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うふふ。

会社近隣のカフェがリニューアルオープンし、利用客が増えた。
特に女性客が増えたように思う。お昼どきは席を探すのに苦労するほどだ。

席の間に、感染予防のためのアクリル板が設置されたし、フードメニューも増えた。小綺麗になった店内は居心地よく、そのあたりがウケているのだろうと、そう思っていた。

店員が、先に席を確保してからオーダーせよ、と叫んでいるので、店内をくまなく探しまくり、ようやく空いている席を見つけて、上着を椅子に掛けて確保した。
タマゴサンドを一つ取って、レジカウンターに並ぶ。
「店内でお召し上がりになりますか?それともお持ち帰りになりますか?」
「店内で。これ(タマゴサンド)とブレンド。あと、帰る時にブレンドL、テイクアウトしたいのでお会計だけ先に‥」
「えっと‥店内で。テイクアウト用のカップをご利用ですね?」 

通じなかった。
無理もない。店員側は一段高くなっていて、しかもその店員は高身長の超イケメン。こちらとの高低差が半端ない。おまけに間にアクリル板が立ちはだかっている。

最近、実家へ帰って、耳の遠い父と喋るときに、大声でハッキリと喋るクセがついてしまっていた。
「ち・が・い・ま・す。店内のとは別に、テイクアウトをひとつ。20分くらいしたら帰るからその時に。お会計だけ先に。」
かなり大声でハッキリと言ってしまった。
イケメン店員は、戸惑いながら、レジ入力を行いつつ、それでもこちらを気にかけて、
「少しお待ちくださいね。」
とかなんとか。その際の笑顔が爽やか過ぎて、ちょっと、ぼぉーっとしてしまった。オッサンのくせに。
そして、ようやく気づいた。お店繁盛の理由は、このイケメン店員だと。と、同時に、けっして気のせいではない、無数の「殺気」が背中に刺さるのを感じた。
「あの、ややこしいことを言ってすみませんでした。」
と、慌てて詫びた。約7割をイケメン店員に、約3割を殺気を突き刺してくる女性客に、聞こえるように。
席について、タマゴサンドを食べていると、
「ブレンドLのテイクアウト、20分後だから忘れずにね。」
イケメン店員が指示を飛ばしている。なかなかの美声だ。なんか、キチンと対応してもらって嬉しくなってしまう。

(例のカフェにイケメン店員いるんだけど、知ってる?)
と、会社の女性社員にメッセージをしてみる。
(あ、高身長でステキな声の店員さんがいると、思っていたのですが、恥ずかしくて顔は見れませんでした。そんなにイケメンなのですか?)
と、すぐに返ってきた。
なので、チェックしてみる。
身長は185くらいだろうか?そして顔がちっさい。長い髪に隠れて殆ど見えない。大きい目とすっとした鼻筋がみえるくらいだ。
観察は、このくらいにしておこう。イケメン店員から、あのオッサン、まだ睨みつけてる、とか思われたらまずい。

店内での食事を終え、カウンターへ寄って、頼んでいたブレンドLを貰う。
「いつもありがとうございますぅ。うふふ。」
すがすがしい笑顔と美声。いかにイケメンといえども、同性から見て「うふふ」という微笑みが許されるヤツはそうそういないのだが、完璧だ。

内心、これは女性だったらイチコロなんだろうなと思いつつ、とても接客が気持ちいいので、また明日も来ようと、そう思ったのだった。


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