【Mリーグ2020ファイナル】最終戦の差し込みとドリブンズに感じる違和感

先日まさかの大逆転劇によってEX風林火山の優勝で幕を閉じたMリーグ2020。
巷ではセミファイナル4位チームが優勝するジンクスについても話題となっているが、何よりもの話題は最終試合を4位で迎えた赤坂ドリブンズの村上淳選手の打ち回しについてだ。

最終戦前の点数状況

最終戦に挑む各チームの点数状況は以下の通り。※()は上位差

EX風林火山 231.1
KADOKAWAサクラナイツ 163.8(67.3)
渋谷ABEMAS 125.6(38.2)
赤坂ドリブンズ ▲132.8(258.4)

いわゆる三つ巴の状態だ。

最終戦における目標は当然上位3チームは優勝となる。
Mリーグルールにおいて1試合で100ポイントが覆ることは夢のような話ではないので、見る側の関心もそこに集まっていた。

赤坂ドリブンズの最終戦目標

一方、1チーム大きく溝をあけられた赤坂ドリブンズにとっては非常に難しい一戦となる。

3位ABEMASとのポイントさは258.4ポイントで、正直言って捲くるのは無理と言っていい差だ。麻雀は親番が続く限りはいくらでも稼げるゲームだが、これだけの点差をひっくり返せるほどの継続率はもっていない。

としたときに、優勝を争う3チームを前にどういう戦いをするのか、は注目どころだ。

戦い方としては以下のパターンが考えられる

①0%になるまで諦めない型

ほぼ無理とは言え、親番が落ちるまでは諦めず、上位を狙う。
この場合、他家の都合はまったく関係なく、もりもりゴリゴリに攻めて和了を目指すことになる。また、局消化が進んでしまうような流し手などをやってる場合ではなく、子番でも積み重ねが必要

②とりあえず普通にトップ狙う型

①はとはいえ無理でしょう、としたときに、優勝争いする3チームになるべく公平であることを考えたはずだ。麻雀は非常にランダム要素が多いゲームであるため、基本的に公平平等にプレーすることは無理である。つまり、ただツモって切ってるだけでもどこかしらのチームが有利となり、他は不利となることが避けられない。

だったらいつもどおり打ったほうが自然じゃない?というのがこの考え方だ。

③ただひたすらにベタオリを続ける型

②と考え方としては近いが、やってることは大きく違う。②は和了るがこっちは和了らない。こっちのほうが影響少ないのでは?とも感じられるがそうでもなく、全くリスクを侵さないため条件を満たした並びを他チームが作ることも至難の業。また、亜種としてツモ切りを続けるというパターンもあるが、これは下家有利になるケースが多い。

結果としてドリブンズは②を選択した。ただ実直にトップを狙う麻雀を目指したのだ。

ここで念の為言っておくと、私はどの選択肢を選んでもよいと思っているし、よかったと思っている。ルールや大会によってはしきたりや慣わしがあったりするようだが、Mリーグには無いし、なによりどうやったって誰かしらに影響は出るのだから、①②③に対する批判はそもそもナンセンスだ。

ファイナル唯一のイージーゲームとなる

で、どうなったかというと、条件のある無しに関わらず、フラットに見てドリブンズ村上選手は配牌にもツモにも圧倒的に恵まれていた。

ドリブンズはここまでの11戦、決して楽ができるような運には恵まれておらず、やっときたというような感じだ。

着実に和了を重ね、いつの間にかトップ目。ランキング1位の風林火山勝又選手も卒なく局をまわし、2着目につけ、いよいよサクラナイツとABEMASは厳しくなっていった。

しかし、南1局のドリブンズの親番が落ちたとき、ドリブンズとしてはほぼ完全に着順アップの芽は潰えてしまった。

ここでひとつ卓内には注目が集まる。

「残りの子番3局、ドリブンズはどう戦うのか」

村上選手の第一打は白。これは、最後まで普通に打ちますよのサインだった。

そしてこの局もあっという間に村上選手は大物手の聴牌を入れ、サクラナイツ内川選手からロン和了。ABEMAS多井選手がうなだれる中、ここでABEMASの優勝の芽も潰えた。

一見着順アップの可能性のないドリブンズが、ABEMASを潰したようにも見えるが、そんなことは関係ない。村上選手は普通に打っていたら普通に和了る手をしっかり和了っただけだ。

唯一違和感があった南3局

親番がサクラナイツ内川選手へと移る。
サクラナイツはもっとも風林火山に近い存在でありながらも、この試合は大きく離された4着目。この親番は絶対に落とせない。

一方で風林火山にとってはこの局を落とせば優勝が決まる。勝又選手は役牌のダブ南を鳴いて、局消化に急いだ。

そして疑問の残るプレーが生まれた。

ここまである程度守備的に局消化を進めていた勝又選手の鳴きを見るやいなや、村上選手が差し込みに動いたのだ。自身の手牌を崩しながら、危険牌を切り出す村上選手。そして6sが勝又選手のロン牌となり、風林火山の優勝が決定した。

村上選手は自身の和了ではなく、他人の和了をアシストしてサクラナイツにもトドメをさしたのだ。

差し込みはするべきだったのか

このプレーに、私は大きな違和感を感じた。同時に、感情的に言うとつまらない試合になったなと思った。

果たして差し込みをすることが必要な局面だったのだろうか。

通常、差し込みとはトップ目や条件を満たした者が、振り込んだほうが自身の得になる場合に行われる行為だ。よくあるのはラス目に対して、トップ目が振り込んで試合を終わらせ、自身のトップを確実なものにする、或いはMリーグセミファイナル最終戦のABEMAS多井選手が風林火山勝又選手に対して行ったように、ライバルチームにラスになってもらうためにやったりする。

今回のケースにおいて、差し込むにはあまりにも理由が弱く感じられた。

・村上選手はトップ目であり、2着目の勝又選手への差し込みは点数によってはトップ目が危うくなる可能性がある
・勝又選手はまだ親番を控えており、自身のトップが確定する差し込みにならない(厳密にいうと勝又選手はオーラス和了らない可能性が極めて高いが)
・親番の内川選手はラス目であり、点差は大きく、ここで1、2局ツモられたところで村上選手のトップに影響するほどではない
・勝又選手が自力もしくは他家から和了ってもらったほうが、村上選手にとっての点数ダメージは明らかに少ない

これら4つくらいの理由が、差し込みの是非が問われる理由だ。

ただ、2つ目の理由がことをややこしくしている。
村上選手は、勝又選手がオーラス和了らないことを確信していた。
(この場の全員がそう思っていた)

だからこそ、差し込んでしまえばこの試合は終わり。
自身はトップ濃厚である。だから差し込みにいったのだろう。

他チームの条件を利用してまで勝つ必要があったのか

この判断は、私はおかしいと思っている。

再三言っている通り、ドリブンズがトップを取ることで何かが変わることはないのだ。(来期に向けての勢い付けとか、見てるドリブンズファンのために、みたいなのはあるのかもしれない)

にしても、ここで差し込むか差し込まないかでトップが揺らぐ状況には到底見えない。

そして、勝又選手が和了らないということがわかっていなければまずやらない差し込みなのだ。

仮に村上選手がまっすぐ和了に向かって、全ツッパして振り込んでいたなら何も疑問は抱かなかっただろう。そこまではやらなくても、この局は勝又選手に自力で和了ってもらおう、とするのが普通の局面だったのではないだろうか。

優勝も着アップの芽もないチームが、他人を利用して局消化するというのは納得できない。

言葉を選ばずいうと、この差し込みでゲームは壊れてしまった。

SNS上では論点がズレている

同じような苦言を呈している人はかなり多い。

が、これを批判する意見はほぼプロとして当たり前の麻雀を打ったまで。というもので、これがプロだと言われるとどうなんだろうと感じた。

また、差し込みについての違和感を唱える人たちを、まるで村上選手の戦い方すべてに対して批判している人たちのように捉えられている状況が気持ち悪い。我々は村上選手が和了を目指し続けたことは構わない、むしろとても気持ちよく見ていた。ただ1回、この差し込みだけが致命的に解せないということだけなのだ。

ミスは誰にでもあるというのも見つけた。これはミスと呼べるのだろうか。明らかに差し込み続けようという意志を感じる打ち回しだった。途中でブレーキすることだってできる場面だったと思う。

ドリブンズというチーム

ここで少し話は変わるが、私は赤坂ドリブンズというチームだけが、8チームで異色なチームだと感じている。好きか嫌いかで言うと好きではない。

感覚的な話になってしまうが、Mリーグの捉え方が他のチームとはちょっと違うように見えるのだ。

例えば、丸山選手の起用についてだ。

丸山選手は2019年シーズンに突如現れた無名の女流プロだった。ドリブンズが指名をしたとき、誰それという反応が他チームからも出ていたくらい、予想外の指名だった。

なんでもセンスを感じられる、ということで「育成枠」という呼び方をしていた。蓋をあけてみるといきなり見逃しからの倍満ツモ和了でデビューするなど、その可愛らしいキャラクターも相まってとてもワクワクさせてくれる選手だ。

しかし、丸山選手は非常に出番が少ない。Mリーグは最低出場試合数の規定があるが、丸山選手は2年連続でそのギリギリの出場機会しか与えられていない。ネット上では「まるこを出せ!」と日々鬱陶しいほど発信する人もいたり、Mリーグファンからはもっと見たいという声が多い選手なのにも関わらずだ。

決して成績が劣っているわけではない、ドリブンズは相当ポイント的に余裕のある時期もあった。にも関わらず、あくまで男子プロ3名が主体であり、ルール上女流が必要だから1名話題になりそうな選手を入れて、育成という名のもと最低限の出場機会だけを与える、そんな采配に見えてしまう。

それであって、ダントツに強いわけではない。むしろ若手を上手く起用しながらドリブンズよりも好成績を残しているチームがたくさんある。

育成についてはよくわからないのであまり言うつもりもないが、試合に出ないで控室にいるだけで、何が育成なんだろうというのは疑問だ。

サクラナイツの岡田選手、ファイトクラブ高宮選手など、自団体のリーグ戦ではまだまだ上位環境で打てていない選手はMリーグに何人もいる。それでもそういう選手もしっかり起用していくというスタイルは、7チームにはあるように見える。

ドリブンズはSNSをもっと活用してほしい

もう一点、ドリブンズに感じる違和感は、すごく閉鎖的だということだ。

ドリブンズは全チームで唯一、Twitterをまともに活用していない。あるのはサブアカウントの「ドリブンズアカデミー」のRTと、毎試合の控室配信の告知だけだ。

その控室配信も、特に視聴者とコミュニケーションをするわけでもなく、ただ何時間も定点でだだ流ししているだけで、アーカイブもそのまま放置。局ごとにソートされているわけでもないから、あとから見返す気には全くならない。

選手個々に目を向けると、園田選手やたろう選手はそれぞれのYouTubeチャンネルで牌譜検討をしたり、自身の考え方を発信したりしていて非常に見応えがある。丸山選手のTwitterやInstagramも更新頻度は高く、ファンとの交流もマメだ。

こういうことをやることを厭わない選手が揃っているにも関わらず、チームが全く発信しようとしない。要は、自分たちは自分たちの世界の中で生きられればよくて、ただ勝利できればそれでよい、というのが透けて見えてしまっている。

ここまで意見が飛び交っている最終戦問題についても、村上選手には相当精神的な負担がかかっているはずだ。それを緩衝し、村上選手の意図や意志、いやチームとしての方針というのを、オフィシャルとして発信すべきじゃないのだろうか。

事実、他チーム選手のTwitterやらYouTubeには「村上選手のプレーどう思いましたか」みたいな答えに困る質問が相次いでいる。他チームにまで波及してしまっているのに、オフィシャルはだんまりを決め込んでいる。

丸山選手の起用についても、こういう方針なんだと説明をする機会があってもいいと思う。そういった発信やコミュニケーションが、Mリーグをプロスポーツとして昇華させていくと思う。

ドリブンズは大手広告代理店「博報堂」のチーム

もっと言うと、ドリブンズの親会社である博報堂は業界2位の超大手広告代理店だ。最近の広告代理店はメディア売買や単発的なプロモーションというより、コミュニケーションデザインやコンサルの色が強い。

はたして自チームに対してそれができているのか、自チームにもできないのに本業でできているのか、これは結構疑問に感じるところである。

チーム運営はただの慈善事業ではなく、運営企業にもメリットが必要だ。このチーム運営のやり方は、博報堂の本質を体現しているのか、それともマイナスに動いているのか。

社内にたくさんいるであろうコミュニケーションのプロフェッショナルをチームに加えて、テコ入れしてみてはいかがだろうか。

さいごに。Mリーグはエンタメである

Mリーグは、やっている選手たちにとっては真剣勝負の場であることには変わりないが、見ている視聴者からすれば、そんなのは当たり前で、その先にあるエモーショナルなエンターテイメントを求めているのである。

選手は全力でプレーし、それを心打つものに演出するのは各チームの役割ではないだろうか。

選手やチームの方針や意志は、もっと発信していくべきだはないだろうか。

このオフシーズン、ドリブンズのコミュニケーションがインタラクティブに、オープンに変わることを期待している。

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