AΩ 超空想科学怪奇譚 感想

8月26日にある小説を購入した。
小林泰三の小説「AΩ 超空想科学怪奇譚」を購入した。
今回の記事では、この小説の感想を書いていきたい。


1.あらすじ


大怪獣とヒーローが、 この世を地獄に変える。

旅客機の墜落事故が発生。
凄惨な事故に生存者は皆無だったが、諸星隼人は一本の腕から再生し蘇った。
奇妙な復活劇の後、異様な事件が隼人の周りで起き始める。
謎の新興宗教「アルファ・オメガ」の台頭、破壊の限りを尽くす大怪獣の出現。
そして巨大な「超人」への変身――宇宙生命体“ガ”によって生まれ変わり人類を救う戦いに身を投じた隼人が直面したのは、血肉にまみれた地獄だった。
科学的見地から描き抜かれた、超SFハード・バトルアクション。

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2.圧倒的な汁気と血肉

冒頭からしてかなり汁と血肉、腐敗した屍とどぎつい描写があった。
最初は隼人の妻である沙織の視点から物語が動く。
死体安置室と遺族との面会シーンであるため、とても凄惨な現場だ。
死体に蛆がわいていたり汁と血肉が描かれているものの、淡々と文章を綴っているため、煽情的な恐怖よりは夫の一本の腕を見て死体を物と捉えてしまった沙織であったり、安置所で勤務している解剖医や警官の心の摩耗が伝わった。

隼人が蘇ってからは凄惨な展開がより苛烈になる。
物語の中では「影」という敵が出てきており、影が人間や動物などを取り込んで生み出したレプリカントと呼ばれる存在が出てくる。
レプリカントはウルトラマンにおける怪獣である。
このレプリカントとその背後に潜む「影」を倒すために隼人をウルトラマンのような巨人(といっても4メートルほどである)に変えるのだが、この形態は血圧や呼吸量などの側面から人体に多大な負荷をかけるのだ。
そのため、足が崩壊したり、寝ている間に皮膚がはがれて血塗れになったり、鼻が取れたりするのだ。

レプリカントの描写も凄惨極まるものだ。
沙織の妹・千秋がレプリカント化してしまうのだが、肉体が崩壊するときに周囲に黄色い液体をまき散らしたり、壁に体が埋まっていたり壁から直接頭部が生えたりするなどグロテスクである。
カルト組織アルファ・オメガの根拠地に潜入するのだが、信者たちがレプリカントと化しており、壁に信者たちの顔が浮かんでいたり、液体にレプリカントの体液が混入したりする。

まるで地獄のような凄惨な様子が淡々とした文章で描かれている。

3.クトゥルー神話的なウルトラマン

この小説はクトゥルー神話的な表現が描かれる。
ガの本名がようぐそうとほうとふであるのだが、これはヨグ=ソトースのことだろう。
だが、そういった名称だけではなかったのだ。

隼人は物語の終盤において、遂にガと対話を果たすことになる。
隼人はアルファ・オメガに誘拐された妻・沙織を救出するために各地を歩き回っているのだが、超人に変身しての戦闘や自殺を図ったために肉体の寿命はわずかだった。
そんな彼が妻を探すために一時的にガが隼人の肉体から離れて、沙織を捜索することになる。
ガが隼人の肉体を離れるときに青い光が生じるのだ。
そんな青い光が発生したとき、隼人が死亡したときに安置所の警護をしていた唐松が現れる。
青い光を見たときに唐松は吐き気に襲われる。
その後、紆余曲折あって唐松と隼人が協力して沙織を救出するも隼人が宇宙に旅立つ。その青い光が生まれるのを遠くから見た唐松は吐き気に襲われるのだ。
そんな彼のその後を唐松は吐き気と下痢、意識混濁に襲われた、と地の文で説明している。

唐松の症状とその後の様子から鑑みるとガの発する青い光はチェレンコフ放射光だろう。

高エネルギーの荷電粒子が水などの透明な物質を通過する際に、その粒子の電磁場によって物質中の原子・分子が分極して励起状態となり、その後元の安定状態に戻る際に青白い可視光線を放出する現象をいう。この光をチェレンコフ放射光又は単にチェレンコフ光と呼ぶ。

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プール型原子炉や使用済み燃料プールなど放射線量の多い場所で見られるものだ。
その光を浴びた、つまり唐松は放射線を大量に浴びたのだ。

だが、恐ろしい点はガが唐松に危害を加えようとして青い光になったのではなくて、沙織を捜索するために青い光と化したのだ。
人智を超えた生物の都合で被ばくする、翻弄されるというのはクトゥルー神話的と言えるのではないだろうか。

4.結論

とても面白かった。
血肉が飛び散り、死肉に蛆がわく世界観だというのにとても爽やかな読後感を抱いた。
また、今作でのウルトラマンはプラズマ生命体であるのだが、人間ではない神話的なスケールをもつ存在によって、命や価値観を蹂躙されるのはクトゥルー神話を想起させられた。
特撮やウルトラマン、クトゥルー神話が好きな方は読んではいかがだろうか。

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