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法務担当者のための保険業該当性ガイド:NAL分析②「注1」型事例検討(NAL No.1、No.15、No.17)

※本稿は私の個人的見解であり、現在所属する、あるいは過去所属した団体を代表するものではないことについて、あらかじめご留意願いたい。


今回より、各NALの照会と、それに対する回答の解説を行うこととしたい。
保険業該当性の大まかな話は、第1回の解説をご参照いただきたい。

【前回の解説】

今回は、保険業非該当類型のうち、「注1」型について判断したNAL No.1、No.15、No.17の解説をまとめて行う(厳密に言うと、No.1は「注1」について判断したものではない)。
「照会の概要」については、4観点(「誰が」「誰に」「どんな」「どうして」)から簡易に整理したものをそれぞれ記載する(4観点については第1回ご参照)。詳細については、金融庁HPの各NALの照会書を参照してもらいたい。

Ⅰ NAL No.1(健康クラブ会員に対して、傷病時に一定の金銭を支払うサービス)

1 照会の概要

①「誰が」サービスを提供するのか
【健康クラブ】の運営者

②「誰に」サービスを提供するのか
【健康クラブ】の会員

③「どんな」サービスを提供するのか
・「健康クラブ」の会員に以下の事由が発生した場合、金銭を支払う
 ⑴ 死亡・後遺障害に対して、1人につき2000万円
 ⑵ 傷害・疾病による入院に対して、1人1日につき1万円
・会員は、サービスの対価として、⑴につき1年あたり6万円強、⑵につき1年あたり4万円強を支払う

④「どうして」サービスを提供するのか
クラブサービスの一環

2 金融庁の回答

(1)結論
保険業に該当しないとは言えない

(2)理由
「保険業」を定義した保険業法第2条第1項にいう「不特定の者を相手方として」に該当するか否かは、①当該団体の組織化の程度(構成員の団体帰属に係る意識度)、②当該団体への加入要件についての客観性、難易の程度、③当該団体の本来的事業の実施の程度等をもとに、総合的に判断することとなる。
これに照らすと、照会のあった事例は、所定の会費を支払えば特に制限なく誰でも加入できる団体を新たに設立し、対価を得て人の生死・負傷・疾病に関し一定の金額を支払う事業を営むものであり、当該事業が当該団体の会員を対象とするものであるからといって、同項にいう「保険業」に該当しないものとは言えないものと認められる。

Ⅱ NAL No.15(賃貸人に対して、賃借人が賃貸物件で孤独死した場合に見舞金を支払うサービス)

1 照会の概要

①「誰が」サービスを提供するのか
賃貸保証会社

②「誰に」サービスを提供するのか
賃貸人

③「どんな」サービスを提供するのか
賃貸物件において、賃借人が「孤独死」した場合に、「死亡見舞金」(災害見舞金に準じた扱い)として「10万円」を給付する

④「どうして」サービスを提供するのか
賃貸人へのお見舞いとして(賃貸保証会社のサービスの一環)

2 金融庁の回答

(1)結論
保険業に該当しないとは言えない

(2)理由
保険業法第2条第1項によれば、「人の生存又は死亡に関し一定額の保険金を支払うことを約し保険料を収受する保険、一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し保険料を収受する保険」の引受けを行う事業は「保険業」に該当するものとされている。
また、一定の人的・社会的関係に基づき、慶弔見舞金等の給付を行うことが社会慣行として広く一般に認められているもので、社会通念上その給付金額が妥当なもの(10万円以下のもの)は、保険業には含まれないこととされている(少額短期保険業者向けの監督指針Ⅲ-1-1(1)(注1))。
※現在の少短指針Ⅴ(1)(注1)
これに照らすと、賃貸人及び賃借人間で建物賃貸借契約(以下「賃貸借契約」という。)が締結される際、当該賃借人から委託を受けて賃貸借契約に基づく当該賃借人の債務を連帯保証する業務(以下「賃貸保証業務」という。)を行う照会者が、当該賃借人より一定の対価を収受し、当該賃借人が賃貸借契約の対象物件の専有部分又は専有使用部分で死亡(孤独死)し、これによって賃貸借契約が終了した場合、当該賃貸人に対して見舞金(10万円)を支払う業務(以下「本件業務」という。)は、「人の生存又は死亡に関し一定額の保険金を支払うことを約し保険料を収受する保険、一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し保険料を収受する保険」に該当する。
また、当該賃借人の死亡(孤独死)を原因として当該賃貸人に対して見舞金の支払いを行うことは、その対価が当該賃貸人ではなく当該賃借人から収受されることや、一般に賃貸借契約において賃貸人及び賃借人との間の人的・社会的関係は密接とはいえないこと等を勘案すると、「一定の人的・社会的関係に基づき、慶弔見舞金等の給付を行うことが社会慣行として広く一般に認められているもの」とはいえない。

Ⅲ NAL No.17(旅行会員に対して、キャンセル料が発生した場合にその一部を見舞金として支払うサービス)

1 照会の概要

①「誰が」サービスを提供するのか
旅行商品に関するウェブサイト運営事業者(一種のプラットフォーマー)

②「誰に」サービスを提供するのか
自社ウェブサイト会員

③「どんな」サービスを提供するのか
自社ウェブサイトを通じて旅行業者から購入した旅行商品(航空券、旅行券、宿泊券等)についてキャンセル料を負担した場合、以下の約定に従い見舞金を給付する
・給付事由:傷害疾病による旅行商品のキャンセルによりキャンセル料を負担したこと
・給付金額:キャンセル料の80%(上限10万円)
・対価:月額50円~150円(年額600円~1800円)

④「どうして」サービスを提供するのか
お見舞いという慣習の延長線(顧客サービスの一環)

2 金融庁の回答

(1)結論
保険業に該当しないとは言えない

(2)理由
航空券、旅行券、宿泊券等の旅行商品の購入に関心を有する者を照会者が運営するウェブサイトを通じて会員組織化し、そのように組織化した会員(以下「旅行会員」という。)を照会者のウェブサイトからその子会社又は提携する外部の旅行代理店(以下「旅行業者」という。)のウェブサイトに誘導する事業を行う照会者が、旅行会員のうち希望する者(以下「見舞金会員」という。)より一定の会費を収受し、見舞金会員が上記の仕組みを通じて旅行業者から購入した旅行商品について、疾病、傷害に伴う入通院によりキャンセルし、キャンセル料を負担した場合に、キャンセル料の一定割合の金額の見舞金(以下「本件見舞金」という。)の給付を行う業務(以下「本件見舞金業務」という。)は、「一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し保険料を収受する保険」の引受けに該当する。
また、本件見舞金業務は、以下の事情等を総合的に勘案すると、「一定の人的・社会的関係に基づき、慶弔見舞金等の給付を行うことが社会慣行として広く一般に認められているもの」とはいえない。
① 照会者と各見舞金会員との関係は、ウェブサイトの運営者と利用者という関係にあり、一定の継続性を前提とするものの、会員資格に限定はなく、照会者と各見舞金会員との間各見舞金会員相互の間において、密接な人的・社会的関係は認められないこと。
② 本件見舞金は、見舞金会員の疾病、傷害に伴う入院に加えて、それにより購入した旅行商品のキャンセルが行われなければ給付されず、その給付額も実際に生じたキャンセル料の一定割合の金額とされている点において、一般に社会慣行として行われる疾病、傷害やそれに伴う入通院そのものを給付事由とする定額の見舞金等とは性質の異なるものであること。

Ⅳ 解説・コメント

1 はじめに:NAL No.1の先例としての意義

平成17年以前、保険業法2条1項の定義規定には現在とは異なり「不特定の者を相手方として」という文言が入っていた。
この文言の反対解釈により、当時は「特定の者を相手方とするのであれば保険業には当たらない」という整理の下、いわゆる無認可共済事業者による保険的サービスが乱立していた。
その後、ポンジスキームで悪名名高いオレンジ共済事件などの影響もあり規定が見直され、「不特定の者を相手方とする」の文言は削除された。
(なお、この際に無認可共済事業者の受け皿の一つとして設けられたのが、少額短期保険制度である。少短制度については、また別の機会に説明を行いたい。)
NAL No.1は改正前保険業法の「不特定の相手方」の解釈を示すものであるため、今日おいては先例として意義は失われているといってよい。
もっとも、ここで示されている考え方は、現在の「注1」型における「一定の人的・社会的関係」の解釈にも通じるところがあるので、一定程度参考にはなる。

2 総論:「注1」類型の考え方

「注1」型とは、人的・社会的関係に基づく慶弔見舞金給付は社会通念上妥当な金額(10万円以下)である限り、保険業に該当しないという非該当類型である。
「注1」類型において着目すべきポイントは、以下の3点である。

① 人的・社会的関係に基づくこと
そもそも「注1」類型は、平成17年保険業法改正により、保険業の定義規定から「不特定の者を相手方とする」という文言が削除されたことに端を発する。改正には無認可共済事業者を適正化するという大義があった一方で、地縁的関係等に基づき社会慣行的に行われていた給付行為についても、定義としては保険業に該当し得ることになった。
こうした状況に鑑みて、「セーフハーバー」的に設けられたのが「注1」非該当類型である。
こうした経緯も鑑みれば、ここにいう人的・社会的関係とは、社会慣行的に慶弔見舞金を出し合うような関係、すなわち一定程度密接な「横」の関係を想定したものであると考えられる。
同窓会や地域の互助会については基本的にこれを満たす一方で、事業者と事業者によるサービスの会員のような「縦」の関係については、人的・社会的関係を見出すことは基本的には難しいものと考えられる。

② 慶弔見舞金等であること
上述の成立経緯に鑑みれば、基本的には慶弔事について給付されるものである必要があると考えられる。また、見舞金という性質からして、基本的には「定額」であることも必要だと考えられる(ただし、慶弔事の性質に応じて、給付金額にグラデーションがあることそれ自体は問題ないだろう)。
なお、慶弔見舞金「等」であるので、お食事券や温泉旅行券であっても、それ自体に問題はないものと考えられる。

③ 社会通念上妥当な金額であること
少短指針上、社会通念上妥当な金額は「10万円以下」と定められている。
ここだけは明確に規定されているので、解釈の余地はない。

2 各論①:NAL No.15

本サービスは、賃貸保証会社が賃貸人に対し、賃借人が「孤独死」した場合に災害見舞金に準じるものとして「お見舞金」を支払うというものである。
「災害見舞金に準じる」の意義について、照会者は「取引先が被災した場合に災害見舞金を給付することは、税法上交際費等に該当しないものとされていることからして、社会慣行的な給付である」旨説明している。
賃借人の孤独死は賃貸人にとって被災であると言わんばかりの表現の是非はさておき、賃貸保証会社が賃貸人に見舞金給付を行う理屈としては、一見して全く無くはないと思わせる説明である。

金融庁回答では、明示的には次の2点を理由に、本サービスが「注1」類型には該当しないと結論づけている。
 ① その対価が当該賃貸人ではなく当該賃借人から収受されること
 ② 一般に賃貸借契約において賃貸人及び賃借人との間の人的・社会的関係は密接とはいえないこと
「取引先への災害見舞金が社会慣行的な給付である」という照会者の主張は、明示的には一顧だにされていない。このことからしても、「注1」類型においては、給付の前提として「一定の人的・社会的関係性」が必須であるとわかる。

少し面白い点として、金融庁は判断にあたり、「賃貸人-賃借人」の間に一定の人的・社会的関係が存在するかについて着目していることが挙げられる。
本サービスは、賃借人が賃貸保証会社に支払う保証料の一部を原資としており、受益者である賃貸人は何の金銭的負担も負っていない。もし賃借人と賃貸人との間に一定の人的・社会的関係が認められる場合、照会者はあくまで賃借人団からの委託に基づき給付原資の管理をしているだけという理屈も成り立ち得る。
しかし、賃貸人と賃借人はあくまでも賃料支払いを前提とした物件の使用貸借関係しか存せず、類型的に見て、同窓会や互助会のような「横」の関係性を見出すことはできない。

さらに言えば、同窓会での慶弔見舞金給付においては、各会員は原資の拠出者であるとともに、受益者でもある一方で、本サービスにおいて、賃借人は原資の拠出者ではあるものの、受益者ではない。金融庁回答の①は、この点に着目したものと考えられる。

結局のところこのサービスは、保険的観点から言えば、賃貸保証会社を「保険者」、賃借人を「保険契約者・被保険者」とし、賃貸人を「保険受取人」とする「第三者のための保険契約」である。

3 各論②:NAL No.17

本サービスは、旅行商品のウェブサイト運営事業者が、自社サイト会員に対して一定金額収受することを前提に、自社サイトを通じて購入した旅行商品をキャンセルすることで発生するキャンセル料の一定額を「お見舞金」として給付するものである。

金融庁は、以下の2点を理由に、「注1」類型には該当しないと結論づけている。
① 一定の継続性を前提とするものの、会員資格に限定はなく、照会者と各見舞金会員との間各見舞金会員相互の間において、密接な人的・社会的関係は認められないこと
② 本件見舞金は、旅行商品のキャンセルが行われなければ給付されず、その給付額も実際に生じたキャンセル料の一定割合の金額とされている点で、定額の見舞金等とは性質の異なるものであること。

基本的には上述の総論で述べたことがそのまま当てはまっており、結論には何ら違和感はない。

ここで、金融庁が①の判断にあたり「一定の継続性を前提とするものの」という留保をつけている点に着目したい。本サービスは明らかに「縦」の関係であり、このような留保をつける必要もなく切ることはできた筈である。私見だが、この点については2通りのメッセージが考えられる。
1つは、どんなに継続性を前提とする関係であっても、それが「縦」の関係である限りは、「注1」類型を満たすことはないというメッセージである。「注1」の成立経緯からすれば、穏当な解釈だと思われる。
もう1つは、一定の継続性を前提に、新規加入に一定の難度があるクローズドな「縦」のサービスについては、「横」の関係に準じた人的・社会的関係が発生し得るというメッセージである。「注1」の成立経緯からは外れるが、まったくあり得ない解釈ではないと思われる。机上の空論的であるが、同質性の高い「縦」の関係においては、会員相互の牽制を期待できるかもしれない。
もっとも、風呂敷を広げておいて恐縮だが、この点はスキーム構築の上ではあまり意味のない議論であると考えられる。高々10万円以下の慶弔見舞金給付を行うために会員の条件に厳しい制約を課すのは、ビジネスとして全くペイしないからである。

Ⅴ 小括

今回は「注1」類型に関する3つのNALを解説した。
「注1」類型は比較的わかりやすい部類の類型であるが、本稿が法務担当者の方の参考となれば幸いである。

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