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等身大の 《南薫造 展》

「明後日までの招待券があるけど、行きますか?」
「もちろんです!」と東京ステーションギャラリーに行って来ました。

没後70年《南薫造展》。
全く知らないお名前。日本の芸術界は私にとって未知の世界です。
はじめまして、南薫造さま。

明治末から昭和にかけて、官展の中心作家として活躍した南薫造氏(1883-1950年)。東京美術学校卒業後、イギリスなどに留学。帰国後は水彩画、油彩画そして木版画まで多くの作品を残され、母校の教授も勤めていたのですね。

今日は私が印象に残った作品について書かせて下さいませ。

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◉『自画像』(1907年)。
「あっ!藝大の自画像だ!」
昨年10月《藝大コレクション展2020・日本の自画像クロニクル(年代記)》で、104人の【自画像】を見ていたので すぐにピンっと来ました。東京藝術大学で現在も継続している卒業課題として制作する【アレ】ですね。
ということは、私はあなたの作品をすでに見ていたの⁈ と思い《藝大コレクション展》のパンフレットを探してみると…ありました!。

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お名前も知らなかったので、完全にスルーしていました💦すみません。

今日、じっくり拝見しましたよ。
鏡に映る まだ何者でもない自分自身を客観的に見つめる青年は、背伸びすることも誇張もなく、等身大の自分を描いています。その姿勢に好感が持てました(偉そうにすみません)。
私も肩の力を抜いて鑑賞することにします。

と同時に、藝大の展示会でたくさんの【自画像】を見て以来、【自画像】を見るわたしの目が少し肥えてきたかもしれない…と嬉しくなった次第です☺️。

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◉油彩画で一番気になった作品は、イギリス留学時代に描いた『ノースモルトン風景』(1908年)。

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↑ 購入したポストカードを撮影した画像なので、作品から漂う雰囲気が全く伝わらないのが残念です。
英国ノースモルトンにはもちろん行ったことないのですが、静かで深い田舎のヒンヤリした空気の中に 私の身体がすっぽり入り込んで行くような気がしました。

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◉展示会場の所どころに設けられたアクリルケースに入った資料たち。
陳列されたスケッチブックや絵葉書、書籍などが なんともまあ素敵でした✨。

あなたに宛てた高村光太郎氏の絵葉書、あなたが家族に宛てた絵葉書など。いずれもユニークでデザイン画としてもピカイチ。絵を見ているだけで、文字では伝えきれない差出人のニュアンスを感じ取ることができますね。

そして平井武雄氏があなたに宛てた2枚の絵葉書。100mm × 148mm 程の小さな紙なのですが、額に入れて飾りたいほど素敵な絵画作品です。アクリルケース越しに長い時間じっと見つめていました。骨董品屋さんのショーウインドウに飾られたトランペットを飽きずに眺める少年のように(笑)。
何度生まれ変わってもこんな絵葉書を描ける気はしませんが、誰かからこんな便りをいただけたなら、少々つらい事も笑顔で乗り越えて行けそうです。

また、あなたが表紙絵装填を描いた 島崎藤村『食後』。こんな素敵な本が店頭に並んでいたら 迷わす購入しますよ!。現代ではあなたの装填版は入手できないでしょうけれど、『食後』を読んでみることにします。

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他にも、
◉木版画『舟おろし』…細かく荒い “削り” と色合いが好きでした。
◉軸装『テームス河岸図』…イギリスの風景を軸装に⁈。
違和感あるけど面白いですね。
日本の掛け軸にインスピレーションを受けて縦長のカンヴァスに装飾的な世界を描いた、ナビ派のピエール・ボナールと通じるところがあるのかしら?などと思いを巡らせていました。

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さて、この展示会は副題として“まさにニッポンの印象派” とあるのですが、私は特にピンポイントで印象派を意識することはありませんでした。

しかし。
◉あなたが『川原』に描いた “石ころ” を見て、<ブダベスト展>で見たフェレンツィ・カーロイ『小川 II』(1907年・下の画像)の石ころの描き方と似ている!と思ったり…。

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◉この『静物』は、ちょっとセザンヌっぽいかなぁ…とか。
◉『風景(新橋)』(1930年)を見て、マルケが新橋を描くとこんな感じかな…とか。
◉『池畔夏景』(1937年)を見て、以前埼玉県立近大美術館で見たクロード・モネの初期作品『ルエルの眺め』(下の画像)を思い出したり…。

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ちょくちょく西洋絵画を思い浮かべるのは、私が西洋絵画を好きだからなのか、それともあなたが西洋画の作品や作家から多くの影響を受けていた証なのでしょうか。

そういえば、黒田清輝氏の描く西洋画は、誰のものでもない黒田清輝なんだよなぁ。そういう意味でやはりすごい人なのかも…。と訳のわからないことを思いながら会場を後にしました。

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南薫造さま。
とても落ち着いた気持ちでじっくり鑑賞することができる展示会でした。
激動の20世紀前半、一人の日本人画家が世界の中で、そして日本において何を考えてどのように生きていたのか、あなたの作品とともに一緒に歩んで行けた気がします。ゆっくり、着実に。

そうか。
等身大の自分を見つめていた【自画像】。あの時のあなたの気取らない姿勢が、展示されている作品のすべてに表れているのですね。
見栄っ張りの私にとって、気取りや誇張のない自分を見せることは簡単ではないのですが…。無理せず着実に歩んでいくことにします。

<終わり>

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