1921年ヨーロッパに6ヶ月滞在されました。皇太子がフランスに到着した様子を注文して描いてもらったそうです。晴れやかな作品ですね。
  同じようにイギリスの港に到着する大型の一対の油彩画は、宮内庁三の丸尚蔵館にあるそうです。こちらも一緒に並べて見たかったですが、今回はこの1枚だけの展示、残念。

◎『水雷艇夜戦の図』チャールズ・ネイピアー・へミー

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  絵画の落ち着く先はいろいろあります。美術館に展示される絵、個人宅のリビングに飾られる絵、企業の社長室に飾られる絵、そして消失したり行方不明になる絵。面白いですね。
  この絵の落ち着き先は、横須賀にある歴史的記念艦「三笠」の食堂。この絵を見ながら皆さん軍艦カレーを食べるのでしょうか。ちょっとスパイスの効いた辛口カレーが似合うかも知れません。

【今日の一枚】
◎本日ご紹介するのがこちら。
シャルル・コッテ『悲嘆、海の犠牲者』1908−09年 国立西洋美術館所蔵 263cm×347cm

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  シャルル・コッテという作家名は初めて聞きました。展示会図録によると、松方氏のパリにおける作品購入の代理人も務めたベネディットの友人であったことから、松方コレクションの仲間入りをしたようです。
 漁夫の死を悲しむ家族や村人たち。海難事故だったのでしょうか、漁夫は何だかキリストの死を思わせる描き方ですね。ちょっと宗教画のようなこの絵は、コッテの代表作の一つと目され、数年後に制作されたほぼ同寸のヴァージョンは、 1912年にフランス国が買い上げ、現在のパリのオルセー美術館が所蔵しているそうです。

  私が今回この絵をご紹介しようと思ったのは、なんと言ってもその大きさ故のエピソードがあったから。263cm×347cmは、松方コレクションの中でも最大級です。

  1959年に松方コレクションは寄贈返還されます。同年1月にフランスより375点が正式に引き渡された後、3月に作品がマルセイユで船に積み込まれるのですが、実は大型作品は一足早く2月にル・アーブル港で積み込まれて出港しているのです。
  大型作品の一つは『地獄の門』、そしてもう一つがこの『悲嘆、海の犠牲者』だったというのですから、面白いですよね。『地獄の門』と並んで船底で海を渡って帰還した作品です。

  以前美術館の学芸員をやっている人に、あまりにも大きな作品は取り扱いが大変だと聞いたことがあります。展示スペースの確保、展示室までの搬入ができないことも多く、一度展示したら今度は動かせないこともあるそうです。
  そういえば国立西洋美術館の常設展で本館2階から新館に入ってすぐに展示されている大作フュースリの『グイド・カヴァルカンティの亡霊に出会うテオドーレ』。

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  こちらは国立西洋美術館が1983年に購入しています。276 x 317㎝の巨大作品。

  今回新館2階で開催されている《モダン・ウーマン展》とは関係ないのですが、やはりいつもの定位置に展示されていました。もしかしたら大きすぎて簡単に移動できないのではないでしょうか。

  コッテの『悲嘆、海の犠牲者』も《松方コレクション展》が終わったら、当分の間は展示するのが難しいかもしれませんね。しっかり目に焼き付けておいてください。

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