オホ声達也

「僕の名前は御保声達也,ここの高級レストランを営む料理人さ.」
達也は聞いてもいないのにいきなり挨拶をしてきた.
しかも自分で高級て(笑)

僕はとある高級レストランに食事をしにきていた.
この店は1000円近い値段で水を売っていると悪名高い店だ.
なぜこんな店で食事をしているかというと,キャッチのお兄さんに1000円で飲めると言われたので付いて行ってしまった次第だ.
まさか1000円で飲めるのが水だけだったとは驚きだ.
完全にやられた.あのお兄さんにはあとでしょんべんでも引っ掛けてから帰ろう.

そんなことを思いながら御保声シェフの長ったらしいメニューの説明を聞いていた.
最後にシェフはこう言った.
「お決まりでしたら,こちらの機械を操作してお呼びください.」
私は意外とハイテクなんだと思いながら,その呼び出し機を受け取った.

メニューを見ると意外にも料理は美味しそうで,期待が高まった.
厨房はライブキッチン形式で外から調理風景が見れるようになっていた.
少し覗いてみると,そこではシェフを含めた総勢21名の料理人たちがそれぞれの調理場でキャベツをスライサーで千切りにしていた.
思わず,「スライサー使ってる方か,キャベツばっか切ってる方かボケは一つにしろ!」とツッコんでしまった.
だが,そんな私の言葉も彼らの耳には届かない.
それほどまでにキャベツを千切る音がうるさかった.

一通りメニューを眺めて注文が決まった私は,呼び出し機を使った.
次の瞬間,うるさかった千切り音を切り裂き,シェフのオホ声が厨房に響き渡る.
何事かと思い厨房に向かうと,シェフが厨房で絶頂していた.
そしてシェフは喘ぎながらこう言った.
「ローターのスイッチを止めてくれ...」
私は唖然としたが,すぐにその言葉の意味を理解した.
なんと私が呼び出し機だと思っていたものはロータのスイッチであった.
私は急いでスイッチをオフにしようとしたが間違えて逆にスライドさせてしまった.強モードになってしまったのである.

シェフ,再び絶頂.
野太いオホ声を響かせて,声が収まるとシェフはもう虫の域であった.
改めてスイッチを切るとシェフはか細い声でスタッフにこう呟いた.
「もう帰ってもらえ...金返してやれ...」
客を帰す行為は某ラーメン屋を彷彿とさせるが,彼の声にはそのような覇気は感じられなかった.
悪いことをしたなと思いつつ,うろ覚えの本家リスペクトで「ご縁があったらまた来ます」とだけ伝えた.
帰り道でラーメン屋の動画を確認したらそのセリフ言ってるの店主側だった.恥ずかしい.

これといったオチはないのだが,後日談として聞いたことを話すと,あのレストランでは元々は普通の呼び鈴を使っていたそうだ.
しかし,あの千切り音がうるさく全く意味をなさなかったらしい.
そこでシェフが開発したのが,アナルローター呼び出し機である.
導入当時は呼び出してることが分かりやすく重宝したらしいが,問題はシェフの穴にあった.
シェフの穴は呼び出されるたびに感度が上がっていき,それも最初は仕事のうちと我慢していたそうだが,今回は我慢の限界だったようだ.
呼び出し機を開発したつもりが,まさか自分の穴を開発してしまうとは.
ミイラ取りがミイラになるとはよく言ったものだ.

これがこのミステリーの結末だ.
「プライベートでも推理をしてしまうとは,職業病かね.」
僕は探偵事務所内でそう呟いた.

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