三橋鷹女7

 赤まんま墓累々と焼けのこり

 光景が目の前に浮かびあがってくる。幸いなことに一人息子の陽一は、戦地から生きて帰ってきた。鷹女は、以後も歯科医院の奥様として、何不自由のない一生を送った。

 老鶯や泪たまれば啼きにけり 

 老鶯(ろうおう)というのは、年老いた鶯のことではなくて、夏になっても鳴いている鶯のことを言うらしい。夏もまだ啼いている、声の張りをなくした鶯が、泪を溜めて一声啼いた。この女流俳人も、自らのこれからさほど長くもない老い先に感じ入るところがあったのだろうか。
 そして、自分と老鶯を比較して、泪のわけを考えたのだろうか。私はこのような思いから泪が眼に溜まるが、あの老鶯はなぜ泪を溜めるのだろうか、などと想像したのだろうか。


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