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2021年6月26日(土)|高い城の男


 フィリップ・K・ディックの歴史改変SF小説、『高い城の男』を読み直している。

「群像劇」ということで、身分や国籍もバラバラの、個性的な人物が数多く登場する。

 そのため人物ごとにふさわしい言葉づかいが求められる。訳者の方は、とても上手く訳し分けておられるように思う。

 なにより、声に出して読んで気持ちがいい。つっかえることなく、すらすらと読める。

 だけでなく、人物の感情が上手くことばに表れている。そんな感じがする。

いまでは、フレッド・アレンのラジオ番組を聞いたり、W・C・フィールズの映画を見たりしたのと同じように、くそいまいましいほど遠い昔の話である。(19頁)
「まあ聞けよ、おれはインテリじゃない——ファシズムはインテリには用はないんだ。必要なのは行動だけだ。理論は行動のあとから生まれる。組合国家がおれたちに要求するものは、社会上の諸勢力の認識——歴史の認識なんだ。わかるかい? これだけはいえる。おれは知ってるんだ、ジュリアナ」ジョーの口調は、まるで嘆願するように熱をおびてきた。「ああいう古ぼけて腐りきった、金権万能の帝国、イギリスやフランスやアメリカ——もっとも、アメリカは厳密には帝国じゃなくて、一種の私生児みたいなもんだが、金に動かされてるって点じゃ輪をかけてひどい。ああいう国には魂ってものがないから、当然、未来もない。成長がない。ナチスは追い剥ぎの集団だ。おれはそう思う。きみもそう思うか? そうだろう?」(262頁)

 内容は置いておくとして、ことばの歯切れがよく、耳に心地がいい。口に上らせたくなる魅力がある。

 痛快だ。

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