45キロのまわり道
文、カイ
11月某日、我々3人の勇者は「徒歩で山手線一周」という快挙を成し遂げた。
14時間で45キロを踏破するという、過酷な旅であった。
後日、後輩に「なんの為にやったんですか?」と聞かれたが、理由なんてあるわけない。
確かに側から見れば、一日中なんの変哲もないアスファルトを歩き続けるなんて滑稽で「無駄」な事この上ないかもしれない。
ただ、我々3人はその「無駄」を最大限に楽しんで、新たな気づきをたくさん得た。
今回はそんな3人の珍道中とそこから得た少しの学びを共有させて頂きたい。
プロローグ『決意の朝』
時刻は午前6時。アラームを止めてゆっくりと体を起こす。窓を開けると秋の澄んだ空気が流れてくる。
「絶好の一周日和だ。」私は確信した。
どうやらワクワクしすぎてしまったようだ。東京駅に着くと私が一番乗りだった。
ストレッチをしながら待っていると、パウちゃんが到着。「いよいよですね。」そう語る彼の表情には不安と期待が入り混じっていた。
LINEを見ると「ごめんなさい遅れます」との文章が。後1人は気合が足りていない様子だったが、固い決意を秘めている事には変わりない。
第一話『履歴は消しておけ』
有楽町-新橋-浜松町-田町-高輪ゲートウェイ
遅刻してきたナギちゃんにヤキを入れた(おやきの差し入れをあげたの略)後、一行は有楽町に向けて進み出した。
すると突然パウちゃんが「今日飲み物プロテイン縛りにしません?」と言った。
「何を言ってるんだコイツは」
正直そう思ったが、面白すぎる。
もちろん私達は提案に乗る事にした。
道中、「紅葉が綺麗な公園」「パウが好きな女優の広告」などたくさんの見所があったが長くなってしまうので割愛させて頂く。
先日、スーンの公式noteである事件(事故)が起きたのだが、私達は歩きながらその事件の犯人を探すことに躍起になっていた。
しかし、結局犯人は見つからず、時間の真相は闇に葬られたままである。
私達は増上寺で「二度と同じ事件が繰り返されませんように、ついでに渡航がうまくいきますように」と願ったのであった。
初めて歩く道を歩くと、意外な発見があったりして楽しい。
第二話『スコスコ侍』
品川-大崎-五反田-目黒-恵比寿-渋谷
その後もスーンのおもしろ話をしながら順調に歩いていると、くーちゃんから「途中から合流します!」との連絡が。
大崎駅でくーちゃんと合流すると、お菓子の差し入れをしてくれた。流石は一周経験者、何が欲しいか分かっている。本当にありがとう。
五反田での別れ際、「まだ半分来てないけど大丈夫?」と聞かれた。
時刻は12:30。
「え?時間やばぽよぢゃね?」
何か重大な事に気付き始めた一行であった。
しかしそんな一抹の不安を吹き飛ばすように我々は歩みを進める。
目黒あたりで、突然パウちゃんが紅葉を見ながら、「僕この景色、スコスコ侍です」と言った。
「何を言ってるんだコイツは」
正直そう思ったが、面白すぎる。
スーンの流行語大賞にノミネートしよう。
他にも恵比寿のクリスマスツリーやプロテインまみれとなったパウのズボンなど、見どころは沢山あったが割愛させて頂く。
渋谷に着いた我々は少し遅めの昼食を摂ることにした。蕎麦を食べて回復した我々は、再びビルの森の中へと入っていく。
まだ足は痛まない。話題も尽きない。
第三話『太陽を追え』
原宿-代々木-新宿-新大久保-高田馬場-目白
原宿に行く途中で明治神宮を通りかかると、美しい銀杏並木が出迎えてくれた。東京にもこんなに美しい景色があるのかと、少し感動してしまった。スコスコ侍である。
代々木以降は歩き慣れた街が続き、安心できると思いきや、時間が逼迫していた。
いつのまにか日は傾き、世界は容赦なく夜を迎えようとしていた。
「こんなはずじゃなかったのに」
「まだ半分も来てないのに」
一行は落胆を隠す事が出来ず、歌舞伎町のケバブを素通りする程に焦燥していた。
高田馬場に到着した瞬間、このまま家に帰ってしまおうかとも思ったが、ナギちゃんが励ましてくれたので、気合を入れ直して歩く事にした。
プロテインがなければ確実にギブアップしていただろう。
第四話『星空と聖地巡礼』
池袋-大塚-巣鴨-駒込-田端-西日暮里-日暮里
池袋に着く頃にはすっかり日が暮れていた。まだ日暮里じゃ無いのに。
この辺りから私達は足に溜まった疲れを認識し始めた。心は元気なのに、体が追いつかない。まさに前前前世の「心が体を追い越してくんだ〜🎵」という歌詞がピッタリだった。
しかし、嬉しい事もある。徐々に池袋の喧騒から離れると、星空が綺麗に見える事に気付いた。
23区の中でこんなにも時間がゆっくり流れる場所があるのかと、新宿に住む私には新しい発見だった。
私達は道中で「田端駅が『天気の子』の聖地らしい」との情報を入手し、実際に行ってみる事にした。
実物はなんてことないただの坂だったが、映画と同じ構図で写真を撮ってみると、中々いい感じになった。
この辺りは23区ながら閑静で住みやすそうだった。
最終話『鶯谷戦慄大迷宮』
鶯谷-上野-御徒町-秋葉原-神田-東京
意外に思われるかもしれないが、正直山手線一周で1番印象的だったのは「鶯谷駅」である。
理由は明確。「迷宮が2つあった」からである。
一つ目の迷宮は墓地。地図の案内に従って歩いていると私達はいつの間にか墓地に迷い込んでいた。墓地にはトラップが仕掛けられており、パウはズボンがひっつき虫だらけになってしまった。人の不幸が大好きなナギちゃんはずっと笑っていた。10分のロス。
二つ目の迷宮はラブホ街。鶯谷にはラブホが多すぎて恐らく避ける方法はない。山手線一周をするなら気まずく無いメンバーで望むようにしよう。純粋なパウちゃんは「遊園地かな?綺麗!」とはしゃいでいた。10分のロス。
上野のアメ横を通る頃には、一行は「あと4駅!」とテンションが爆上がりしてた。
しかし突然、両脚から「強かってるけど限界だろ?」と連絡が来た。
「うるさい」
私は神経を切断した。
エピローグ『勝利のおでん』
東京駅に近づくと、懐かしいビル群が迎えてくれた。今朝の事なのに随分と昔のことのように感じられる。
最後の角を曲がると、東京駅の美しいイルミネーションが一行を出迎えてくれた。
私達は遂に一周を成し遂げたのである。
コンビニのおでんで祝杯を交わし、14時間に渡る闘いに幕が下ろされた。
私はあの瞬間のおでんの味は一生忘れないだろう。それほど美味しかった。
かかった時間 14時間
歩いた距離 45キロ
飲んだプロテイン 3本
おわりに
今回一緒に一周してくれた可愛い後輩2人には本当にありがとうと伝えたい。2人のお陰でかけがえのない大学生の思い出をつくる事ができた。
そして一周を終えて感じたのは「無駄なことをするのも悪くない」という事だ。
目標に向かって一本の道を効率的に進むのも大事な事だ。しかし、時には「なんのために目指しているのか」「この道で合ってるのか」と不安になってしまう事もある。
そんな時こそ、敢えて道を踏み外し、「まわり道」(45キロじゃなくても良い)をしてみて欲しい。
いつもとは違う景色を見る事で、人生に余裕を持つことができたり、新しい世界と出会えたりする、かもしれない。
「無駄」からも学べる事があるというマインドにしておけば、後悔も少なくなって少しは楽な人生を送れる、かもしれない。
そのような意味でも山手線徒歩一周はオススメである。何より、こんなにコスパ良く達成感を得られる事なんてない。
今回の経験で得た自信を胸に、ラオス渡航も頑張りたい所存である。
おそらく後の2人も違う視点から「山手線一周」を綴ったnoteを投稿してくれるはずだ。
是非そちらも楽しみにしてもらいたい。
終
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?