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遠藤宏/5枚の写真から語る『小屋』  都市のラス・メニーナス【第16回】

2020年から「路上観察の現在地を探る」として、いろいろな方をお招きして、その方が見ているものの魅力、また、どうしてそういう視点に至ったかなどを、片手袋研究家の石井公二編集者・都市鑑賞者の磯部祥行がお聞きしてきたトークイベント『都市のラス・メニーナス』主としてYouTubeで配信してきた。「ラス・メニーナス」とは、17世紀にベラスケスによって描かれた、見る人によってさまざまな解釈を生じさせる絵画。街も、人によって、まったく異なる見え方をしているはずだ。

平井オープンボックスのオープンを機会にこのイベントの会場を固定し、毎月1回、開催する形に変更。その第1回(通算では第16回)となるイベントが、2023年4月16日(日)に、小屋愛好家の遠藤宏さんをお招きして開催された。

中央が遠藤宏さん。左は石井公二、右は磯部祥行(写真=丸田祥三さん

「5枚の写真」で小屋を語る

遠藤さんには、無茶なお願いだと感じつつ、「5枚、写真を選んでお送りください」とお願いしていた。ベスト5なのか、5コマ漫画のような組み写真なのか、あるいは別のものか。遠藤さんも悩んで選んだトークの1枚目は、青森県の下北半島で撮った写真から。

1枚目。遠藤さん「たくさん見てきたなかで、ここまで情報量が多い小屋は珍しいのではないか」

遠藤さんは、地面の砂利、竹竿、立てかけられた木材、右側の洗濯ばさみ、写っているあらゆるものを読み込んでいく。そこにあるすべてに、そこにある理由があることを見抜く。ビールケースなどは最初はわからなかったが、見つめるうち、人と話をするうちに役割が見えてくる。

1枚目写真の補足

人によっては「小屋、ですね」としか認識しないものが、ここまでの解像度で見えてくる。

そして、「どこまで小屋か」という話になる。この建物だけで機能しているわけではない。手前の砂利、右の道、左のさらなる昆布干し場、等々。「小屋」は建物を表す言葉だが、周囲を含めて「見て」いるし、写真もそういうふうに撮っている。

初めての1枚

2枚目の写真は「初めての1枚」

これが、遠藤さんが2017年に、初めて意識的に撮った小屋だ。秋田県のじゅんさいの取材をした際に、この小屋で休憩することになり、ここでお話をうかがうと同時に、じゅんさいの汁物をいただいたそう。奥には横になれるスペースもある。そのとき、遠藤さんは「小屋は、こんなに人の生活や労働に密接に結びついているのか」と強く感じて、そこから急速に小屋に引かれていく。

2枚目の補足

これは3件目に撮った写真。奥の薪小屋を、木が貫いている。小屋がどうやって作られたのかを想像できる。左手前の写真も、ドア裏の補強などから見えてくるものがある。こうして、遠藤さんは小屋に向き合い始める。

3枚目は「小屋の定義」を問う話に

小屋と、小屋じゃないものの境はなんだろう?

石井は常々「片手袋を定義しようとすると、必ず例外が出てくる。分類しようとしても過半数は分類できない」と言っている。遠藤さんも同じことを言う。法的な「建築物」であることを基準とするのか。あるいは自分で定義するにしても、屋根と柱があればいいのか。では、屋根は、固定されているべきか、稼働でもいいのか。現実に存在するものたちが、そういう揺さぶりをかけてくる。

「小屋」とは?

役割や構造は、柱や屋根がある小屋と同じだ。ならば、これらは「小屋」と言えるか? 「3枚目」だが、数々の写真を出しつつ、考えていく。磯部は、こうした「境界」を見ること、考えることがとてもおもしろいという。

「小屋」以外の活動…「東京乱反射」「今日も信号待ち」

4枚目。光として浮かび上がった都庁

遠藤さんはフリーカメラマンだ。遠藤さんの、「小屋」以外のモチーフをうかがった。これはその一つ、「東京乱反射」。ビルの窓ガラスなどが光を反射し、思いがけない模様をそこかしこに作り出す。

5枚目。いろいろな信号待ち。

こちらは「今日も信号待ち」。クルマで移動することが多い遠藤さんは、信号待ちの光景を記録している。遠藤さんの前を、いろいろな人が、いろいろなものが横切っていく。目で見る光景はすべてつながったストリートビューのようなもので、それをすべて振り返ることは不可能だが、特定のテーマを設定すればこのように特定の光景が浮かび上がってくる。

小屋と窓ガラスの反射、信号待ちの写真は一見すると脈絡がないように思える。しかし被写体として共通しているのは、普段は視界の片隅にあって見向きもされないもの、という点だ。それを視界の中心に持ってくることで見えてくる人の営為があるのではないかと考えて、遠藤さんは写真を撮り続けている。

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「路上観察」というのは、現代においてはかなり大雑把なククリだが、何かを観察・鑑賞する人は、別の何かも観察・鑑賞している。それらはその人のなかできっとなんらかの関係性があるはず。こうして発表し、発言することで、そうしたことの考察が進んだら、あるいはご覧になった方々の中でもそうした考察が進んだら、開催するほうとしてはとても嬉しい。今後も毎月開催していく予定。情報は石井・磯部のTwitterで随時お知らせします。

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(1)YouTubeにて最初の30分を公開しています。

(2)配信すべてを有料にて観覧いただけます。
『5枚の写真から語る小屋』都市のラス・メニーナス Season2

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