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ルソーと授乳-自然状態を取り戻そう VRChat

 ジャン=ジャック・ルソーは18世紀のフランスで活躍した哲学者である。社会契約説や文明論、教育論を通じ、人間の生まれながらの性質に着目。民主制や個人主義的な教育を提唱した。

 人間と人間が接する前、自然状態である人間は自分だけですべての生活を成り立たせることができた。人間と人間が接触し、人間が社会的存在になり、やがて社会が巨大化すると、人間は他の人間無しに生きてはいけなくなった。そして巨大な社会で富と権力は偏り、人間は支配して支配される存在となった。

 自然状態である人間は、他者から奪うことも、奪われることも知らない。ただ自分が生きるためだけに生きていればよく、その衝動は常に純粋で善性だ。生まれながらにして純粋な人間が、奪い、奪われることを強制する文明に適用しようとして、我慢と略奪の社会性を身に付ける。人間の精神は文明に汚染されて汚くなる。

 文明を維持するために、文明に毒された人間は新しい人間を教育という名で汚染し続ける。教育と言ってもその人の能力を高め、自由を実現させるためのものではない。集団に組み込み、道具としていかに利用しやすい人間に改造するかというものだ。学校や社会生活において、学問や技術とは無関係に強制される行動は、文明による汚染を目的としている。

 一度できてしまった文明を手放すのは不幸な選択だ。人類は文明からあまりにも多くのものを得ている。文明をより人間にとって素晴らしいものにするためには、略奪や支配の要素を解消する必要がある。文明も構成する人間がいないと成り立たないので、より人間の純粋で自由な善性に基づいた性質に作り替えればいい。

 人間が生来の善性を取り戻すには、文明による汚染を取り除く必要がある。文明による汚染は、一人の自由な人間を、性別、地位や名誉、人種、貧富などで分類し、それぞれの役割を強制して利用しようという意識だ。分類から外れた人間が否定されてしまう現状を解決することが大切だ。人間が分類から解放され、自由な存在で、ありのままを肯定してもらえるようになれば、文明による汚染から解放されて純粋な善性を取り戻す。

 バーチャルリアリティーSNSであるVRChatには、「授乳カフェ」と呼ばれる文化がある。ママ/パパと呼ばれる店員が、来場者を包容して赤ちゃんのように授乳する文化だ。VRにいる時点でアバターに精神を移し、文明が強制する役割から解放され、自由な存在になり、文明による分類を解除した状態の人間。授乳カフェでありのままを肯定され、純粋な愛を向けられることで、生まれたままの自然状態の精神に戻ることができるかもしれない。

 奪い奪われる文明の固定観念から一人でも多くの人間が解放され、ありのままの個人として尊重されるようになれば、文明は少しずつ人間の善性によって構成されていく。何百年かかってもいい。すべての人類に哺乳瓶を吸わせてあげて、愛で包み込んで、善き文明を作っていきたい。

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