見出し画像

‘光と影の探求者’ へのアプローチ

日めくりルーヴル 2021年6月28日(月)
『ダヴィデ王の手紙を持つバテシバ』(1654年)
レンブラント・ファン・レイン(1606-1669年)

レンブラントのことは まだ好きになれていません。
好きではない → 資料を読まない → 新たな発見がない → 良さがわからない → 好きになれない…という状態が続いています。
しかし、
「ルーヴル美術館で どの作品の前に一番長い時間立っていたか?」
と質問されたら、「バテシバの前」と答えるかも知れません。

画像1

画家本人のことはもちろん、レンブラント作品についてもよくわかっていないのですが、直感的に “好き” な作品と “あまり好きでない” 作品に大きく分かれます。
このバテシバは無性に惹きつけられる “好き” な作品です。

暗がりの中で仄かな光を放つ女性の生々しい身体と物憂げな表情。部屋の奥に広がる深い暗闇に目を凝らしていると、そこに吸い込まれてしまいそうでした。

確か撮影したはず…と iPhoneの写真アルバム<ルーヴル美術館>を探していたら、レンブラントのスペースを撮影した動画を発見。その一室に広がる独特の雰囲気を収めよう!と撮影したレンブラントの18作品。動画のはずなのに、この『バテシバ』の前でしばらく撮影の手が止まって写真のように画面が止まっていました(笑)。

今朝 カレンダーでバテシバを見つけたとき、“レンブラントにアプローチしなさい” と、ルーヴルの神様からの声が聞こえました。

**********

苦手意識のある画家なので、いきなり難しい資料を読み切る自信はありません。そんなときは 子ども向けの本が一番!。
以前、古本屋さんでとてもお安かったので購入した『はじめて読む芸術家ものがたり・レンブラント』。本棚で眠っていました。

対象は中学生くらいでしょうか。90ページほどのハードカバー、図版54点が掲載されており、難しい漢字にはルビがふってあります。私にピッタリ✨。

レンブラントの生涯と代表作品を結びつけて、わかりやすく書かれているので 一気に読めました。
レンブラントの生涯も興味深かったのですが、今回 一番面白かったのは、
第5章 <絵の解釈ということ>。
著者であるゲイリー・シュワルツ(Gary Schwartz)氏が “絵画作品をどう見るか” についての見解を示している章。レンブラントとは直接関係のない部分です。

この本は1993年出版…ということは、28年も昔の本。
したがって全ての情報をそのままインプットすることはできないのですが、考え方はとても参考になりました。

+++第5章 <絵の解釈ということ>+++

シュワルツ氏によると、美術史家は作品から受けたイメージをなんとか解釈しようと ‘絵画作品の特別な意味‘ を言葉にするため様々なアプローチを取るそうです。本書でもいくつか例をあげているのですが、ここでは割愛します。

シュワルツ氏自身は「視覚による解釈と歴史的情報を基にした再構成を組み合わせてアプローチする。なぜなら作品の解釈は作品を見るだけではわからず、制作した画家や作品を捧げられた人々にとってその作品がどんな意味を持っていたか= “作品の当初の意味” を知らなければ、大事な部分を見逃すことになるからだ」(←以上 抜粋)と述べています。

そしてシュワルツ氏は、「 “作品の当初の意味” とは、
作品が生まれる元となるあらゆるもの___画家および、作品の制作目的となった人物・団体・市場の意向と社会における位置、作品の主題や図像的意味、作品の様式、質、価格、関係した全ての人々の間の個人的・社会的・宗教的繋がり、完成した場合の用途、はじめて作品を見た人々の作品に対する批評____などを含んでいる。これら情報を元に再構築を試みるのは非常に難しいのだが、これが理想の解釈法であると考える」と語っています。
“本当にあらゆるものやんか!” と大阪風の突っ込みを入れて…と。

素人の私には これほど広く深い考察は無理なのですが、何となく言わんとすることはわかる!うんうん、と頷きながら読みました。
“画家や作品を捧げられた人々にとってその作品がどんな意味を持っていたか” を重要視する点に共感しました!

**********

さて。
本日の作品『ダヴィデ王の手紙を持つバテシバ』の ‘特別の意味’ を考えるにあたり、私はどうアプローチしようかな…と考えてみました。

◆ 基本知識
この作品は17世紀オランダを代表する画家、レンブラントが48歳頃に描いた傑作の一つであり、レンブラントが描いた最後の女性裸体像。西洋美術史においては【バロック】に分類されています。残念ながらこの作品が描かれた経緯は不明だそうです。
(勉強のためのMemo)この作品が描かれた1654年、日本は江戸時代第4代将軍・徳川家綱の治世⁈ オランダではこんな作品が描かれていたのですね。

◆ 題材からのアプローチ
旧約聖書に出てくるバテシバは、イスラエルの王ダヴィデに仕える兵士ウリヤの妻でしたが、水浴び姿をダヴィデにみそめられ、強引に宮廷に招かれました。この場面を多くの画家が描いています。

画像2

画像は左上から右回りに、
◯ ピーテル・パウル・ルーベンス(1635年頃)
◯ ウィレム・ドロスト(1654年)
(Memo)↑この人はレンブラントの弟子です。
◯ ポール・セザンヌ(1880年頃)
◯ ヤン・ステーン(1670-1675年)
王がみそめるほど魅力的な女性を見事に描くルーベンス…そしてバテシバの魅力に重点を置かないセザンヌ。時代と国を超えて複数の画家が描いたそれぞれのバテシバ。この比較アプローチ、面白い!楽しいです。
考察を深めていくと 新たな “レンブラントらしさ” を見つけられるかも知れません。

◆ レンブラントの変遷
自身が11年前に描いた『バテシバの見繕い』(1643年)と並べてみました。

画像3

前年に『夜警』を完成させて富と名声を得るも、愛妻サスキアが亡くなるという辛い状況にあったレンブラントが描いた1643年の『バテシバの見繕い』。愛妻サスキアの笑顔を思い浮かべて描いたのかもしれません。
それから破産に追い込まれ、女性問題にも悩まされ続けたレンブラントの11年後。1654年に描かれたバテシバに魂が揺さぶられるのは、重みと深さを増した画風の変化だけではなく、画家の人生に理由があるのかも知れません。

視覚による解釈
私は、作品の前に立った時に自分が感じた第一印象と、その時にチョイスした言葉を大切にしたいと思っています。
ルーヴル美術館・レンブラントのスペースで、
暗がりの中で仄かな光を放つ女性の生々しい身体と物憂げな表情
部屋の奥に広がる深い暗闇に目を凝らすと吸い込まれてしまいそう。
と感じて言葉にしました(前述)。
長い時間この作品の前に立っていた理由ですね。

時間を経てiPadで画像や情報を見ていると、いろいろな発見があります。
ほぼ実物大で描かれたバテシバ。手紙を右手に持ち、その表情からダヴィデ王からの誘いを受け入れる覚悟をしているとも思えます。細かい描写も見事ですね。ベッドにかけられたカバーの色合いと相まって、バテシバを照らすのは ‘黄金の光’ のように見えます。
X線調査によると、当初バテシバの頭は空を仰いでいたそうです。確かにドラマティックかも知れませんが、少し首を傾げてうつむくバテシバの方が、内に込めた哀愁を感じることができるように思えます。
またバテシバが右手に持っている手紙は後から書き加えられたとか…。いろいろなことが判明する時代なのですね。

モデル
モデルとなったのは、レンブラントの内縁の妻ヘンドリッキェ。彼女はこの年(1654年)22歳でレンブラントの間にできた娘を出産するのですが、レンブラントとの不貞関係について教会から糾弾されていました。苦悩を浮かべるバテシバの表情と重なる部分があるのかも知れません。

画像4

左は1652年にレンブラントが描いた『ヘンドリッキェ・ストッフェルス』。実物とは少し違うと言われていますが、バテシバには似ているように思います。
(Memo)生涯レンブラントを支え、彼より6年前に死去したヘンドリッキェは、レンブラントと同じ教会に埋葬されているそうです。
“作品の当初の意味” に少しは近づけるでしょうか。

+++++++++++

うわーーーっ。いろいろなアプローチが考えられます。そして各々に真剣に取り組みたいので、かなりの時間が必要です。
よし!今年の夏休みの自由研究は 《レンブラントの描くバテシバの魅力》に決定です!(笑)。

**********

実は今回、資料として2002年に開催された《大レンブラント展》(京都国立博物館・シュテーデル美術館)の図録も準備していました。
世界各国からレンブラントの油彩画が50点近くも集結していたようで、私が “好き” な作品もたくさん見つけました。図録の画像を見るだけでゾクゾクします。
レンブラントの生涯と作品を振り返るのに最適の資料になるはずなのですが、今回はまだ手がつけられていません…💦。
次の機会にガッツリと読み込んで投稿したいと思います!

今回はレンブラントへのアプローチ方法を模索しただけで終わりました。
大人の私には1ヶ月の夏休みがないため(笑)、これから何回にも分けて 少しずつ少しずつ ‘光と影の探求者’ レンブラントに近づいていきたいと思います。

<終わり>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?