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短編集

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【短編小説】リング・オブ・メモリー

「やっと皆を苦しみから開放させてやれる...」 パソコンのディスプレイの明かりに照らされたその男の表情は、言葉とは裏腹に喜びや達成感といったものを感じさせない無機質なものだった。 湿った空気がまとわりつくような蒸し暑い夜。 目の前にある32インチのテレビではニュースが流れている。 それをラジオのように聴きながら、学校から課された宿題を片付ける。 「無意味な時間だ...価値ある勉強のためにこの時間を使いたい。」 そう呟きながら、PCに映し出された回答を紙に書き写していく

【短編小説】自己像幻視

意識だけは妙にハッキリしている。 体の感覚はない。 俺の目には見慣れない角度で地面が映っていて、数十メートル先にはフロントが少しへこんだ車が止まっている。 その車のライトが俺をあざ笑うかのように照らしてくる。 車から50代くらいの男性が顔面蒼白で出てくるのが見え、周りからは悲鳴や救急車を呼ぶ声が聞こえる。 「こんなあっけなく終わるのか...」 自分の状況を理解し、頭の中でつぶやく。 徐々に人だかりができ始め、その中にとても馴染みのある顔が見えた。 細身で長身、ボサ