見出し画像

あの夏の日の記憶

ある夏の日…

菜:久しぶりだね。




墓の前で呟き線香をあげ
手を合わせる

''黒瀬家乃墓,,

菜:今日は〇〇の命日だね。
       まぁ、毎年来てるけど。
 
手を合わせ終え、墓の前で
話しかけるようにまた呟いた

菜:あの日からだいぶ経ったけど
       私まだ忘れられないんだよね。
       こびりついて離れないんだ。
       あの日の…あの夏の日の事。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

数年前の6月

梅雨時で土砂降りの日
君がずぶ濡れのまま家の前で泣いてた

夏が始まったばかりなのに
君はひどく震えてた

〇:菜緒どうしよ…俺、人を…人を
       殺しちゃった…。

菜:えっ?

〇:実は俺、ずっと前からイジメられてて。
       最初は我慢できたし…知らないふりもしてた。

菜:…

〇:でもどんどんエスカレートしてって…
       最近は殴られたりして…もう嫌になって
       肩突き飛ばしたら…歩道橋の階段から落ちて
       打ち所が悪くて…それで…

菜:もう大丈夫…もう言わなくても大丈夫だから…

〇:ごめん…

菜:謝らなくてもいいから…菜緒の方こそ
       気づいてあげられなくてごめん…

〇:菜緒は何も悪くないよ。

菜:…

〇:最後に菜緒の顔見れて良かった。

良かった…そう言った時も話してる時も
ずっと君は震えてた
なんとなくだけど、これから君が何を
しようとしてるか分かった

〇:俺、どっか遠いとこに行くよ。
       もうここには居れないから。

菜:えっ!?

〇:ちゃんとケリつけるよ…

菜:待って…

〇:じゃあね…菜緒。

菜:待って…菜緒も連れてって…

〇:えっ!?

それから家も学校も家族もクラスメイトも
全部捨ててこの狭い狭い世界から逃げ出した

財布を持って携帯も持って、必要最低限な
物だけ持って君と2人で…

君と菜緒はずっと一緒だった。
君と菜緒は幼馴染だけどそれだけじゃなかった…
ずっと家に居場所がなかった。
両親はずっと喧嘩ばかり…そのせいで
父親は酒に溺れ、母親は帰って来なくなった。
親戚も誰も助けてくれなかった…
君と菜緒は親からの愛も周りからの愛も、受けた事が
無かったそんな共通点もあって簡単に信じあってた。

もうこの世には価値が無い。

だから全部捨てた…
人殺しとダメ人間の逃避行の旅
どこまで行くか分からなかったけど、
君と2人でならどこまでも行ける気がしてた。

金を盗んで、その金で食べ物を買って、
菜緒手は汚したくないとか言って全部
君がやってくれてたね
一緒に逃げてるから同罪なのに…

いつか夢見た優しくて誰にも好かれる…
そんな主人公なら、汚くなった菜緒たちも
見捨てずにちゃんと救ってくれるのかな?

でも現実にはそんな主人公なんていなかった…
そんな主人公もシアワセの4文字も、
この現実には何も無かった。
けど、唯一菜緒の幸せは君と…〇〇と
一緒に居る事だった。
ずっと好きだったから。

現実は残酷なもので、その唯一の
幸せも菜緒から奪っていった。

あてもなく彷徨って
水も無くなって視界が揺れ出した。

だいぶ遠くまで来たけど
結局、大人達に見つかった。

ふと君が鞄からナイフをとりだした…

〇:菜緒ここまでありがとう…
       菜緒がいたからここまで来れた…
       後はもう良いよ。

菜:えっ…

〇:死ぬのは僕1人でいいよ…

菜:〇〇…待って!〇〇!

そして君は首を切った…
まるで何かの映画のワンシーンのような…
そんな白昼夢を見ている気がした。
気づけば菜緒は捕まってた…

君がどこにも見つからなくて
君だけがどこにもいなくて…

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして時は過ぎていった。

ただ暑い暑い日が過ぎていった。

家族もクラスメイトもいるのに
君だけがどこにもいない。

あの夏の日を思い出す。

ずっと君を探してる。

君の無邪気な笑顔、真剣な横顔、
怒った顔、困った顔…
全部全部好きだった。

君に言いたい事があったのに…
伝えたい事があったのに…

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜現在〜

菜:それじゃあ菜緒帰るね。
       また来るね〇〇。

菜:今もずっと好きだよ…ボソ

,,俺も好きだよ菜緒、ずっと見守ってるよ,,

菜:えっ。

振り向いても、そこには誰も居なかった。

菜:ずっと見守っててよ…〇〇。

あの夏の日、もし君が死なずに居たら
今頃どうなってたのかな。

幸せというものを、現実で手に入れれたのかな。

そんな事を考えながら。
君の全てが頭の中を飽和する。

6月の匂いを繰り返しては
あの夏の日の記憶を繰り返し思い出す。

ーENDー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?