Batalin-Vilkovisky形式
好きな理論形式
ちょっと先走るんですけど,くりこみの拘束条件であるZinn-Justin方程式(まぁWard-Takahashi恒等式の類かな)の理解に役立ったり,これは僕はまだ理解してないんだけども,Anomalyの理解にも役立つらしいのでできる限り説明しようと思います.あと単に「マスター方程式」みたいな名前がかっこいいので好き.
そんなに詳しく理解できているわけでもないので,おかしいところがあったら指摘してください.noteのコメント機能把握してないけど…
反場の導入
Batalin-Vilkovisky形式の出発点は,理論の場それぞれに対して「反場(antifield)」を導入する点です.物質場$${\phi^r}$$やGhost場$${\omega^A}$$,反Ghost場$${\omega^{*A}}$$,Nakanishi-Lautrup場$${h^A}$$を全て抽象的に$${\chi^n}$$で表すことにして,それぞれの$${\chi^n}$$に対して反場$${\chi_n^\ddagger}$$を導入します.
(注意:この記号はかなり簡略化したもので,添え字の$${r,A,n}$$には場の種類やゲージ変換の添え字などの離散的な添え字だけでなく,時空の座標などの連続的な添え字を含む「DeWitt記法」を使っています.連続的な添え字の縮約とはすなわち,積分です.)
$${\ddagger}$$の記号は,通常の複素共役とか荷電共役とかとは無関係であることを強調するために$${*}$$とかの記号の代わりに使います.特に気を付けてほしいのは,反Ghost場$${\omega^{*A}}$$はGhost場$${\omega^A}$$の反場$${\omega^\ddagger_A}$$と「同じではない」ということですかね.
この反場は,BRST変換された場$${s\chi^n}$$と同じBoson-Fermion統計性と,反対のGhost-numberとを持ちます.ここでBRST変換演算子$${s}$$はSlavnov演算子
$$
s=\omega^A\delta_A\phi^r \frac{\delta_L}{\delta \phi^r}-\frac{1}{2}\omega^B \omega_C f^A_{BC}\frac{\delta_L}{\delta \omega^A}-h^A\frac{\delta_L}{\delta\omega^{*A}}
$$
です.R,Lの意味は後で一緒に説明しますね.
例えばGhost場$${\omega^A}$$はGhost-numberが1ですが,BRST変換された$${s\omega^A}$$はGhost-numberが1増えて2になり,つまり反場$${\omega_A^\ddagger}$$はGhost-numberが-2です.$${\omega^A}$$はFermionicなので,$${\omega_A^\ddagger}$$はBosonicです.
一般に,$${\chi^n}$$のGhost-numberを$${\mathrm{gh}(\chi^n)}$$とすれば,反場$${\chi_n^\ddagger}$$のGhost-numberは$${\mathrm{gh}(\chi^\ddagger_n)=-\mathrm{gh}(\chi^n)-1}$$となります.
master方程式
僕らが基本扱うYang-Mills理論とか,一般相対論などの場合では,もとのゲージ不変作用$${I[\phi]}$$に反場$${\chi_n^\ddagger}$$と$${s\chi^n}$$が結合する項を以下のように加えます.
$$
S[\chi,\chi^\ddagger]\equiv I[\phi]+(s\chi^n)\chi^\ddagger_n
$$
(各項がちゃんと総Ghost-numberゼロであることを確認しましょう.)この作用は,master方程式と呼ばれる次の方程式を満たします.
$$
0=\frac{\delta_RS}{\delta \chi_n^\ddag} \frac{\delta_L S}{\delta \chi^n}
$$
ここで出てきたL,Rの記号は,左微分と右微分を表します.具体的には,$${\delta F=G\delta \chi}$$と表されたとき$${G=\delta_R F/\delta\chi^n}$$と表し,$${\delta F=\delta \chi G}$$と表されたとき$${G=\delta_L F/\delta\chi^n}$$と表します.これらの微分は一般に等しくなく,区別する必要があります.具体的には
$$
\frac{\delta_R F}{\delta\chi^n}=(-1)^{(|F|+1)|\chi^n|}\frac{\delta_L F}{\delta\chi^n}
$$
となっています.ここで$${|F|}$$の絶対値のような記号は,$${F}$$がfermionicなら+1,Bosonicなら0をとる記号(degree)とします.
この方程式が成り立っていることを確認してみましょう.作用$${S[\chi,\chi^\ddag]}$$をmaster方程式に入れてみると,反場についてゼロ次の項について
$$
\begin{array}{lll}
0&=\frac{\delta_R((s\chi^m)\chi^\ddag_m)}{\delta \chi_n^\ddag} \frac{\delta_L I[\phi]}{\delta \chi^n} =(s\phi^r) \frac{\delta_L I[\phi]}{\delta \phi^r} \\
&=\omega^A\delta_A\phi^r \frac{\delta_L I[\phi]}{\delta \phi^n} \\
&=\omega^A \delta_AI[\phi]
\end{array}
$$
途中でSlavnov演算子の定義を使いました.最後の式変形は$${\delta \chi^n=\theta s\chi^n}$$を使って左微分の定義で明らかです.さて,これはただ単に,元の作用のゲージ不変性条件を与えています.反場について1次の項は
$$
\begin{array}{ll}
0=\frac{\delta_R((s\chi^m)\chi^\ddag_m)}{\delta \chi_n^\ddag} \frac{\delta_L ((s\chi^\ell)\chi^\ddag_\ell)}{\delta \chi^n}=(s\chi^n)\frac{\delta_L (s\chi^\ell)}{\delta \chi^n}\chi^\ddag_n=s^2\chi^n\cdot \chi^\ddag_n
\end{array}
$$
これは,BRST変換演算子$${s}$$のベキ零条件を与えています.すなわち,作用がゲージ不変であるように作られておりBRST変換がベキ零であるように定義されている以上master方程式はこの作用$${S[\chi,\chi^\ddag]}$$に対して自明に満たされています.
さて,S行列を計算するためには反場が具体的にどのような値を持っているかを,元の場を用いて与えなければなりません.この目的のために,Ghost-numberが-1の任意のFermionicな汎関数$${\Psi[\chi]}$$を導入し
$$
\chi^\ddag_n=\frac{\delta \Psi[\chi]}{\delta\chi}
$$
とします.(ここで左微分と右微分を区別する必要はありません.なぜなら
$$
\delta \chi^n\frac{\delta_L \Psi[\chi]}{\delta \chi^n}=\frac{\delta_R \Psi[\chi]}{\delta \chi^n}\delta \chi^n
$$
で,両者は一致するからです.)
この定義はしっかりと反場の性質をおさえています.$${\Psi}$$はFermionicなので,Fermionicな$${\chi^n}$$での汎関数微分は全体としてBosonicであり,対してBosonicな$${\chi^n}$$での汎関数微分は全体としてFermionicとなり,元の場と反対の統計性を持っています.さらにGhost数も,$${\Psi}$$の-1と汎関数微分の$${-\mathrm{gh}(\chi^n)}$$により全体として$${-1-\mathrm{gh}(\chi^n)}$$となっています.
さて,こうすると$${S[\chi,\chi^\ddag]}$$は
$$
S[\phi,\delta\Psi/\delta\chi]=I[\phi]+(s\chi^n)\frac{\delta \Psi[\chi]}{\delta\chi}=I[\chi]+s\Psi[\chi]
$$
となります.すなわち,最初に追加した新しい項はBRST完全な項でありこの項の選び方は物理的S行列に対して影響を及ぼしません.
反括弧
master方程式は一般的なBRST変換のもとでの作用$${S}$$の不変性条件,として再解釈できます.それを確認するために,Poisson括弧に似た次の「反括弧(antibracket)」を定義します.
$$
(F,G)\equiv \frac{\delta_R F}{\delta\chi^n} \frac{\delta_L G}{\delta \chi^\ddag_n}-\frac{\delta_R F}{\delta\chi^\ddag_n} \frac{\delta_L G}{\delta \chi^n}
$$
ちなみに,反括弧全体のdegreeは$${|(F,G)|=|F|+|G|-1}$$となります.ここで,$${S}$$のようなBosonicな汎関数については$${|S|=0}$$より
$$
\begin{array}{ll}
\frac{\delta_R S}{\delta \chi^\ddag_n}\frac{\delta_L S}{\delta \chi^n}&=(-1)^{(|S|+1)|\chi^n|}(-1)^{(|S|+1)|\chi^\ddag_n|}\frac{\delta_L S}{\delta \chi^\ddag_n}\frac{\delta_R S}{\delta \chi^n}=-\frac{\delta_L S}{\delta \chi^\ddag_n}\frac{\delta_R S}{\delta \chi^n} \\
&=-\frac{\delta_R S}{\delta \chi^n}\frac{\delta_L S}{\delta \chi^\ddag_n}
\end{array}
$$
(途中で,$${|\chi^n|+|\chi^\ddag_n|=1}$$を用いました.まぁ自明ですね.)最後の等号では,$$\chi^n$$と$${\chi^\ddag_n}$$は必ずどちらかがFermionicで,もう一方は必ずBosonicであることを用いました.したがって,反括弧$${(S,S)}$$はmaster方程式より
$$
(S,S)=\frac{\delta_R S}{\delta\chi^n} \frac{\delta_L S}{\delta \chi^\ddag_n}-\frac{\delta_R S}{\delta\chi^\ddag_n} \frac{\delta_L S}{\delta \chi^n}=-2\frac{\delta_R S}{\delta\chi^\ddag_n} \frac{\delta_L S}{\delta \chi^n}=0
$$
となってゼロです.これがmaster方程式のより抽象化された表現と見なすことができますね.ちなみにこの式は自明ではないです.なぜなら一般に
$$
\begin{array}{lll}
\frac{\delta_R F}{\delta\chi^n} \frac{\delta_L G}{\delta \chi^\ddag_n}&=(-1)^{(|F|+1)|\chi_n|+(|G|+1)|\chi^\ddag_n|} \frac{\delta_L F}{\delta\chi^n} \frac{\delta_R G}{\delta \chi^\ddag_n} \\
&=(-1)^{|F||\chi^n|+|G||\chi^\ddag_n|+1}(-1)^{(|F|+|\chi_n|)(|G|+|\chi^\ddag_n|)} \frac{\delta_R G}{\delta \chi^\ddag_n}\frac{\delta_L F}{\delta\chi^n} \\
&=(-1)^{(|F|+1)(|G|+1)}\frac{\delta_R G}{\delta \chi^\ddag_n}\frac{\delta_L F}{\delta\chi^n}
\end{array}
$$
より
$$
\begin{array}{ll}
(F,G)=-(-1)^{(|F|+1)(|G|+1)}\frac{\delta_R G}{\delta \chi^n}\frac{\delta_L F}{\delta\chi^\ddag_n}+(-1)^{(|F|+1)(|G|+1)}\frac{\delta_R G}{\delta \chi^\ddag_n}\frac{\delta_L F}{\delta\chi^n}\\
=-(-1)^{(|F|+1)(|G|+1)}(G,F)
\end{array}
$$
が成り立ち,したがって$${F,G}$$がともにBosonicなとき$${(F,G)=(G,F)}$$で,それ以外は$${(F,G)=-(G,F)}$$となります.つまり$${F}$$がFermionicなときは$${(F,F)}$$は恒等的にゼロとなりますが,Bosonicなときはそうではありません.したがって$${(S,S)=0}$$という式は自明ではないんですね~.
一般化されたBRST変換
さて,反括弧を用いてBRST変換を一般化しましょう.
$$
\begin{array}{ll}
\hat{\delta}_\theta\chi^n=\theta \frac{\delta_R S}{\delta\chi^\ddag_n}=-\theta(S,\chi^n) \\
\hat{\delta}_\theta\chi^\ddag_n=-\theta \frac{\delta_R S}{\delta\chi^n}=-\theta(S,\chi^\ddag_n)
\end{array}
$$
ここで$$\theta$$はFermionicな微小定数です.これが元のBRST変換の正当な拡張であることを確認したければ,$${S[\chi,\chi^\ddag]}$$が最初に定義した形の作用だと仮定して$${\hat{\delta}_\theta\chi^n}$$に入れれば$${\theta s\chi^n}$$が出てくることが確認できるはずです.さて,多分ですが,一般的なBRST変換はこれらから,$${\hat{\delta}_\theta F=-\theta(S,F)}$$と予想できますね?ではそれを確認していきましょう.この変換の一般的な汎関数への影響を求めるには,
$$
\begin{array}{lll}
\frac{\delta_R F}{\delta\chi^n} \frac{\delta_L GH}{\delta \chi^\ddag_n}&=\frac{\delta_R F}{\delta\chi^n} \frac{\delta_L G}{\delta \chi^\ddag_n}H+(-1)^{|G||\chi^\ddag_n|}\frac{\delta_R F}{\delta\chi^n} G\frac{\delta_L H}{\delta \chi^\ddag_n} \\
&=\frac{\delta_R F}{\delta\chi^n} \frac{\delta_L G}{\delta \chi^\ddag_n}H+(-1)^{|G||\chi^\ddag_n|+|G|(|F|+|\chi^n|)}G\frac{\delta_R F}{\delta\chi^n} \frac{\delta_L H}{\delta \chi^\ddag_n} \\
&=\frac{\delta_R F}{\delta\chi^n} \frac{\delta_L G}{\delta \chi^\ddag_n}H+(-1)^{(|F|+1)|G|}G\frac{\delta_R F}{\delta\chi^n} \frac{\delta_L H}{\delta \chi^\ddag_n}
\end{array}
$$
より,反括弧はLeibniz則
$$
(F,GH)=(F,G)H+(-1)^{(|F|+1)|G|}G(F,H)
$$
を満たし,第二項目は$${G}$$がFermionicで$${F}$$がBosonicならばマイナス,それ以外ならプラスであることに注意すればいいです.したがって,もし$${G,H}$$が$${\chi^n,\chi^\ddag_n}$$の任意関数で$${\hat{\delta}_\theta G=-\theta(S,G),\hat{\delta}_\theta H=-\theta(S,H)}$$が成り立っているとすると
$$
\begin{array}{llll}
\hat{\delta}_\theta(GH)&=(\hat{\delta}_\theta G)H+G(\hat{\delta}_\theta H) \\
&=-\theta(S,G)H-G\theta(S,H) \\
&=-\theta[(S,G)H+(-1)^{|G|}G(S,H)] \\
&=-\theta[(S,G)H+(-1)^{(|S|+1)|G|}G(S,H)]=-\theta(S,GH) \\
\end{array}
$$
となります.つまり,場と反場の積の多項式となっている任意の汎関数$${F}$$に対して
$$
\hat{\delta}_\theta F=-\theta(S,F)
$$
が成立することが分かりました!さあ,つまりmaster方程式とは,これらの一般化されたBRST変換が$${S}$$を不変に保つことを示していると解釈できます.
$$
\hat{\delta}_\theta S=-\theta(S,S)=0
$$
元のBRST変換と同様,この一般化されたBRST変換もベキ零です.これを見るためには,反括弧に対してのJacobi恒等式
$$
\pm(F,(G,H))\pm(H,(F,G))\pm(G,(H,F))=0
$$
を使います.ここで第一項目の符号は$${F}$$と$${H}$$がBosonicであればマイナス,それ以外はプラスです.他の巡回置換項の符号も同様に対応しています.さて,$${F=G=S}$$とするとJacobi恒等式は
$$
\begin{array}{ll}
0&=\mp(S,(S,H))\mp(H,(S,S))-(S,(H,S)) \\
&=\mp2(S,(S,H))\mp(H,(S,S))
\end{array}
$$
となります.ここで符号は$${H}$$がBosonicかFermionicかに応じてプラスとマイナスをとります.master方程式より第一項目はゼロとなって,したがって
$$
(S,(S,H))=0
$$
が示せました!つまり一度$${H\to-\theta(S,H)}$$とBRST変換したものをもう一度BRST変換$${-\theta(S,H)\to\theta'(S,\theta(S,H))}$$としたら必ずゼロになってしまうんですね~.
反正準変換
このベキ零条件により,master方程式の解となる作用$${S}$$は一意的でない,つまり一つに決まりません.たとえば任意の解$${S}$$に対して「微小変換」
$$
S'=S+(\delta F,S)
$$
もまたmaster方程式の解となります.ここで$${S'}$$がBosonicかつGhost-numberがゼロであるように,$${\delta F}$$はFermionicかつGhost-numberが-1であるような$${\chi^n,\chi^\ddag_n}$$の汎関数です.実際,$${(S',S')}$$はベキ零条件より
$$
(S',S')=(S,S)+(S,(\delta F,S))+((\delta F,S),S)=0
$$
となってゼロになります.微小量$${\delta F}$$について二次の項は落としました.特に,$${\delta F}$$を$${\chi^n}$$のみのFermionicな汎関数$${\epsilon \Psi}$$ととると
$$
\begin{array}{lll}
S'&=S[\chi,\chi^\ddag]+(\epsilon\Psi,S)=S[\chi,\chi^\ddag]+\epsilon\frac{\delta \Psi}{\delta \chi^n}\frac{\delta_L S}{\delta \chi^\ddag_n} \\
&=S[\chi,\chi^\ddag+\epsilon\frac{\delta \Psi}{\delta \chi^n}]
\end{array}
$$
最後の等式は通常のTaylor展開を逆に辿ったものです.つまり,作用の反場成分をすこーしだけズラした新しい作用もmaster方程式を満たしています.この微小変化を積分してやって有限の変化にして,反場を新しい変数$${{\chi^\ddag_n}'\equiv \chi^\ddag_n-\delta\Psi/\delta \chi^n}$$にまでズラしてもmaster方程式はずっと満たされています!
このように,作用がmaster方程式を満たすように保ちながら変換をする,というのは解析力学での正準変換に似ていますね?(あの時は正準方程式を保ちながら変換していたのでした.)よって,これを正準変換とは区別して「反正準変換(anticanonical transformation)」と呼びます.反正準変換は場の有限な(または微小な)任意の変換で,基本的な反括弧の関係式(基本反括弧)
$$
(\chi^n,\chi^\ddag_m)=\delta^n_m,\quad (\chi^n,\chi^m)=(\chi^\ddag_n,\chi^\ddag_m)=0
$$
を不変に保つものです.これを示しましょう.たとえば,微小なFermionicな生成子$${\delta F}$$によって生成される,任意のBosonic(or Fermionic)な汎関数$${G}$$を
$$
G\to G' =G+(\delta F,G)
$$
という微小反正準変換を考えます.これが基本反括弧を変えないことを示します.そのために,二つの汎関数$${G,H}$$の反括弧$${(G,H)}$$がこの変換により$$(G',H')$$に変換されると
$$
\begin{array}{lll}
(G',H')&=(G+(\delta F,G),H+(\delta F,H)) \\
&=(G,H)+((\delta F,G),H)+(G,(\delta F,H))
\end{array}
$$
となりますが,ここでJacobi恒等式を用いると
$$
\begin{array}{lll}
(G',H')=(G,H)\pm(\delta F,(G,H))
\end{array}
$$
となります.ここで符号は,$${G,H}$$がともにBosonicならばプラスで,それ以外でマイナスです.もし$${(G,H)}$$がゼロだったり$${\delta^n_m}$$のようなc数ならば,その汎関数微分はゼロだから第二項目はゼロとなって$${(G',H')=(G,H)}$$となります.場と反場は基本反括弧より,c数の反括弧を持つので,変換された場と反場についても基本反括弧はなりたっています!
ゲージ固定作用のBRST不変性
S行列を計算するには,反場に「ある特定の値」を与えなければいけません.我々の普段計算する理論のような,$${S}$$が最初に与えた一次形になっているような簡単な場合には,反場を最初に取ったように$${\chi^\ddag_n=\delta\Psi/\delta\chi^n}$$と取ればよいのでしたね.つまり,「ゲージ固定」した作用
$$
I_\Psi[\chi]=S\left[\chi,\frac{\delta \Psi}{\delta \chi}\right]
$$
を使ってS行列を計算します.ここで$${\Psi[\chi]}$$はGhost-numberが-1のFermionicな汎関数です.以前述べたように,これは正準変換された反場$${{\chi^\ddag_n}'}$$をゼロととることと同じです.
このゲージ固定された作用は,場$${\chi^n}$$のみにはたらくBRST変換のもとで不変です!
$$
\delta_\theta \chi^n=\theta s\chi^n \qquad\mathrm{where}\quad s\chi^n=\left(\frac{\delta_R S[\chi,\chi^\ddag]}{\delta \chi^\ddag_n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi}
$$
それを確認するためには,
$$
\begin{array}{llll}
sI_\Psi[\chi]&=\left(s\chi^n\frac{\delta_L S}{\delta \chi^n}+s\chi^\ddag_n \frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi} \\
&=\left(\frac{\delta_R S}{\delta\chi^\ddag_n}\frac{\delta_L S}{\delta \chi^n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi}+\left(s\chi^n\frac{\delta_L\chi^\ddag_m}{\delta\chi^n}\frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_m}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi} \\
&=\left(\frac{\delta_R S}{\delta\chi^\ddag_n}\frac{\delta_L S}{\delta \chi^n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi}+\left(\frac{\delta_R S}{\delta \chi^\ddag_n}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^n\delta \chi^m}\frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_m}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi}
\end{array}
$$
と書けることを用います.第一項目は明らかにmaster方程式よりゼロとなります.第二項目がゼロとなることを確認することは少し難しいのですが,場合分けをして考えます.方針として和を取る添え字$${n,m}$$の入れ替えについて反対称であることを示せば,ゼロとなることが示せます.
まず,$${\chi^n,\chi^m}$$がともにBosonicならば$${\delta_R S/\delta \chi^\ddag_n,\delta_L S/\delta\chi^\ddag_m}$$が互いに反可換なので
$$
\begin{array}{lll}
\left(\frac{\delta_R S}{\delta \chi^\ddag_n}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^n\delta \chi^m}\frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_m}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi}&=-\left(\frac{\delta_L S}{\delta \chi^\ddag_m}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^n\delta \chi^m}\frac{\delta_R S}{\delta\chi^\ddag_n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi} \quad (S微分の交換) \\
&=-\left(\frac{\delta_R S}{\delta \chi^\ddag_m}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^n\delta \chi^m}\frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi} \quad (左右微分の交換)\\
&=-\left(\frac{\delta_R S}{\delta \chi^\ddag_m}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^m\delta \chi^n}\frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi} \quad(\chi^nと\chi^mの交換)\\
&=0
\end{array}
$$
入れ替える時にマイナスが生じるので反対称性が示せてゼロとなります.
$${\chi^n,\chi^m}$$の一方がFermionicで,一方がBosonicな場合は,Fermionicな方の右微分を左微分に変えるときに符号が変わるので,$${\delta_R S/\delta \chi^\ddag_n,\delta_L S/\delta\chi^\ddag_m}$$の入れ替えのときはマイナスは生じませんが右微分と左微分を入れ替えて形式を戻す時にマイナスが生じるので
$$
\begin{array}{lll}
\left(\frac{\delta_R S}{\delta \chi^\ddag_n}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^n\delta \chi^m}\frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_m}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi}&=\left(\frac{\delta_L S}{\delta \chi^\ddag_m}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^n\delta \chi^m}\frac{\delta_R S}{\delta\chi^\ddag_n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi} \quad (S微分の交換) \\
&=-\left(\frac{\delta_R S}{\delta \chi^\ddag_m}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^n\delta \chi^m}\frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi} \quad (左右微分の交換)\\
&=-\left(\frac{\delta_R S}{\delta \chi^\ddag_m}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^m\delta \chi^n}\frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi} \quad(\chi^nと\chi^mの交換)\\
&=0
\end{array}
$$
となってゼロとなります.
最後に,$${\chi^n,\chi^m}$$がともにFermionicのときは,最後の${\Psi}$微分の入れ替えの時にマイナスが生じて反対称性が示せます.
$$
\begin{array}{lll}
\left(\frac{\delta_R S}{\delta \chi^\ddag_n}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^n\delta \chi^m}\frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_m}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi}&=\left(\frac{\delta_L S}{\delta \chi^\ddag_m}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^n\delta \chi^m}\frac{\delta_R S}{\delta\chi^\ddag_n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi} \quad (S微分の交換) \\
&=\left(\frac{\delta_R S}{\delta \chi^\ddag_m}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^n\delta \chi^m}\frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi} \quad (左右微分の交換)\\
&=-\left(\frac{\delta_R S}{\delta \chi^\ddag_m}\frac{\delta^2\Psi}{\delta\chi^m\delta \chi^n}\frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_n}\right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi} \quad(\chi^nと\chi^mの交換)\\
&=0
\end{array}
$$
以上で$${sI_\Psi[\chi]=0}$$が示せたので,場$${\chi^n}$$のみのBRST変換にに対して不変であることが示せました!
量子master方程式(QME)
ここまでは古典的場の理論の形式で論じてきましたが,この理論でどのような量子力学的計算を行うのかを考えなければいけませんね.物理的な行列要素は$${\exp(iI_\Psi[\chi])}$$を重み関数とする,経路積分で計算できるんでした.そしてこの$${I_\Psi}$$は上で説明したように,$${S[\chi,\chi^\ddag]}$$に$${\chi^\ddag_n=\delta\Psi[\chi]/\delta\chi^n}$$,つまり$${{\chi^\ddag_n}'=0}$$として得られるんでしたね.$${\Psi[\chi]}$$の変化の,これらの行列要素への影響を調べましょう.まず真空-真空振幅
$$
Z_\Psi=\int\left[\prod d\chi\right]\exp(iI_\psi[\chi])
$$
を考えます.物理的な行列要素はどんな$${\Psi}$$を選んでも変化しないということから,これは$${\Psi}$$によって変化してはいけません.ここで$${\Psi[\chi]}$$を$${\delta\Psi[\chi]}$$だけ変化させたときに,この振幅の変化は
$$
\begin{array}{ll}
\delta Z&=\int\left[\prod d\chi\right]\delta[ \exp(iI_\psi[\chi])] \\
&=\int\left[\prod d\chi\right]\frac{\delta_R}{\delta\chi^\ddag_n}\exp(iS[\chi,\chi^\ddag])_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi} \delta\chi^\ddag_n \\
&=i\int\left[\prod d\chi\right]\exp(iI_\psi[\chi])\left(\frac{\delta_RS}{\delta\chi^\ddag_n} \right)_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi}\left(\frac{\delta(\delta\Psi)}{\delta\chi^n}\right)
\end{array}
$$
場の空間で部分積分すると,これは
$$
\begin{array}{lll}
\delta Z&=\int\left[\prod d\chi\right]\exp(iI_\psi[\chi])\left[\left(\frac{\delta_RS}{\delta\chi^\ddag_n} \right)\left(\frac{\delta_LS}{\delta\chi^n} \right)-i\frac{\delta_L}{\delta\chi^n}\frac{\delta_R}{\delta\chi^\ddag_n}S\right]_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi}\delta\Psi \\
&=\int\left[\prod d\chi\right]\exp(iI_\psi[\chi])\left[\left(\frac{\delta_RS}{\delta\chi^\ddag_n} \right)\left(\frac{\delta_LS}{\delta\chi^n} \right)+i(-1)^{|\chi_n|+1}\frac{\delta_R}{\delta\chi^n}\frac{\delta_R}{\delta\chi^\ddag_n}S\right]_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi}\delta\Psi \\
=&\int\left[\prod d\chi\right]\exp(iI_\psi[\chi])\left[-\frac{1}{2}(S,S)+i\Delta S\right]_{\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi}\delta\Psi
\end{array}
$$
となりますね.ここで
$$
\Delta\equiv (-1)^{|\chi_n|+1}\frac{\delta_R}{\delta\chi^n}\frac{\delta_R}{\delta\chi^\ddag_n}
$$
をOdd Laplacianと呼びます.これにより,真空-真空振幅が$${\Psi}$$に依存しない条件は,一般にmaster方程式ではなく,量子master方程式(Quantum Master Equation,QME)と呼ばれる以下の式だということが分かります!
$$
\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi において \quad (S,S)-2i\Delta S=0
$$
あるいは
$$
\chi^\ddag=\delta\Psi/\delta\chi において \quad \Delta \exp(iS[\chi,\chi^\ddag])=0
$$
とも書けます.
cgs単位系では,$${S[\chi,\chi^\ddag]}$$は因子$${\hbar}$$を伴うので,第二項目は$${-2i}$$の代わりに$${-2i\hbar}$$を持ちます.したがって,QMEが満たされているときは必ず$${S}$$の$${\hbar}$$についてゼロ次の項は古典的なmaster方程式$${(S,S)=0}$$を満たします.
量子BRST変換
QMEが満たされていると仮定したとき,$${\Psi}$$を$${\delta\Psi}$$だけ変化させたときの演算子$${\mathcal{O}[\chi,\chi^\ddag]}$$の真空期待値
$$
\braket{\mathcal{O}}=\frac{1}{Z_\Psi}\int\left[\prod d\chi\right]\mathcal{O}[\chi,\chi^\ddag]\exp(iI_\Psi[\chi])
$$
の変化は
$$
\begin{array}{llllll}
\delta\braket{\mathcal{O}}&=\frac{1}{Z_\Psi}\int\left[\prod d\chi\right]\delta \left\{\mathcal{O}[\chi,\chi^\ddag]\exp(iI_\Psi[\chi])\right\} \\
&=\frac{1}{Z_\Psi}\int\left[\prod d\chi\right]\frac{\delta_R}{\delta\chi^\ddag_n}\left\{\mathcal{O}[\chi,\chi^\ddag]\exp(iI_\Psi[\chi])\right\}\left(\frac{\delta(\delta\Psi)}{\delta\chi^n}\right) \\
&=\frac{1}{Z_\Psi}\int\left[\prod d\chi\right]\frac{\delta_R\mathcal{O}}{\delta\chi^\ddag_n}\exp(iI_\Psi[\chi])\left(\frac{\delta(\delta\Psi)}{\delta\chi^n}\right) \\
&+\frac{i}{Z_\Psi}\int\left[\prod d\chi\right]\mathcal{O}[\chi,\chi^\ddag]\frac{\delta_R S}{\delta\chi^\ddag_n}\exp(iI_\Psi[\chi])\left(\frac{\delta(\delta\Psi)}{\delta\chi^n}\right) \\
&=\frac{1}{Z_\Psi}\int\left[\prod d\chi\right]\left[-(-1)^{|\mathcal{O}||\chi_n|}\frac{\delta_L}{\delta \chi^n}\frac{\delta_R}{\delta \chi^\ddag_n}\mathcal{O}-i\frac{\delta_R\mathcal{O}}{\delta\chi^\ddag_n}\frac{\delta_L S}{\delta \chi^n}\right]\exp(iI_\Psi[\chi])\delta\Psi \\
&-\frac{i}{Z_\Psi}\int\left[\prod d\chi\right](-1)^{|\mathcal{O}||\chi^n|}\frac{\delta_L \mathcal{O}}{\delta \chi^n}\frac{\delta_R S}{\delta\chi^\ddag_n}\exp(iI_\Psi[\chi])\delta\Psi \\
&=\frac{1}{Z_\Psi}\int\left[\prod d\chi\right]\left[-(-1)^{|\chi_n|}\frac{\delta_R}{\delta \chi^n}\frac{\delta_R}{\delta \chi^\ddag_n}\mathcal{O}-i\frac{\delta_R\mathcal{O}}{\delta\chi^\ddag_n}\frac{\delta_L S}{\delta \chi^n}\right]\exp(iI_\Psi[\chi])\delta\Psi \\
&+\frac{i}{Z_\Psi}\int\left[\prod d\chi\right]\frac{\delta_R \mathcal{O}}{\delta \chi^n}\frac{\delta_L S}{\delta\chi^\ddag_n}\exp(iI_\Psi[\chi])\delta\Psi \\
\end{array}
$$
したがって,これが汎関数$${\Psi}$$の変化に依らないという条件は
$$
(\mathcal{O},S)-i\Delta \mathcal{O}=0
$$
となりますね.すなわち,「量子BRST変換」
$$
\sigma\mathcal{O}=(\mathcal{O},S)-i\Delta \mathcal{O}
$$
に対して不変$${\sigma\mathcal{O}=0}$$という条件を満たす演算子$${\mathcal{O}}$$は期待値が$${\Psi}$$の変化に依らない,すなわちObservableな演算子であることが分かります!もちろん,$${\mathcal{O}}$$が反場に依らないときは,量子BRST変換は通常のBRST変換に戻ります.
終わり
まぁ今回の話は難しかったと思いますけど,行間はできるだけ少なめにしたつもりです.ここら辺の話を用いてZinn-Justin方程式とかAnomalyについての話に拡張していけたら楽しそうですね.
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