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演奏鑑賞記録①中村愛さん(ハープ)

そうだ。ハープ聴きに行こう!

昨年の9月からハープを習い始めたのですが、確か4回目だったかのレッスンの際に先生に尋ねられたことがありました。
「好きなハープ奏者はいますか?」
私としてはフィジカル的な要因(手の大きさ)から20年以上続けたピアノに文字通り「さらばピアノよ」をしたわけですが(余談ですが、ベートーヴェンは弾くのも聴くのも好きです。弾ける曲は数曲しかないですが。)、ピアノにしてもハープにしても「弾きたい曲」から入るタイプ。
ハープの場合はアイルランドの吟遊詩人オカロランの「シーベック・シーモア」「ファニー・パワー」が弾きたくて!が動機でした。(そのうち、うちにあるバイエル程度のゲーム曲の楽譜をハープ用に編曲して弾けたらな!とも思ってますが)
そんなわけでこの質問は「人の演奏を聴くことも上達する上では大事」ということを思い出させてくれたのです。

先生から曲練習以外の「宿題」を渡されて「いざ!聴きにいかん!」と意気込んだは良いものの、私のスケジュールに合うハープのソロ(もしくはデュオ)リサイタルというのは中々なく、結局日程的に都合がつく7月7日開催の中村愛(めぐみ)さんのリサイタルを拝聴することとなりました。
しかも、このリサイタルの曲目はピアノ経験者にとってはとても琴線に触れる構成だったのです!(ハープだけに)
では、私のどーでもいい動機はこれくらいにして中村愛さんのハープの鑑賞記録です。
すでにご存じの方は言わずもがな、まったくご存じない方にはぜひとも、中村さんハープに興味を持っていただけたら嬉しいです。
どうぞ素敵な演奏を聴きながら読み進めてください。

「ハーブされてる?」「いえハープです!」

中村さんが実際仰った言葉を拝借。
これ中島さんがよくされるやり取りのようで、冒頭で紹介されたエピソードです。
そうなんですよね、会社で趣味を聞かれた際に「ハープ」と答えてるのに、「ハーブ」と聞き間違えられる。それくらいの認知度なわけです。(私の場合はハーブも勉強してますが)
実際オーケストラの添え物(言い方!)としてでさえ「たまに」見かけるハープ、ソロ演奏会なんて中々。(海外ではもっとメジャーなんでしょうね)
そんな扱いの我らが愛すべきハープ。中村さんはソロ楽器としてのハープの可能性を模索されてる、そういう思いがプログラム構成に表われてました。

プルグミュラー、だと?

今回のプログラムはロマン派の作曲家を中心に構成されてましたが、その中でも一番、私の目と耳を惹いたのはプルグミュラー「ハープのためのロンド  Op.1」。
プルグミュラーといえば、ピアノ経験者の多くには馴染み深い作曲家。
本公演に足を運ぼうと思ったきっかけのプログラムでした。
しかも、日本初公演とのこと!もう本当に「コレを聴くのが本日の私のメインです!」と意気込みつつ1音でも聞き逃すまいと一聴集中してましたが、そんな暑苦しい聴者をよそに軽やかにくるくると流れるロンド。
ハープ用の曲なので当たり前ですが、ピアノでは表現しきれない軽やかさとハープならではの倍音。4和音のアルペジオは重厚、でもハープだから重くない!
天ぷらに例えるなら中温のサラダ油で揚げた後、高温のごま油でカラッと二度揚げ!
いいな、ハープ。
妖精というものがいるのならきっと踊ってるんじゃないかしら?
隣の席はロマンスグレーのおじ様、前の席は昼下がりのマダムたちだけど。
目さえ瞑ってれば、きっと今私は森の中の泉の畔にいる、そう思いたくなるほど素敵な演奏でした。

プログラムノーツ ハープの可能性を探る中村さん独自の解説。少しマニアック?嫌いじゃない。

ハープ好きよ?でもやっぱりこれは本家??

個人的には手の大きさから諦めたドビュッシーの「沈める寺」も堪能して、
「頑張ったら弾けるようになるんじゃないかしら??」と私のハープの可能性にも光明が射してきたりと色んな意味で夢心地の演奏会でしたが、ラフマニノフの「鐘」については「これはやはりピアノか?」と思ってしまいました。
中村さんの力量ということではなく、ハープではどうしても重厚さが足りないのです。
「鐘」といえばあの極寒の地で「ゴォーン」と重々しく鳴り響く鐘のイメージ。ピアノであっても体重の軽い女性の演奏では物足りなさを感じてしまう曲なのです。(余談ですが、ピアニストの反田さんはロシアへ留学した際、チャイコフスキーなどあの地域の作曲家の曲を表現しようとした際、この気候だから作られた重厚な調べを表現するには、と体重を増やして音に重みを出したそう)
重々しい曲はハープは苦手なのかもしれない、そう感じました。
でも、楽器でも人間でも得手不得手があった方が愛着が沸きます。
うん、やっぱりハープ好き。

そして広がる可能性

ピアノ歴は長いけど、ハープメインの曲は「オカロランしか知らない」という有様の私にとって、今回の鑑賞は親しみ易く、また収穫の多いものでした。(先生が言うには『オカロラン弾きたい』でハープ習いに来る人は少数派とのことですが)
「うんうん、満足満足。耳が幸せ~」と余韻に浸っているにもかかわらず、
アンコールに2曲も用意してくださってました。
しかも、その2曲がもうホントに素敵!

1曲目:エルガーの「愛の挨拶」

この曲は私が敢えて説明するまでもないですが、甘やかに優しい調べの素敵な曲です。でも、素敵なのは曲だけじゃなくてそのエピソード。
作曲者のエルガーが婚約記念に奥様に贈った曲、というと「あ、そうなの」なんですが、この結婚は名家出身のお嬢様の奥様(しかも8つ年上)と身分的にも宗派的にも収入的にも難ありなエルガー、という親からしたら顔を顰めるなと言われる方が無理な組み合わせだった訳ですが、紆余曲折、山あり、谷ありでやっっと婚約まで漕ぎつけたエルガーが奥様への思いの丈を詰めに詰め込んで贈った曲なのです。しかも、オリジナルはピアノとヴァイオリンのデュオ。
ピアノが奥様で、ヴァイオリンがエルガー。二人で一緒に弾いて完成する曲。憎いなエルガー!誰か今すぐ教会建てて!宗派無視で!!そんな曲です。
と、いうわけで大好きな曲を聴けて、これだけでも酷暑の中、東銀座駅から20分くらい迷いながら来た苦労なんてすっ飛んでるんですが、まだまだ素敵な曲がサプライズで用意されてました。(大江戸線使えばいいのに、ケチったのです)

2曲目:コセンコ「こどものための24の小品集」ピアノ曲集より「ワルツ」

この曲は中村さんのお知り合いのピアニストから「コセンコいいよコセンコ!!」と紹介されて弾いてみたら「コセンコいい!!」となって、今回の公演で「ぜひお披露目したい」となったそうです。
紹介の動画は原曲のピアノでちょっと寂しい印象が強いですが、中村さんのハープで弾くととても柔らかい響きで、守ってあげたくなるような小さい女の子を彷彿とさせる、そんななんとも愛らしい曲になります。
コセンコはウクライナの作曲家だそうで、最近カワイ出版から日本初の曲集を出版されたそうです。最近出版されたのは、もしかしたら戦争が背景にあるのか、と思うと少し複雑ですが。
最近ということで、私が習っていた子供のころはこの曲集は日本ではお目にかかるのは難しかったんですが、大人になっても手が小さい私にとっては、「この手でも弾ける素敵な曲が増えた!」と思うと「コセンコいい!!」なわけです。

ハープの可能性を探る中村さんの素敵な演奏会でしたが、私としても色々「できるかも!」と可能性が広がった大変充実した演奏会でした。
まだ、聴かれたことがなかったら、ぜひ中村さんの出演される演奏会に足を運んでみてください。

あ!あとコセンコも是非に!

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