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<メトロポリタン美術館展>「最初の」一枚

2022年「最初の」告白をします。
我慢しようとしたのですが、辛抱しきれませんでした。
理性的に抑えようとすればするほど感情が先走り、そのことばかり考えてソワソワしていました。
実際に行動に移した後、投稿することも躊躇ためらっていたのですが、新しい年になったので解禁です。

2021年12月15日、<メトロポリタン美術館展>を観るために大阪に行きました。

仕事の予定がなくなり空白の一日ができたことで、
“自由に移動するご時世ではない”、“お金がもったいない”、“時間がない”
という私の歯止め、の一角が崩れ、たがが外れたのでしょう。
気がつけば早朝の新幹線に飛び乗って大阪に向かっていたのです。

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行ってよかったです。新年を落ち着いた気持ちで迎えることができました✨。

日本初公開が46作品。初期ルネサンスからポスト印象派まで西洋美術史の500年がギュッと詰まった素晴らしい美術展でした。
いま思い出しても気持ちが高揚し、簡潔に感想を述べることはできません。
なのでテーマを絞って、少しずつ投稿したい!と思っています。

今回のテーマは「展示会場で どんな風に作品を展示するか」。

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同じ美術展を観るために同じ会場に何度も足を運んだことがあります。
<ビュールレ・コレクション展>は国立新美術館で、<ロンドン・ナショナル・ギャラリー展>は国立西洋美術館で複数回 鑑賞しました。

同じ画家の美術展であれば、2019年にマルモッタン・モネ美術館で<モンドリアン展>を見た後、2021年に東京のSOMPO美術館で<モンドリアン展>見ました。ただこちらは出品作品が大きく異なっていたので “同じ美術展” とはいえないですね。

今回、同じ<メトロポリタン美術館展>を大阪市立美術館 → 2月に国立新美術館で観るのがとても楽しみです。展示作品は同じはずなので、展示順序やその配置が大きな注目ポイントになります。

主催者や学芸員が来日した作品をどのような文脈で捉えて観客に伝えるのか、
作品の材質や状態などの制約、
観客の動線(観客が集中する作品など)も勘案した会場の物理的問題、
などによって配置が変わってくるのだと思います。

先行する大阪市立美術館の展示、しっかり鑑賞してきましたよ!

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おっ。トップバッターはこれですか。

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「最初の」一枚、大阪市立美術館の場合は、
フラ・アンジェリコ、ラファエロ、フィリッポリッピという知名度が高い画家の作品ではありませんでした。カルロ・クリヴェッリやバウツの『聖母子』というお決まりの主題作品でもありません。

① 作者 … 知名度がそれほど高くない、ヘラルト・ダーフィットの
② 作品 …『エジプトへの逃避途上の休息』(1512−15年頃)という題材。
ちょっと意外でした。

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② 作品について
 “エジプトへの逃避 ” とは、未来の救世主(キリスト)に王の座を奪われることを恐れたヘロデ王が、ベツレヘム中の幼児を虐殺し始めたので、エジプトへ逃げるという話です。
画面の手前に 授乳する聖母マリアと幼児キリスト、右奥の森にはロバに乗った聖母子と父ヨセフがいます。異なる時間の出来事を1つの画面に表す=異時同図法で描かれているのですね。

① 作者について
ヘラルト・ダーフィット(1455年頃-1523年)は、初期ネーデルラント(北方ルネサンス)期を代表する画家。
お恥ずかしながら全く存じ上げておりませんでした。

手持ちの資料やインターネットで作品を鑑賞しながら、ダーフィットに近づきたいと思います。

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まずは同じ主題でダーフィットが描いた2つの『エジプトへの逃避途上の休息』から。

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左)今回の出品作。1512-1515年頃に描かれた作品(メトロポリタン美術館)
右)1510年頃に描いた作品(ワシントン・ナショナル・ギャラリー)

遠くまで続くネーデルラントの風景は、どんどん青味がかりかすんで光に溶け込んで消えていく空気遠近法で表現されています。
レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』の制作年が1503-1519年というのですから、まさに同世代。ダーフィットの作品からイタリア・ルネサンスとの関係が見られるのですね。
ダーフィットはこの主題を好んでいたそうですよ。

同じく15世紀初期のネーデルラント画家であるヤン・ファン・エイクの描いた聖母子(下左)、メムリンクが描く聖母子(下右)と比べてみると…。

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ダーフィットが研究したという巨匠二人の聖母は、神々しく 近寄り難い存在として描かれているであるのに対し、
ダーフィットの描く聖母の眼差しは我が子に優しく向けられており、とても親しみが持てます。普通の母子として描かれた聖家族は、逃避途中であるにもかかわらず 牧歌的で微笑ましいのです。

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「革新的というよりさまざまな要素を取り入れるタイプのダーフィットは、静穏で信仰心に満ちた宗教画の制作を最も得意とした」(「世界の美術」より)そうですが、こんな作品も残しています。

『十字架にかけられるキリスト』(1481年)(ロンドン・ナショナル・ギャラリー)

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まさに今、キリストがはりつけにされている場面をリアルに描いています。こんな作品は初めて見ました。

『シザムネスの皮剥ぎ』(1498年)(グルーニンヘ美術館)

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賄賂を受け取ったシザムネス判事が ‘皮剥ぎの刑’ に処せられている場面です。
全身を覆う表面の皮一枚がキレイに剥がされていきます。ものすごいリアルな表現…。夢に出てきそうです。

対象を真面目に取り扱い、優れた現実主義で人物を描写し細部まで正確に整った世界を描く…どちらもネーデルラント絵画の伝統を手堅く継承した作品ですね。
いやぁ〜、ヘラルト・ダーフィット。面白い画家です!。
他のネーデルラントの画家たちとの関係をもっと勉強したくなりました。

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今回の<メトロポリタン美術館展>の「最初の」一枚に選ばれたダーフィット。
伝統的なネーデルラント絵画を継承しつつ、宗教主題の風俗化など イタリア・ルネサンスとの関係をも表現した画家。
そんなダーフィットの絵画を世界で最も多く所蔵しているのは、メトロポリタン美術館なのだそうです!
なるほど。<メトロポリタン美術館展>の「最初の」一枚に選ばれた理由はこんなところにあるのですね。納得です。

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さて2月から始まる東京・国立新美術館での<メトロポリタン美術館展>。
「最初の」一枚に選ばれる作品は何でしょう。
楽しみで仕方ありません。

<終わり>

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