経営承継円滑化法-事業承継税制

記事概要

・ 事業承継税制は、事業の後継者に対し、引き継ぐ会社の株式等に関する贈与税、相続税を猶予、免除する制度です。
・ 納税猶予を継続し、納税免除を受けるためには、基本的に後継者は事業を維持しないといけません。
・ デメリットを踏まえ、ほかの制度も合わせて検討することが重要です。

 こんにちは、弁護士の高田です。今回は、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(略称:経営承継円滑化法)についてです。
 この法律自体は実は平成20年からある法律で、既に10年以上経っていますが、近年注目されています。それは、平成30年度税制改正によって新たに法人版事業承継税制の特例措置が設けられたためです。

 これを使えば、後継者に生じる株式等に関する贈与税、相続税がすべて免除される可能性があります。

 事業承継税制を利用するためには、経営承継円滑化法第12条に定める経済産業大臣の認定を受ける必要があります。そのため、同法が注目されています。

 経営承継円滑化法では、事業承継税制のための認定制度の外、遺留分に関する民法の特例を定めたり、後継者のための資金需要に関する融資、保証の特例もによる金融支援定めていますが(中小企業庁に特集ページがあります。)、それはここでは触れません。

法人版事業承継税制概要

 事業承継税制には法人版と個人版がありますが、ここでは特例措置が設けられた法人版で説明をします。

 特例措置の事業承継税制が適用された場合後継者が引き継ぐ全株式の贈与税・相続税の納税が猶予され、後継者が死亡等すると猶予された納税が免除されます(租税特別措置法第70条の7の5から70条の7の8)。

 会社を承継するということは、多くの中小企業の場合、株式を承継することです。先代経営者の保有する多くの株式を承継することで、会社の決定権を保有し、会社を経営していくことになります。
 しかし、株式は会社の価値を反映するものですから、中小企業でも発行済み株式を合わせると数千万から億単位の評価額があることがザラです。

 後継者がこの株式を引き継ぐ方法として大きく分けると、買う、贈与を受ける、相続する、ということになりますが、買うには購入資金、贈与を受ければ贈与税相続なら相続税のために多額の資金が必要となります。数百万、規模によっては数千万のお金が必要なこともあります。これだけのお金を用意して事業承継に備えている後継者はそうはいません。

 事業承継税制とは、事業の継続を条件に、先代から後継者に引き継がれる株式等に関してかかる、こうした多額の税金を猶予・免除する制度です。

特例措置、一般措置の違い

 法人版事業承継税制については、平成30年度税制改正で設けられた特例措置と、それ以前から設けられていた一般措置があります。概要は、国税庁ホームページで公表されている制度のあらましに掲載されている図を以下の通り転載します。

キャプチャ

 特例措置は、事前の計画策定適用期限がありますが、その代わりに、贈与でも相続でも全株式を対象に納税が100%猶予、免除となる、承継パターンも柔軟になる、途中で事業が続けられなくなった時にも一部免除がある、といったメリットがあります。
 一般措置だと、そもそも対象株式は総株式の3分の2まで、しかも贈与については納税猶予割合は100%ですが、相続だと80%しか猶予になりません。つまり、一般措置で相続の場合は、3分の2×80%=53%強しか猶予、免除がないことになります。

 事前の計画策定については、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の関与が必要ですし、実際にご自身で計画をすべて作るのは困難ですから、支援機関にご相談されるのが基本です。
 認定支援機関は税理士や公認会計士、中小企業診断士や商工会等のうち、専門知識や一定の実務経験等を持つことを国が審査し認定したものです。リンクの中小企業庁の認定支援機関に関するホームページからお近くの認定支援機関を検索することもできます。

納税猶予の要件の概要

 事業承継税制の適用を受け、納税猶予を受けるための要件は大きく3つあり、①会社、②後継者(受贈者)、③先代経営者についてそれぞれ要件があります。ほかに、担保の提供が必要となりますが、これは対象となる株式を担保とすることで大丈夫なことになっています

 ①会社については、簡単に言えば、よくイメージされる中小企業であることが要件です
 上場していない、経営円滑化法に定める中小企業者に該当する、風俗営業会社でない、資産管理会社(事業を行っている場合は別)でないこと、などが要件になります。

 ②後継者(受贈者)は、成人している会社の代表権を持つ者で、同族で株式の過半数を有したうえで、贈与や相続を受けることでその筆頭になることが要件です。

 ③先代経営者は、会社の代表権を有していたこと、贈与、相続の直前において同族で株式の過半数を有していて同族内で筆頭であったこと、贈与の場合、贈与時点で代表権を有していないこと、が要件になります。

 想定されるのは、
・ 先代経営者が自分が代表取締役である会社の過半数の株式を有している。
・ その保有株式を、同じく代表取締役になっている後継者に贈与する。
・ 贈与する前には先代経営者は代表取締役を降りて、後継者が株式の所有においても経営の権限においても実権を握る。
 という感じです。

 また、納税猶予を受けている期間のうち、5年間は、基本的に雇用の8割を維持しなければいけませんし、後継者は代表者でかつ株式を保有し続けなければいけません。会社も、対象となる会社の要件を守らなければいけませんので、会社を売却したり、上場させたりすると、猶予を受けられなくなります。

納税免除となる場合

 制度の適用を受けても、それはあくまで納税を猶予されているだけなので、その後に免除となることが実は更に重要です。

 典型的な納税免除となる場合は、以下の3つです。
・ 先代経営者の死亡
 
贈与税が免除となって、相続または遺贈による所得となる。このとき、相続税の納税猶予を使えば引き続き納税が猶予されたままになる。

・ 後継者の死亡
 
猶予を受けたまま後継者がなくなれば、後継者については納税が免除される。後継者から相続するさらに下の世代には課税がありますので、その時利用できる制度をまた確認しないといけません。

・ 承継期間経過後に免除対象となる贈与をした場合
 これは、承継期間(基本的に5年)経過後に、さらに事業承継税制の対象となる贈与を行った場合です。要は、さらに次の代への事業承継をした場合になります。
 この場合も、事業承継税制の各要件に該当しなくてはいけませんので、要注意です。

 イメージとしては、事業承継がなされて後継者が会社を維持している場合は、贈与をした先代経営者が亡くなると贈与税が免除されて相続税に振り替わり、最終的に後継者の方が亡くなるとそれも免除される、もしくは、さらに事業を承継させたら後継者の方は免除される、という感じです。

 最終的に、どこかの段階で会社が大きくなったり、逆に畳むことになったとき、事業承継税制が途切れたところで課税を受けることになります。

 事業承継税制を使った後継者の人は、とにかく自分が負う分は先送りにして、そのまま亡くなるまで会社を維持するか、誰かに引き継いでもらうことができれば税金を免除してもらえる、ということになります。

デメリット、注意点

 事業承継税制は、うまくいけば後継者の方が負担することになる会社株式に関する贈与税、相続税が0になる制度ですが、免除に辿り着くまでに会社がダメになったり、後継者の方が会社の経営を続けられなくなると、途端に猶予されていた納税義務が発生します。

 制度を使って猶予を受けると、免除を受けるためには後継者を見つけて事業を引き継ぐか、死ぬまで会社を維持するかという状況になりますので、そこまでの負担があっても、猶予を受ける必要があるかどうか、よく考える必要があります。

 評価額がそこまで大きくなかったり、ほかにめぼしい財産がなければ、相続時精算課税制度を使って贈与税を軽減し、相続時には基礎控除によってほとんど税金がかからないこともあります。
 どのような制度を利用するのがよいか、必ず認定支援機関等にご相談いただいた上で検討いただくことをお勧めします。

 また、これは事業承継税制だけに限った話ではありませんが、先代経営者の財産において、経営する会社の株式の評価額の占める割合が高いと(財産の多くが会社株式の場合)、後継者にだけ株式を贈与、相続させるとほかの相続人の方の遺留分を侵害することがあります。そうすると、後継者の方は、せっかく納税は猶予、免除されても、ほかの相続人の方に対して遺留分に相当する金銭を支払う必要が出てくる可能性があります

 この点については、経営承継円滑化法で遺留分に関する民法の特例を定めていたりしますが、その適用についてはかなり難しい問題もありますので、後継者に株式を承継させるときには、よく気を付けないといけないと思います。

以上