2020.3.19 『獣になれない私たち』を見終える

コロナの影響で、Huluが期間限定で国内ドラマ中心の番組を無料配信している。
TVerも同様、過去作品の配信に積極的だ。ライブや舞台を始めとした生のエンターテインメントが配信措置を取るのは、アーティストが無理に痛み分けをしているような気がするからひっかっかる気持ちがぬぐい切れないのだけど、映像媒体の過去アーカイブ開放はなんとなくありがたい気持ちが勝る。無料期間に登録したHuluは、おそらくない崩し的に会員になるだろうから、こっちはウィンウィンの気がして遠慮なく見まくるつもり。あと10日程度だけど。
ぶっちゃけ、有料だろうが無料だろうが、サブスクで視聴できるモノの消費は習慣になっていなければ気合いがいる。こんなところでも金は時間に及ばない価値だと気付く。ただ、今の時期の「気合い」に関しては、自分のためだけではなくて、せめてこちらも痛み分けできるような気持ちになるためのワクワク心、を常駐させるための気合いなのだ。健全な肉体と精神とか、現状維持という抱負とか、そういうのはただ維持しているだけでは徐々に下がっていくものだと思っているから。ご飯をたくさん食べるように、音楽や映像や書籍なんかを、たくさん食べる。

そんな今は、ビールが飲みたい。
無料配信作の中から『獣になれない私たち』を見ている。4月から星野源×綾野剛主演のドラマを控える野木亜希子脚本の過去作が重点的に配信されているから、『空飛ぶ広報室』『アンナチュラル』も並行している。けもなれが一番最初に見終わった。成田空港へ向かう始発で一話を見たときは胸が苦しくなって旅行どころじゃなくなりかけたけど。

晶(新垣結衣)の笑顔を気持ち悪いとバッサリ切る松田龍平に感情移入して見ているのだけど、どんどん晶の苦しさが湧き上がってくる。限界を迎え始める晶が「幸せなら手をたたこう」を口ずさむ痛ましさは、今なら”バイト探しはインディード”で再生されるから余計苦しくなる。ドラマの中で唯一しっかり過去を振り返るのが、義母になるかもしれない女性であったところが気になった。いくらでも回想を描く余地がある作品なのに、脇役にいた人を厚くすることで作品世界の輪郭が鮮明になる感じ。

一番よかったのは何話?と聞かれて何も答えられないのが一気見の悪いところかもしれない。ドラマの醍醐味ってこういうところか。

9話で朱里(黒木華)が晶の部屋に泊まるシーンだけは会話をメモしてあった。根拠のない(むしろ考えたら壊れていしまうほど脆い)今の現状を肯定する気持ちから一度は解放された晶が、今度は自分なりの根拠をもとに再び自分の世界を肯定し始めたことを示すところに惹かれたんだと思う。共感じゃなくて惹かれたところが、自分はまだまだなんだなと噛み締めた。

晶「相手を都合よく使わず、自分を見失わずにいるにはどうすればいいんだろう」
朱里「恋愛って、自分を見失うもんなんじゃないの?」
晶「だったら恋愛はいらないや。相手にすがって、嫌われないようにふるまって、自分が消えていって、相手のことが分からなくなる。そんなの嫌だ。繰り返したくない」
朱里「ふーん、じゃあ、ずっと1人で生きていくの?」
晶「1人なのかな?例えば、今は二人。私と朱里さん。さっきは3人でビールを飲んだ。お母さんじゃないけど、お母さんみたいな人とまた飲もうって約束した。会社の同僚と仕事のことで一緒になって喜んで、女同士で千回のハグ。この前は、飲み友達の家で夜通しゲームして、朝のコーヒーを飲んだ。そういう一つ一つを大事にしていったら、生きてけるんじゃないかな?1人じゃない……んじゃないかな?…甘い?」
朱里「んーん。ありかも……それでも、愛されたいな、私は。おやすみ」

視聴者に鐘の音を聴かせてくれないところに、いろんなところにいる、獣になり切れない晶のような人を肯定しようとする現代らしさを感じた。トレンディ―ドラマだったらリバーブ強めで打ち鳴らしていたと思う。

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