第4回オモイカネ杯 ふりかえりー!
こんばんは!
趣味は言語、特技は言葉、好きな概念はリンガ・フランカ!
ラテン語たんです。
昨晩は「第4回 オモイカネ杯」に出てきましたー!結果は第三位!
優勝は乃物けみかさん!おめでとうございます!
決勝でお相手していてその知におののいてました…すごい…。
1. どんな大会なのです?
(ご存知の方は 2. まで飛ばして頂いて大丈夫!)
知識系VTuber/Vライターの思惟かねさんという方が主催されているクイズ大会です。以下、公式サイトより引用。
バーチャルな存在によるバーチャルな存在のための「本気」のクイズ大会
難問を避け誤答を笑う世間の風に反旗を翻し
選りすぐりの難問とそれに挑む精鋭たちの優れた知識に拍手を送る
正統派のクイズ大会
バーチャル世界の「知」の頂点を決める祭典
それがオモイカネ杯!
https://twitter.com/omoi0kane/status/1396113599878242308
知においてつよつよ無双な方々が集まってわいわいするクイズ大会です。
問題のレベルの高さが回を追うごとに上がっていき、予選を勝ち抜いた参加者はわりと怪異レベルの識者が集います。
2. まずは本戦の問題をいくつか
今回初出場のてとらさんからの出題。
かつて栄華を誇った都市ですが、単に都市という枠を超えて「異国の象徴」みたいになってる地名です。
日本語でいう人名「名無しの権兵衛」のように、「不特定の知らない場所」を指す概念になってしまっています。
SimCity4のデフォルトマップの名前にもなってましたね。
フランスの植民地だったので Tombouctou 「トンブクトゥ」と呼ばれますが、Timbuktuという綴りもあります。多分トゥアレグ語。
答えは「ブラジル」。
brazilwood 「ブラジルウッド」。
ポルトガル語で brasa 「燃えさし」から brasil 「燃えさし色(赤色)の」、ここから pau brasil「燃えさし色の木」、英語で brazilwood ですね!
決勝の問題、こちらの答えは「奴隷王朝」。
「マムルーク」っていう呼び名もありますね。
مَمْلُوك
mamlūk 「奴隷」
アラビア語は子音3つの「語根」から単語を作ります。
たとえば k-t-b 「書」からは
kataba「書く」、kātib「著者」、maktūb「書かれた」…
というふうに、3文字の語根の間に様々なものを入れたり挟んだりして語彙を作っていくのです。
m-l-k は「所有、権威」にまつわる語根です。
مَلَكَ
malaka「所有する、掌握する」
مَالِك
mālik 「所有」
مَلِك
malik 「王」(短母音ですよ)
مَمْلَكَة
mamlaka 「王国」
أَمْلَك
ʾamlak 「多く有する」
مَلَكِيّ
malakiyy 「王の、王立の、王家の」
この流れで
مَمْلُوك
mamlūk「所有されるもの」がマムルークですね。
3. そして私のお出しした問題
はい!ラテン語たんのお出しする今回の問題です。
概ね「今回もすげえ…」「ラテン語たんの問題何これ」「暴投ギリギリの危険球問題」的な反応が多かったですね。
私も出題の瞬間の場のざわつきが気持ちよかったです。
フランス語やイタリア語だと読めてしまう方がいそうで不平等感が出ますので、シチリア島のシチリア語、スペイン東部のカタルーニャ語、同じくスペインの北西端のガリシア語、そしてハイチでフランス語をもとに生まれたハイチ・クレオール語の四種で出題いたしました。
いずれもラテン語の遠い末裔のみなさまですね。
【シチリア語】La ( nivi ) è nu finòminu atmosfèricu in forma di ghiacciu cristallizzatu di quarchi millìmitru a dui cintìmitri.
雪とは、4mm-2cmの結晶化した氷の形を取る大気中の現象である。
【カタルーニャ語】La ( neu ) és la precipitació d'aigua en forma de multitud de petits cristalls de gel.
雪とは、無数の小さな氷の結晶の形を取った降水である。
【ハイチ・クレオール語】( Lanej ) se dlo glase ki tonbe nan livé (sezon fredi) nan rejyon frèt.
雪とは、冬(寒い季節)に寒い地域で降ってくる凍った水である。
【ガリシア語】A ( neve ) é un fenómeno meteorolóxico consistente na precipitación de pequenos cristais de xeo.
雪とは、小さな氷の結晶の降水から成る気象現象である。
4. シチリア語!やりますよー!
La ( nivi ) è nu finòminu atmosfèricu in forma di ghiacciu cristallizzatu di quarchi millìmitru a dui cintìmitri.
雪とは、4mm-2cmの結晶化した氷の形を取る大気中の現象である。
la 定冠詞(女性形)
nivi 雪(女性名詞)
è ~だ (3人称単数)
nu 不定冠詞(男性形)
finòminu 現象(男性名詞)
atmosfèricu 大気中の(男性形)
in forma の形で
di ~の
ghiacciu 氷(男性名詞)
cristallizzatu (結晶化した)
di ~の
quarchi millìmitru a dui cintìmitri. 4mmから2cmの
標準イタリア語で -o になるところが -u なのが特徴です。
ラテン語の -um から来ているのでむしろ元ネタに近い形ですね。
標準イタリア語なら uno, una となる定冠詞が nu, na なのも特徴。
ghiacciu 「ギャッチュ」は標準イタリア語の ghiaccio「氷」 にあたります。みんな大好きギアッチョお兄さんですね!
cristallizzatu 「クリスタッリッツァートゥ」は 英語なら cristalized にあたりますね。
沖縄の言葉と同じように a-i-u-e-o が a-i-u-i-u になりがちなのも特徴で、いわゆる「ミリメートル」は 標準イタリア語の millimetro 「ミッリメトロ」が規則的に millimitru 「ミッリミトル」になります。cintimitruやfinòminuも同様.
5. 収穫人たちよ!カタルーニャ語いきます。
La ( neu ) és la precipitació d'aigua en forma de multitud de petits cristalls de gel.
雪とは、無数の小さな氷の結晶の形を取った降水である。
la 定冠詞(女性形)
és ~だ
la 定冠詞(女性形)
precipitació 降水、降雨
d' ~の
aigua 水 < 羅 aqua
en forma ~の形
de ~の
multitud 複数、多数
de ~の
petits 小さい
cristalls 結晶
de gel 氷の
6. 仰ぎ見る松の木の枝先が、月夜に歌うものは...♪
ガリシア語です。上掲はガリシア州歌「松の木 Os Pinos」です。
A ( neve ) é un fenómeno meteorolóxico consistente na precipitación de pequenos cristais de xeo.
雪とは、小さい氷の結晶の降雨によって成る気象現象である。
a 定冠詞(女性形)
é ~である
un 不定冠詞(男性形)
fenómeno 現象(男性名詞)
meteorolóxico 気象学の(形容詞・男性形)
consistente 構成されし
na < en + a(~の中で+定冠詞 女性形)
precipitación 降雨、降水(女性名詞)
de ~の
pequenos 小さい(形容詞・男性複数)
cristais 結晶(男性名詞・複数)
de ~の
xeo 氷 (男性名詞)
ガリシア語の上記 xeo ( < geo < gel )
カタルーニャ語の gel 、
今回出なかったけどイタリア語 gelu やスペイン語の hielo まで、
ラテン語の gelū 「霜、寒さ」 に由来してますね。英:cold とも一応同根。
7. Pour Ayiti!
ハイチ国歌(クレオール版)が恰好いいのですよね…
なお h は仏語で発音しないのでハイチ人は自国を「アイティ」と呼びます。
( Lanej ) se dlo glase ki tonbe nan livé (sezon fredi) nan rejyon frèt.
lanej 雪 < la neige
se ~だ < c'est
dlo 水 < de l'eau
glase 凍った < glacé
ki (関係代名詞) < qui
tonbe 落ちる、降る < tomber
nan ~において < (-n) en
livé 冬 < l'hiver
sezon 季節 < saison
fredi 凍える、寒い < froid (?)
rejyon 地方 < région
frèt 寒い < froid
定冠詞とかリエゾンがそのまんま単語になるのいいですよね…(感想)
8. 総括
というわけでいかがでした?私以外の15人のうち4名にご正答頂きましたので、猛省し、次回はこのようなことがないよう難化させてまいりますね。
…というのは冗談にしても、今回に限らずオモイカネ杯は正答率がエグめの大会です。途中「正答率50%の問題に"簡単すぎましたかね…?"と出題者が漏らす」場面もありましたが、一般のクイズ番組で「正答率50%の問題!」って出てきたら身構えるんですよね普通…。
解き方としては、高等語彙から考えていただいたほうがスムーズです。
「氷」「水」のような基礎語彙ですと、何百年という日常使用によってどんどん語形変化していくので原形が良く分からなくなります。
【水】ラテン語 aqua から…
伊 acqua
西 agua
ロマンシュ aua
仏 eau
カタルーニャ aigua
ルーマニア apă
ラテン語のアクアが分かっても、「オー」とか「アゥア」とか「アパ」って言われて「水やな」とはなりませんね。
【氷】ラテン語 glaciēs から…
仏 glace
伊 ghiaccio
ルーマニア gheață
ガリシア lazo
アストゥリアス llaz
これも中々。「グラキエース」から「ギアッチョ」「ゲァツァ」果ては「ジャス」では想像力の翼でも追いつけません。
そこで高等語彙です!
【結晶化した】
仏 cristallisé
伊 cristallizzato
西/葡 cristalizado
ルーマニア cristalizat
カタルーニャ cristal·litzat
ほぼどの言語でも分かりますね!
こういう語彙から攻めていくのが常道でしょうか。
中国語の文章を見せられて分からないとき、「是」とか「去」とかの文法要素寄りのものよりも「教室」とか「連帯」とか「語法」のほうが意味が分かりやすいように。
韓国語が分からないながら韓国語を読むときも
「あっここよく見ると 事故(sago)って書いてある、近くに鉄道 (cheoldo)もあるから鉄道事故の話かな?」みたいにしますよね。(…しますよね?)
メタ的な読み方としては
「シチリア語版やハイチクレオール語版のWikipediaに記事があるということはかなり基本的な現象だな」
と思って頂いて構いません。
まだまだ発展途上にある言語版で「ダイヤモンドダスト」とか「蜃気楼」の記事があることは考えにくく、むしろ「雪」「霧」「空」などは存在するだろうという。参加者のなかでもウィキペディアンの宇喜多さんなどにはこの辺読まれてそう。
今回の正解者は けみかさん、峅井ひづきさん、古典力学たんbot、防災学たんの4名。「回答言語不問」に真っ向から挑んできた古典力学たん(ドイツ語でSchneeって書いてくれました)、安定のけみかさん&防災学たん、そして初参加でラテ問をぶち抜く驚異のニューカマーひづきさん。さすが北陸のひと。皆さまに喝采を送り、結語としたいと思います。
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