9/12~18 微炭酸

日曜日
ようやく何もない休日なのに昼まで身体は動かず、布団で『さすらいアフロ田中』を読む。昨日しっかり食事をしなかったことを後悔しながら今日も疎かに済ませる。15時になってようやく家を出る、今日着れたらいいと買っておいた服を着るにはまだ暑い。

治癒という概念が頭からすっぽり抜け落ち、それはパンデミックの夜じゃなかったら果たしてスムースに駆動していたかなど考えるのも野暮だが、とにかく治癒の現場curejazzのライブを見に行った。
最初のライブが16年前、次の再結成が8年前で、今回の3回目はコロナのせいで2回の延期を経て客席を間引いたBluenoteで4公演のみ、チケットを取ってくれた友人とは今年だけでペペとDCPRGを見ている。

黒いワンピース姿で客席へコミュニケーションを図るUAと灰色のスーツでハイチェアに腰かける菊地成孔、バンドはペペの鳥越氏を筆頭に総入れ替えで若返ったらしい。リラックスした客席は再会を喜ぶ人が半分、夢じゃないとしびれる人が半分。アルコールが提供されないからこそ、冴えた感覚で音楽を楽しめた。
この街は恋をするにはjazzy過ぎる、アップテンポなアンコールで(2曲用意していたけど会場都合で1曲じゃなきゃコロスとのことで、残念ながらI’ll be seeing youを聴くことは叶わなかった)終演したあっという間のライブだったけど、菊地成孔が信じる音楽の治癒・自浄作用の裾を指先でつまむことができたかもしれない。緊急事態の都市と、労働負荷に苛まれる自分が等しくピンチに立たされていると思う瞬間の連続を送る中で、音楽やパフォーマンスによる束縛か挑発か、軽率な啓発か、客席に広げた艶やかな裾をつまんでポケットに入れるピンチ力だけは失わないでいれたようで嬉しい。開演前につまんだ真蛸と夏野菜のクリュディテもすごくおいしくて、五感ごとあっという間にリフレッシュされた。

結局、自分が外界と錯覚すらしてしまう街と接続されている安心感に勝るものはないのだ。仕事をしている以上、社会的な端子になっていることからは逃げきれないが、走った先にもっとストリートな雰囲気、街を歩いたら景色が進んで、店に入ると明るさが変わって、ナイフとフォークを使えば気分が上がっていくそれだけの行為が様々な箇所で同時多発的に行われていること、そして未来を想像し過去を振り返り、隣にいる人の表情から自分を見つめ直す、そんな感じのことが当たり前になればいい。


月曜日
土日と昼まで寝ていたせいで身体が重い。運動した方がいい。毎晩缶ビール3本くらいを飲みながら好きなだけ煙草を吸って散歩する時間が救いになっていて、その時間を差し出す心構えがなかなかできない。
『テレビ千鳥』の歌企画、『ゴッドタン』みなみかわ腐りセラピー、『シンパイ賞』を見終えた頃に家に着く。最近家でため息ばかりついている。

気づけば『上京アフロ田中』を読んでいた。アフロ田中は10冊きっかりで新シリーズに移行する。そして、どの単行本を開いても1話から始まる。読者の実人生、実体験と限りなく近い気持ちで田中と知り合いになれるようにと作者が思っているのだと思う。人には高校からのツレもいれば、会社に入って出会う人もいるし、誰かの紹介から始まる縁もある。『アフロ田中』を読むうえで、田中の人生全てを知っている必要はなく、興味があれば振り返ればいい、そこには物語がある。
元カノの浮気にふてくされる自分を気遣って開かれた25歳の誕生日コンパでナナコと出会い、田中は結婚して子供をつくる。年増キャラではしゃいでいる鈴木さんのセフレ(これものちに結婚する)は28歳。単純計算した年齢を考えずにはいられなくなる。コロナで2年も失っている。

先日の星野源ANN若林ゲスト回についてフォローしている人が書いた文章が良くて、久しぶりに嫉妬らしいものを感じた。
「この人に好かれたいな、という気持ちが自分の行動を制限する感覚。ラジオからはその気持ちがあふれだしていて、そこのラインをゆっくりと踏み越えながら友人としての度合いを強めていく人たちを耳で窺い、あーーーーっと叫びたいくらいの気持ちになった」
言葉について考えてまた「過剰/異常」を聴く。

プラスチックのように軽い日常が終わっていく
時計の針に集中して考えるのは明日のことです。
腐ってる世界を、生ぬるい感性を、
月のように照らされるものを(月のように吹き抜けた明かりを)
あの破れたレシートを(自動販売機を)見ている。
手を振って、また今度ねと口に出す日々は続いていて
その日々の中で切り取ったいつかに、僕は死んでいるのだろう。
黙って濁ってしまった言葉は、もう息をしていないみたいだな。
黒い服はもう飾りになっていた。

『平成ノブシコブシのANN0』二人の攻守姿勢は状況によってひっくり返るけど絶対に揃わないと自覚している話がなんとも面白かった。天下を獲りたいはずが無色透明になってしまっていると吉村が呟くと、徳井が添えるように微炭酸と応えたところが素晴らしかった。


火曜日
昨日今日と寝覚めが悪く、日中ずっとこれでいいのだろうかと思いながら机の前でパソコンと電話を交互に触れている。元気ないな、から始まった上司の話はしかし、仕事の悩みが人間関係じゃないならいい方だよと締めくくられた。確かにそうだなと思う反面、そう思わなきゃやってられないと回収される理屈を誰のために受け止めなくてはいけないのか。

昨夜も21時くらいに食事を終えて、2時に寝るまでの間をただ少しずつ酔っぱらっていくだけに身を任せた。今日も「過剰/異常」に泣きそうになる。崎山くんが人の目に触れたのが『日村が行く!』である不思議なきっかけは、今後もアーカイブされていて数年お気に見返すのだと思う。「黙って濁ってしまった言葉はもう息をしてないみたいだな」酸素不足の体内に沈殿した言葉はいくら集めても可能性にはならないだろう。そう思うたびにゾッとする。

帰りに寄ったブックオフで『小説トリッパ―』夏号を200円で買った。200円の文芸誌だと大切に読もうと思わないでいからむしろページが進む。渋谷コントセンターが、いとうせいこう、テニスコート、大北栄人によるリモートコント会議を生配信していた。各人が持ち寄ったコントの設定に対し展開と演出のアイデアをひたすら投げ続け、飽きたら次の設定へ、が2時間続く。
すべて舞台上で行われる前提があり、観客の意識を誘導して笑いどころ鮮明にする、もしくは飽きさせないように展開をつける、表現するための照明や小道具など、一つの面白さに拘らず実演前提で総合的なアイデアを次々に出すいとうせいこうを始めてものすごいなと思った。
芸人が会議室エチュード的な即興コントを行う企画は何度も見たことがあるけれど、作りこんでいく前提のコントのアイデア出しは初めて見たし、想定される演者が明確化されていない分、普遍的な面白さを追求する様がビルの窓ガラス清掃員のように遠く高く見えた。
見終わった深夜にすっかり頭が冴えていた。日中全く使わなくなったところが久々に反応して、やはり負荷をかけないと何事も動き始めない単純さにむしろ心強ささえ覚えた。
「このタイトルが舞台袖の香盤に書いてあったらテンション上がるよね」この目線でコントが扱われる現場感はたまらなくよかった。

Aマッソチャンネルの赤もみじ村田ゲストでAマッソのロケ動画にツッコませる企画がとにかく面白かった。漫才で見た印象よりも賢くて例えのセンスや感情の角度もビジュアルが余計面白くさせる感じでよかった。

キングオブコントで敗退し、『霜降りバラエティ』放送枠降格、『シンパイ賞』終了と重なった霜降り明星の疲労感がここにきて増している気がする。M1優勝後多忙を極め、すぐにコロナで飲みに行けなくなったコンビにとって、YouTubeは数少ない息抜きの場なのだろうけど、働く以外に何もできない閉塞感には共感できるところがある。第七世代と呼ばれる世代もそうだろう、先輩に仕事の話を相談することもできずよくやってるよな、とぺこぱのラジオで話していたミルクボーイ内海を思い出す。
友達とも満足に会えないでよく毎日働いているよな。

水曜日
Dos Monos『Larderello』聴きながら出社。Spotifyはまだ歌詞が反映されていないのだけど、早稲田で見た劇団の名前を羅列しているバースがあるように聞こえて、よくよく聴いてみるとカッコいいということだけが分かったので、一昨日のリキッドワンマンの配信を見ようと思った。
昨日は酒量を抑えて窓を閉めて寝たからか、喉の痛みが少し引いていて、しかも文章を書いて読んだおかげで気持ちの塞がり方もそこまでひどくない。それもこれも全て酒を抑えたからに尽きるのだ、なんて単純、しかし夜に忍び寄るコンビニ冷蔵庫にすっかり浸食されている。

仕事ではやっと一難がさった。大いに気分を害したし、まだあと14難くらいあるが大きな進展に思いたい。それにしても今の案件は気分を害する、それでも感張ったとして、俺のこの努力もやがてローソンに代わっちまうんだろうな、ちょっと駐車場広めの。早く火星に帰りたい。

木曜日
忙しかった諸々に一息つける状況がやってきたのですかさずさっさと会社を出る。明日は代休をとっているので、ストレスの少ない状態で四連休を迎えられる。
ヴェローチェで溜まっていた『What, if…』を見て(ピムがヴィランすぎる!)フワちゃんANNXに加納さんが出たのでそれも聴く。
『水曜日のダウンタウン』があまりに素晴らしいVTRだった。

飯田橋のブックオフの品ぞろえは馬鹿にできない。
中野でボブを待つ時間、隣の席の男女おそらく20歳は離れていて、男が50超え。学生時代の悪自慢をしていて、懐かしい日常を感じる。
福島良太の単著を読んでいると、ボブが来た。かなり酔ったので何を話したか思い出せない。シャンチーの話をしたのは確か。他に何を話したか、剃毎の話?
新大久保まで歩いてタクシーで帰った。
STUTSを聴いて、夜の貯金残高がすごいあると思った。
夜の残高と昼の過払い金。

金曜日
昼過ぎまで寝ていた。中目黒に行くのだけど、目当ての店が見つからず、向井の喋り方と加納artistspokenを聴きながら帰るだけの日。間違えて一回目黒まで行って、恵比寿を二度中継したこととかおぼろげで、確か低気圧でふらっふらだった。えらい。
『マヂカルクリエイターズ』の配信ライブ
初めて1600円でも高いと思ったライブ。

土曜日
ベローチェでアララを書く。本も買った北野『批評の哲学』と小説tripper。
霜降りチューブ
ラジオが休みの日のタイミングで長尺動画はYouTuberすぎる。
新潮の小説2本読む。

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