見出し画像

現代人は(ファストじゃない)教養の夢を見るか?

昨年、Yahoo検索大賞2022でネクストブレイクに山田玲司が選出された。
ところで、昨年はファスト映画やファスト教養などが話題になった。
ファスト映画は裁判になり、ファスト教養は新書として発売された。
このように映画の感想や教養などを手軽にかつ手早く身につけたいという価値観が現れた。
そんな時代に映画や文芸・アニメの批評や解説を手軽に行うのではなく、長い時間をかけて一から解説する番組を紹介しよう。

1.山田玲司のヤングサンデー

1-1 解説

山田玲司氏は漫画家である。
Bバージンやアガペイズ、ゼブラーマンなどを発表してきた。
そんな漫画家の山田玲司氏が、アニメ・小説・漫画・映画・音楽などの本質を探究するバラエティが「山田玲司のヤングサンデー」である。

1-2 私が知ったきっかけ

私がYouTubeを視聴していた時、ガンダムの解説動画を見つけた。
初めて山田玲司の動画を見たときは衝撃的だった。
普通の解説動画では、物語のあらすじや設定などに留まるが、山田玲司の動画は違った。
作者の説明、作者が製作するに至った経緯、作品が公開された時期の時事や流行など、作品の内側だけではなく外側も踏まえて作品を解説する重厚なボリュームに私は興奮した。

1-3 おすすめポイント

「山田玲司のヤングサンデー」には山田玲司氏だけではなく、色々な方が出演している。山田玲司氏の解説は面白いが、アニメを1話見ただけで結論を言い切ったり、よくわからないことを言ったりする。そのため、ツッコミ役として反論したり、相槌をうったり、賛成したりするのだ。
解説動画にありがちな閉じてコントロールされたやり取りではなく、山田玲司氏の解説や出演者の反応、そして視聴者のコメントが開いたやり取りを生み出すのがおすすめだ。

2.マクガイヤーチャンネル

2-1 解説

マクガイヤーチャンネルはDr.マクガイヤーがニコニコ動画、YouTubeで運営しているチャンネルだ。
映画やアニメ、おもちゃなどのサブカルチャーの解説をしている。
つまり、先ほど説明した「山田玲司のヤングサンデー」と趣旨は似ている。
実際、マクガイヤー氏が山田玲司のヤングサンデーに出演したり、逆に山田玲司氏がマクガイヤーチャンネルに出演することもある。

2-2 私が知ったきっかけ

私がこのチャンネルを知ったきっかけは氏のブログからである。
まず、私は伊藤計劃の小説「虐殺器官」にハマっていて、インターネットで「伊藤計劃 虐殺器官」と検索したりした。それで考察や伊藤計劃のブログの魚拓を見つけたりして読んでいたのである。
それからある日のことである。偶然にも「冒険野郎マクガイヤー」というブログを見つけたのである。見つけたときは、冒険野郎マクガイヤー……マクガイバーじゃないのかと思ったが、早速ブログを読んだのである。
映画業界人の名前を出したり、川村元気にキュウベェの台詞を言わせたり、評論家の話をしたりと、多くの知識を総動員してパロディに走ったりする……これって伊藤計劃の文体じゃん。

2-3 魅力

マクガイヤー氏の魅力はその知識量である。
氏の動画チャンネルでは様々な内容を配信している。
時事――政治家や芸能人の不祥事や選挙――であったり、ワクチンやウイルスの話などの真面目な内容があれば、アニメや漫画、映画の話をしたり、特撮やおもちゃなどのオタク向けのサブカルチャーの話をする。
時々、AVやエロ漫画の話やほとんどセクハラまがいの話をしたりと、多種多様な配信内容がある。
氏の知識量の膨大さ、時事やアニメを絡めて話をしたりするなどのアクロバティックさ、サングラスとひげの怪しさなどが相まって楽しめるのが魅力である。

終わりに

以上が紹介したいチャンネルである。
どれも動画の再生時間は長くて(短くておよそ1時間)、動画の続きを再生するためには有料会員にならなくてはならない。
どちらのチャンネルも配信をフルで視聴しようとすると、2時間を越えたりする。手早くかつ手軽に再生することはできないし、批評のために作品だけでなく時事や作家の経歴、過去の作品を言及していく。
このように遠回りして解説することは、今の時代性に逆行している。
だが、作品を評することや楽しむこと、そして教養は遠回りしなければならないのであろうか。
例えば、夏アニメだからとか流行っているからとかではなくて、監督が同じだから見ることがアニメの楽しみ方を広げるのではないだろうか。
だが、これは苦しさも伴う。昔のアニメだから作画崩壊が気になったり、作品によっては合わなかったりすることもある。
私が富野由悠季監督のGレコを放送当時(2014年)に見たとき、最初の1,2話でギブアップした。だが、ザンボット3やガンダム、イデオンといった80年代までの富野作品、逆襲のシャアやvガンダムなどの80年代と90年代の富野作品、ブレンパワード、∀、キングゲイナーなどの白富野作品を見てからGレコを見ると楽しめたのである。
モビルスーツのアクション、キャラクターの快活なやり取り、世界観や風刺などが楽しめるようになった。
これは、同じ監督のアニメを視聴して見方が分かるようになったから、楽しめるようになったのだと私は思う。

何故、私がこの記事を書いたか。
それは私自身がファスト教養的であるからだと思う。
私は歴史を学ぶことが好きだが本から知識を得ることよりも、YouTubeなどの動画サイトで歴史解説を見たりするようになってしまった。
実際に社会人は時間がない。仕事が終われば疲れるし、わずかな時間を見つけて調べたりするほかない。
だが、教養はゆとりがあるべきだ。
学校(school)はギリシャ語の余暇、暇を語源に持つそうだ。
暇であるから周囲に興味をわいたり、ゆっくり知識を得られるのだ。
民主主義も暇であるからこそ、各々の考え方をぶつけてより良い意見を作り上げるのだ。
だが、今の時代は暇がない。
そんな時代に生まれ育ち、死んでいく私はジレンマに苦しむのだ。
やれやれ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?