自民党改憲案は「性道徳」含む【公益】を害する「表現の自由」を禁止している
信じがたいことに自民党改憲案の表現の自由についてちゃんと論説してる記事が無かったためこの記事で詳細を書く。現行の日本国憲法では第二十一条で表現の自由を保証しているが、自民党改憲案では以下のように第二項が追加されている。
この部分について自民党自身が以下のように説明している。
ここではオウム真理教が例示されているが、サリンを撒くような団体をピンポイントで禁止できるならいいが、条文には公益及び公の秩序を害するのはダメとしか書いてない。
で、この「公益及び公の秩序」って何?
これも自民党自身が解説している。
現行の日本国憲法でも、いやどんな国でも「公共の福祉」に反する自由は認められていない。例えば映画館で「火事だ!」と叫ぶ自由とか。それは確かに当然のことだ。
しかし、公益及び公の秩序は「公共の福祉(人権相互の衝突)」より範囲が大きく、「街の美観や性道徳の維持」も含まれるようにしたと書かれている。要するに、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」(表現)には「性道徳を乱す活動」も含まれる。
つまり今話題の現実の女の二次創作もとい「性被害のフィギュア」が「性道徳を乱す」と判断されたらその表現は改憲案では認められない。
これに対して「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動じゃないから改憲案も問題ない」と主張する人もいるかもしれないが、司法判断は総合的に行われるものだ。以前Twitterで「いいね」を付けたことが名誉毀損と認定された時「いいねを押すだけでダメなのか」と言われたことがあるが、実際はそんな単純な理由で認定された訳では無い。
要するに「こうしたフィギュアは犯罪をエンタメ扱いすることで児童の性的搾取の正常化を行ない性道徳を乱している」という声が既に広範に存在するならば(つーかこういうツイートがあるから既にそうなってんのか)、「こうした意見を知らなかったはずが無いから性道徳を乱すことを目的にSNSに画像をアップした」と認定されてもおかしくないのだ。
そして「活動」だけでなく「結社」も認められないのだから、「私たちはこういうフィギュアを作るサークルを作りたいです!」と結社することも認められない。
余談:自民党改憲案はオウム真理教を防げるか?
上記に比べれば取るに足らない話だが、自民党はオウム真理教などを念頭にこの改正案を作ったと主張しているが、果たしてこれでオウム真理教を防げるのだろうか? オウム真理教だって表向きは「サリン撒いて国家転覆します」と言っていた訳では無く民主的に政権を取ろうとしたこともある。
教義には詳しくないためその中に「街の美観や性道徳」を乱すものがあったかは知らないが、無かったならそれを取り締まることはできない(もっとも、街の美観などを損ねる教義を説いてるだけで認められないならそれはそれで問題だが)。
地下鉄サリン事件の後にしても、元信者の作った団体は少なくとも表向きは「サリンを撒いたのは正しかった」などの表現はしていないから、改憲したからと言って潰せる訳では無い。更に言えば、オウム真理教は現行憲法下でも宗教法人としては解散させられた。そして麻原が教祖を退くことを表明するだけでなく「教義」も表向きは変えていたなら表現を理由に解散させることもできない。
さらに余談
ここからは私見が入るが、この「改憲案」が本当に表現の自由を制約するものでないならば、なぜ「公益及び公の秩序」という文言を、第21条に追加するという形なのか。
本当にオウム真理教を防ぎたいだけなら、単に「表現の自由」の項目と「結社の自由」の項目を分け具体的な言葉にすればいいだけだ。つまり
ではダメなのか。最もこれはこれで「表向き暴力活動を公言しなければいいだけでやっぱりオウム真理教を防げねーじゃねえか」とか抵抗権との兼ね合いの問題があるが、「表現の自由を規制する訳では無い」と明確にできる。
P.S
「公共の福祉」について「内在制約説(人権の衝突)」は現在瓦解寸前らしい。実際SNSの登場により「言論」の様相が100年前と一変し自民党政権もヘイトスピーチ禁止法を作った現在、「言論の自由・表現の自由」には見直しが必要かもしれない。だが、「『公共の福祉』概念には限界があるから『公益及び公の秩序』概念に拡張すべきであり、それにより表現の自由の規制が拡大されることには正当性がある」ということなら堂々とそう書けばいいだけだ。
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