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『ONE PIECE FILM RED』ブッ飛びヒロインがONE PIECEの世界をブッ壊しにくる異色作

【Amazon Prime Videoでまもなく配信開始のアニメ作品をレビューするシリーズ 2023年3月編 その1】

——自分のライブ会場に世界中からファンをかき集めて、永遠に皆と楽しく暮らす。誰一人、私の世界から帰さない。

歌うヒロイン・ウタ(CV:名塚佳織)は、あまりに突拍子もない夢を抱き、それを実現する能力を持つ。彼女のようなキャラ、他のアニメには出せないだろう。

『ONE PIECE FILM RED』は「週刊少年ジャンプ」連載のコミック『ONE PIECE』(作:尾田栄一郎)の劇場版アニメ。2022年8月から翌年1月までのロングラン上映となり、興行収入197億円の大ヒットを記録。3月8日、早くもアマゾンプライムビデオで配信開始だ。

映画オリジナルキャラのウタは、圧倒的な歌唱力で世界中の人々の心を操る(劇中歌は歌手のAdoが担当)。そして悪魔の実の能力を使い、「歌」で戦う。音符で海賊たちをなぎ払い、五線譜で縛り上げる。ライブ会場に来ていたルフィも歯が立たない。

もはや歌姫というより「歌う暴君」。『ONE PIECE』の世界だからこそ、違和感なく溶け込めるブッ飛びキャラだ。

この『ONE PIECE』らしいヒロインが、『ONE PIECE』の世界を全否定し、根本からひっくり返しにくる。

「ねえ、ルフィ。海賊やめなよ」

「大海賊時代はもうおしまい! 平和で自由な時代が来るんだよ! 最高でしょ!? 食べ物や楽しいことはいっぱいある! そして、ひどいことする人や、病気や苦しみはないんだよ!?」

『ONE PIECE』は海賊たちのバトルアニメだ。その裏には、戦闘に巻き込まれたり、略奪の被害にあったりした罪なき人たちがいる。過去のテレビシリーズや映画であまり描かれなかった一般市民にスポットライトをあて、「大海賊時代」という舞台そのものを揺さぶる。「海賊嫌い」のヒロインが、歌の力で平和な新時代をつくろうとする。今作はかなり振り切った、チャレンジングな脚本だ。

でも、ちゃんと『ONE PIECE』のドラマになっているのが凄い。後半部で描かれるウタの過去やルフィとの友情、ウタを護ろうとする父・シャンクスの雄姿。原作/総合プロデューサー・尾田栄一郎節全開のストーリーだった。

あとウソップやナミ、サンジがウタの大ファンであるという設定が面白い。ウタの配信を欠かさず観ているし、特典アイテム欲しさに、コスプレ姿でライブ会場にやってくるほどの入れ込みよう。麦わらの一味の10代~20代が、ポップカルチャーを楽しむのは至って自然なこと。冒険バトルモノの『ONE PIECE』にリアリティを感じるなんて初めてだ。

これは、YouTubeに投稿されたAdoのMVが若者を中心に視聴され、爆発的な再生回数を叩きだした経緯と重なる。現実世界とシンクロする、全く新しい『ONE PIECE』作品だった。

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