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【短編小説】シンデレラの憂鬱


#眠れない夜に

シンデレラは憂鬱だった。彼女は「めでたしめでたし」で終わらないこの世の真実を知っていた。知りたくもなかった真実を。
最近彼女の銀髪と、深いしわは一日が過ぎるごとにひどくなったように感じられる。隠せば隠すほど目立たせろと言わんばかりに目につくそれらは、彼女の心をざわめかせた。
『「世界一」とまで称されたシンデレラの美貌も老いを前に成す術なし』
誰かが誰かに耳打ちする。人々は軽蔑の目で彼女を見る。

全ての人がわたしを笑い者にしている。
あの貴族も、あそこに立ってる侍女も、王様まで。

そう自覚した瞬間、彼女の中に自分でもいままで考えたことのないようなどす黒い炎がくすぶった。

若さがほしい!若ささえあれば!彼女は若さを強く欲した。底のない欲望は行き場をなくし少し駆け回った後自分の主人を飲み込んだ。

めらめらと燃え上がる炎はもう彼女一人の力では抑えきれない。

その時、ふと視界の端に、
真っ白な肌、真っ赤な唇、愛らしい目、全てにおいて彼女の真反対にいる存在。
日に日に美しさを増す可愛らしい姫は、王女こと、彼女の娘である。

やってはいけないと頭では分かっているが、甘い誘惑が彼女の耳元で囁いてやまない。今なら彼女を虐めた継母の気持ちがわかる気がする。


『あの小娘め』


べたついた意地の悪い笑みを浮かべ甲高い声で自分の思考を締めくくった彼女の目は、もはや子を愛する母のものでも思慮深い王妃のものでもなかった。




数日後、姫を森に見送ったシンデレラは、すぐに変装した。
全ては世界一の美貌のため。
そして林檎の入った古いカゴと杖を持ち密かに城を出た。


そんなことつゆしらず、小鳥や森の動物と戯れる少女はふと目をやると見知らぬ老婆がこちらに向かってくるのに気づいた。
黒いマントを巻いたうつむき今にも倒れそうな老婆はひどく弱々しく見えた。

清く美しい姫はよろめく老婆に駆け寄った。
『お婆さん、大丈夫?まあこんな沢山の林檎を持って!少し持ちますよ。』

そんな姫をジトッと見、ニッカリと笑った老婆はおもむろに林檎を一つ取り出した。


『白雪姫や、林檎はお一ついかが?』

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