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デューラーの自画像

日めくりルーヴル 2020年8月9日(日)
 『(アザミを持った)自画像』1493年 アルブレヒト・デューラー

3年前から西洋絵画鑑賞を始めた “にわか美術ファン” なので、
興味を持って調べた作品や画家以外のことは、まだわかっていません。
逆に、大いに興味があっても 畏れ多くて敬遠している画家もいます。
デューラーは後者。
勝手なイメージですが デューラーは、
 ‘少し神経質で完全主義者、自分を神になぞらえる自意識過剰の大芸術家‘ 。
うーっ、近寄りがたい💦。

8月9日の日めくりカレンダーは、デューラー『(アザミを持った)自画像』。
彼と真剣に向き合うには まだまだ時間がかかりそうなので、今回は<自画像>だけに絞ってデューラーの「経歴」をザックリ辿ってみることにします。

アルブレヒト・デューラー Albrecht Dürer (1471−1528年)
室町時代、日本が未曾有の大乱(応仁の乱)に揺れ動いている1471年、
デューラーは南ドイツのニュルンベルクで生まれました。
レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロと同じ時代を生きたデューラーは、イタリアのルネサンスをドイツに持ち帰ります。ちなみに同じドイツ・ルネサンスの巨匠ルカス・クラーナハとはたった1歳違いです。
デューラーは画家、版画家であり、さらには数学者。自分のイニシャルを組み合わせたモノグラムを作品に描き込んだり、裁判で著作権を争ったり…とにかく
時代の先を行く多才な芸術家でした。

では、彼の描いた<自画像>4作を見てみましょう。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

①『(子供時代)自画像』
銀筆

画像1

<自画像>という独立したジャンルがまだなかった1484年。
13歳のデューラーは工房に入る2年前なので、金細工師の父親から金細工の基礎を学んでいた頃でしょう。
伝統の4分の3正面像。鏡に映る自分の姿を前に一生懸命銀筆を走らせるデューラー少年が描かれています。髪の毛、衣服のヒダ、うんうん いいですね。
そして何といってもこだわりを感じるのが指先!何度か描き直した跡が見えます。鏡を見ながら描いているとしたらこれは左手でしょう。と言うことは右利きかしら? おっ、よく見るとデューラーの左手人差し指の第一関節は少し曲がっていたのですね。
スケッチが現存しているのは、父親が大切に保管していたからだそうです。
でかしたっ、親父さん!

②『(アザミを持った)自画像』 日めくりカレンダーの作品です。

画像2

1493年 当時22歳のデューラーはカンヴァスに自らの姿を描きました。
この作品は、西洋絵画における独立した<自画像>の ごく最初の例らしいです。
房のついた帽子、刺繍を施したブラウス、差し色の赤が効いていますね。
13歳の時と同じ4分の3正面像ですが、今回は鏡の中の自分に目を向けています。少し神経質そうな顔立ちに男性らしいデコルテの青年です。
注目はアザミを持つ手。指の一本一本 その角度にまでこだわったはず。細く尖ったアザミよりも繊細ですね。
今回は両手を描いていますが、よく考えると 鏡を見ながら筆を持つ利き手を描くのって難しいのでは…。あっ、奥の右手(鏡に写る)は筆を持っているように見えてきました。
<自画像>を ‘描こうとしている‘ 若きデューラーがここにいます。

画面上部には「自分の身に起こることは 天の思し召し」と運命を受け入れるような文言が書かれています。


③『(1498年の)自画像』(プラド美術館 所蔵)

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1498年。木版画連作『ヨハネ黙示録』を自費出版(一人の画家による初めての版画集)したことで、一躍人気画家になりました。
終末思想の広がっていた15世紀末に発表されたこの作品は「黙示録」ブームを巻き起こしたそうです。

その年に描いた『(1498年)自画像』。
柔らかくカールした髪の毛や髭の質感、ちょっと触ってみたくなります。
今回はこちらを伺っているような視線を送っています。
「私と、私の画力を見てごらん、凄いだろ?」

衣装は、絞り部分とふっくらとした立体感が上品ですね。
おっ、右手奥には遠くの風景が見えています。イタリアで遠近法や理想的人体について学んできた成果を存分に発揮しているようです。
あれっ、何かが違う…。と思ったら、今回は手袋をつけて手を組み合わせているのですね。これもまた何だか意味深。
そして窓の下に「AD」のモノグラムを発見しました。


④『1500年の自画像』(アルテ・ピナコテーク 所蔵)

画像4


そして1500年。
 真正面を向いた威厳ある姿から、半端ないオーラが放たれています。
デューラーといえばこの姿を思い浮かべます。
右上には「私、ニュルンベルクのアルブレヒト・デューラーが、28歳の時に自身を変わることがない色彩で描いた」とラテン語で、
また左上の目立つ位置に「AD」とモノグラムで署名を描き入れています。
自分が何を追求していくべきなのか、悟った自信と落ち着きでしょうか。

こだわりの長い指は繊細で、人差し指が少し曲がっている 紛れもないあの少年のものです。この手はキリストの祝福のポーズで、‘自らを救世主になぞらえた作品‘ … と言われています。私が ‘自意識過剰な自信家‘ と思ったのもこの作品を知っていたからでした。
しかし… 。
今回、少年時代から<自画像>を辿ってみると、
自分の才能・容姿に自信と誇りを持つようになった大芸術家・デューラーが、私に問いかけているように思えます。
「こんな風に、自信を持って自分自身を見つめられるかい?」

模倣でも追従でもなく、独自に普遍的な美を追求したデューラー。
惹かれます、無性に惹かれます。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

デューラーが書いた家譜や覚書、日記など多くの手記に、彼にまつわるエピソードがたくさん残っています。
▶︎巨大な水柱が天から落ちてくる夢にうなされて、その情景を水彩画に残した
▶︎「目覚めてからはとても創り出しえないような偉大な美しさをもつ画像をしばしば夢の中で見る」
▶︎絵の上にハエを描いて話題作りに利用した
▶︎デューラー家の召使が、絵の上に描かれた蜘蛛の巣を振り払おうとした
▶︎ブリュッセル王宮の施設動物園を見学して「楽園を見物した」と多くの素描を残した
▶︎好奇心旺盛。巨大な鯨が打ち上げられたという噂を聞いて極寒の中を出かけ 熱病に感染、これが亡くなる原因となった

正直で真面目、何にでも真摯に向き合う魅力的な人物に思えます。
線描が美しい水彩画、木版画や銅版画、油彩そして著述活動など、デューラーのことを知るためには、奥が深く まだまだ時間が必要です。
しかし、今回 ‘畏れ‘ が消えた私は、いつか彼に近づける日が来る!と思えるようになりました。
一歩前進しました。

    <終わり>


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