「役に立つ資格 【検索】」「行政書士 役に立つ 【検索】」

「行政書士試験に合格すれば、定年後の再就職につながるから」
そんな発言を聞いて「どひゃあ」と思ってしまいました。

いやいやでもこれ、行政書士試験だけの話ではないと思うのです。
世にあふれる「この資格は役に立つ/無駄」の流れの中で、「役に立つ」と言われたら「再就職できる」と解釈したくなるのも、感覚として分かります。

そんな流れに向けて、
「『役に立つ資格』は何の役に立つのだろう?」
「結局、何が欲しくてそんなことを調べてしまうんだろう?」
「それなら、私たちは何をすべきなんだろうか?」
と、ちょっとだけ棹をさしてみようと思います。

まず最初に:「「役に立つ資格」を語る資格」があるのか、という話

ええまあ、役に立つ立たないとかさあ、と話し始めたところで、そういうおまえはどうなんだ、という矢は絶対に飛んできますよね。

ご安心ください、資格マニアなんで。

まず行政書士試験に合格し、使用人行政書士として働いております。
そしてほかにも、語学検定、漢検や秘書検定のような有名どころ、一般に役に立つと言えば出て来る簿記2級、タイピング検定のようなマイナー試験、アマチュア無線や運行管理者のようないわゆる「文系資格」から外れたところや、ヘルパー(旧制度)、着付けのお免状まで。そしてあれが「資格試験」に含まれているのはやや違和感があるのですけれども、資格ガイドなどには載っていますよね、公務員試験。一応ほら、前職公務員ですので合格しております。

転職付近でキャリアカウンセリングを受けようとした際、与えられた書類に書ききれるわけがないので面倒になってエクセルファイルをそのまま送付したところ(本人も覚えていられないので一覧表で管理しています)、大量の人の資格を見ているはずのカウンセラーにまで「こんなにたくさんある人見たことない」と言われました。
少なくとも数だけでは負けません。ご安心を。

また、実際に就職と転職のムーブを経ており、社会人としてももうすぐ5年、年齢も今年30になりますので、そろそろ「社会で役に立つ」を語っても良いのじゃないかなと思います。

役に立つとは何か

これだけたくさんの資格・検定に合格していれば、役に立ったものもあれば無駄だったものもあるだろう、と思うのが当然かと思います。まずは具体的に自分のことから考えてみましょう。

明確に「役に立った」資格

・公務員試験合格:もちろん就職につながったわけですが(そのための試験ですしね)、試験のための勉強で法律に触れたことが、行政書士試験の受験につながったことも大きいです。

・簿記:行政書士は企業のお会計を見ることも多く、所属法人のお会計管理もあって、何やかんや使っています。将来開業することになっても安心。

・行政書士試験合格:前職がつらすぎて「ああもう無理!とにかくここから逃げ出したい!」となったとき、たまたま試験を受けていたのは僥倖ラッキーでした。

・語学:仕事で見知らぬ言語の文章が舞い込んできたり、代表が外国人の方である場合に訳を添付したり。また、日常生活でも海外メディアなどから情報を得られるのはシンプルに世界が広がるので良いと思います。

・小型特殊自動車免許:住基カードが十分に浸透する前にマイナンバーカードの話が出てきてしまったために、身分証の一覧に住基カードが含まれていなかったり(知られていなさすぎて突っ返されかけたことも!)、みんな持っていると思い込んでいるのかいきなり運転免許を…と指定されることもあって、マイナンバーカードを持たない身としては小型特殊でも免許は免許、身分証として最強です。ペーパーだけで取れますしね。

・大学の学位:ぶっちゃけ社会に出たら修士よりも学士のほうが使います。資格試験を受けるにも新たな分野を学ぶにも、大学を卒業していれば受験資格を満たすことが多いです。

「役に立ち方」と誰にでもおすすめできる資格について

……さて、役に立ったと思う資格とその理由を述べてみました。
しかし、簿記や語学はあくまでも試験のために勉強した知識が役に立っているという話であり、必ずしも試験に合格していることが影響したわけではありません。
これは何にでも言えることで、知っていて損になることはありませんので、「無駄だと思った資格」はひとつもないということになります。

ちなみに簿記は就職に役立つ資格とよく言われますが、新卒採用での競り合いならともかく、転職時にはそれだけで採用されることはまずないと言えます。これは転職エージェントさんに言われたことなので本当です。
ついでに転職エージェントさんには、公務員の経験も転職時には役に立たないと言われました。専門性がなく、事務としか言えないためだそうです。

そして肝心の行政書士試験合格、現に採用され使用人をやっている人が言うのも何ですが、
・独立開業する人の方が多い業界であり、他の業界に行くのと比べて必ずしも採用されやすくなるとは言えない。また、開業したとしても必ず食べていけるわけではない。
・一般企業では実務経験がなければそれほど決め手にならない由
ということで、就職・転職という側面からいけば誰にでも必ず役に立つ資格とは言えず、たまたま私が逃げ出したいときに受験していたから使えたという個別の話に過ぎないとなります。

そうなると、誰にでも役に立つ可能性が高いと言える=汎用性が高いのは、「大学の学位」と「身分証としての運転免許」くらいでしょうか。逆にこのくらいになると持っている人が多すぎて何の希少性もないですね。便利ではありますが競争力はないです。

社会は合わせ技でできている、けれども。

少し考えてみると結局、「これだけ取っておけば誰でも人生ヨユーだぜ!」みたいな資格はどこにもない、ということが分かります。

どんな資格・検定でも、
① やりたいことが先にあり、そのために必要である
② ほかに道がなくなった際、一縷の光になる
③ ほかの要因で選んだ・流されてきた場所で、学んだ知識や経験が活かされる
この3つの大体どれかになると思います。意思・希望や資格外での経験・人生があって初めて「役に立つ」かどうかが決まるので、極論を言えば「大学の学位」だって、資格や検定に興味がなく、大卒資格を必要とする職に就く気もなければ「役に立たない」かもしれません。

特に①はけっこう大切で、まさしく冒頭のように、「再就職したい」という希望に対して「行政書士試験に合格する」は、興味があるなどの他の要因がないならばやや的外れ(不可能ではないが、確率論として特にそれを目指すことの合理性があまりない)と言えます。「定年後は独立開業して多少とも収入の道を確保したい」であれば「行政書士試験合格」の目標は正解と言えましょう。

そして②や③があるので、最初にあるのが「学びたい」とか「興味がある」といった気持ちであれば、どんなものでも学んでおいて損はない、どこかで役に立つかもしれないと言えます。しかし「じゃあどんなことに備えておけばいいのか」の逆算については人生本当に分からないもので、その答えとしては興味のあるものを突き詰めておけば興味のある方向に道が拓けることもあるんじゃないか(ちょうど私が法律の面白さから行政書士試験に挑戦し、結果的に行政書士の位置に収まったように)、というような話になります。

だから「役に立つ」とか「無駄」とか言うのはナンセンス、のはずなのです。
でも。そんな私でもやっぱり、新しい資格・検定に挑戦しようかなと思ったとき、検索窓に「役に立つ」と打ち込んでいるわけですよ。
それは一体どういう心理なんでしょうか。

それでも「役に立つ」を調べてしまうのはなぜか

「役に立つ」に隠されたもの

現在、多くの人が考える「役に立つ」の基準は、仕事につながる、という意味なのだと思います。それは仕事が、現代を生きる多くの人にとって生活の中心にあるものであると同時に、資格のような客観的指標で測りやすいものと思われているからでしょうか。

先ほど見たとおり「仕事につながる」はまだ解像度が少し低くて、仕事と言っても開業なのか就職なのかでだいぶ変わってきます。
でも資格に関するウェブサイトなどは、役に立つかどうかを、開業なのか就職なのか就職後のステップアップなのか、ということを問わず、一直線に並べようとします。
では、それを検索する私たちは一体そこに、何を求めているのでしょうか。

私が思いついたのは2つです。
① 誰かに与えられる答え
② 輝かしい将来の幻想

① 誰かに与えられる答え

コスパとかタイパとか、まあどちらでも良いのですが(タイムもコストなので)、投資に対する回収率はやはり気にされるところなのだろうなと思います。

本来、差し迫って必要性が見えているのでなければ、つまり、わざわざ役に立つかどうか調べようとしているならば、この先の人生でその知識やタイトルが役に立つ確率は、人生が未知数である以上、どれも同じのはずです。学びたいことを学び、欲しいタイトルを得れば良いのです。

そう。欲しいタイトルを。
でも今の世の中にはたくさんの資格・検定が溢れていて、結局のところ私たちは、自分が何をどれくらい「欲しい」のか、判断しにくくなっているのだと思います。

その判断基準としてもっとも分かりやすいのがコスパ・タイパであり、何とかしてそれで判断できればと思う。けれども、測られる「パフォーマンス」の内容が異なるのだから、うまく比較することはできない。それを分かりつつ、それでも、何とか自分なりの答えを見つけていかなければ、受験するにしてもしないにしても、スッキリしない。

だから、誰かに答えを与えてほしい。

「あ、それ役に立ちますよー」とか「いや無駄ですよ」とか言ってほしい。
でも言われたとおり従うかもしれないし、従わないかもしれません。
役に立つと言われてもやっぱり途中で面倒になってやめてしまうかもしれませんし、無駄だと言われてもやっぱり気になって挑戦するかもしれません。
そういう、他人に何か言われてどう反応するか、というところも含めて、決めるためのヒントが欲しいと、それが「役に立つ」検索に潜んでいるのかなと思います。

② 輝かしい将来の幻想

そしてもうひとつ、「役に立ちますよ、たとえば就職したり独立したりできますよ!」と言われると、ホワイトな大企業に転職してキラキラ働いている自分や、独立して大儲けしている自分を、想像することができます。

もちろん幻想です。
現実を見れば「特に明確な希望もないのにそれだけで就職がホイホイ決まる資格」なんてほぼないですし、独立しても儲かるとは限りません。

それでも、その資格を取ってキラキラしている自分を想像すると、ちょっとだけ力になります。やってみようかなと思います。役に立てている自分を想像するために「役に立つ」を検索しているところって、あると思うのです。とりわけ、検索窓に「無駄」とサジェストされてガッカリするようなときには。

劇薬としての「役に立つ」

①も②も、適度なら良い結果をもたらします。
誰かの発言を見ることで自分の「欲しい」度を図ったり、役に立てている未来を想像することでやる気を漲らせたり。人間だからこそのポジティブな営みだと思います。

その一方、①も②も、一歩間違えると毒になる劇薬です。
顔も知らない人の、本当は一律に考えることのできないパフォーマンスをむりやり測った「無駄」を信じて、あれもこれも無駄だと放棄する言い訳にしたり、逆に「役に立つ」を信じすぎて「これさえあれば」と血眼になり、周りの人の負担にまでなってしまったり。合格したあとも現実に戻ってくることができず、具体的な策も行わずに絶望していったり。
資格を語る人の中には、この毒に当てられてしまったのかなと思う人も多いです。

きっと賢い皆様はご存じだと思いますが、今「役に立つ」を調べている人に向けて、改めて言っておきます(それこそ、他人が言うことに意味がある場合もある、と信じて)。
どんな資格でも「無駄」と調べれば無駄だというレビューが出てきますし、「役に立つ」と入れれば役に立つというレビューが出てきますよ。
それだけを頼りにするのは、あまりにも頼りないです。

「行政書士 役に立つ」や「行政書士試験 無駄」を検索している方へのメッセージ

私は行政書士なので、行政書士試験に合格した方や、受験を考えている方に向けて書きます。でも、ほかのどの資格・検定もそうだと思います。

合格した方へ。あなたはもう合格したのですから、現実を見てください。どうやってその合格を役に立たせるのか、考えるときです。

これから受験を考える方へ。内容に興味があるならぜひ受けてください。行政書士になりたいのならぜひ受けてください。でも就職が目標なら、もしかしたらちょっと違うかもしれません。
あなたは試験に合格したとして、それを何の役に立てたいのですか?
ぜひ行政書士試験合格者のその後のことを、もう一度調べてみてください。

そして以下はダイマです。
2月24日、使用人行政書士について語るセミナーを行います。
行政書士試験合格後の「役に立たせ方」のひとつの方法として、使用人行政書士(勤め人としての行政書士)について知ってみませんか。「そんなに再就職に役に立たないの?どういうこと?」の部分もしっかりお話します。
合格した方もこれから受験する方も、どなたでも歓迎です。


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