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VRChatイベントの人流解析~対面時間算出アルゴリズム~

近年、メタバース上での交流イベントが注目を集めており、特に日本では、年に5000件以上、交流イベントが開催されています。

盛り上がりの一方で、メタバース上の交流イベントが、実際どのくらいの交流を生み出しているのかを、定量的に評価した資料は非常に少ないです。また、交流の定量的な指標として、参加者のイベント滞在時間がありますが、この指標は参加者が実際に会話した時間と、大きく乖離する恐れがあります。

そこで我々は、参加者の位置と顔の向き情報から、参加者同士の対面時間を算出するアルゴリズムを作成しました。提案したアルゴリズムを、VRChatイベントのデータに適用し、アルゴリズムが実際のデータに十分適用可能である事を確認しました。

結果として、イベント滞在時間は、参加者の対面時間と大きく乖離しており、交流の定量的指標として不十分である事を示しました。

追記(2022年10月6日)
Transhumanists In VRという海外のVRChatコミュニティで分析全体について講演しました。カタコト英語ですが、興味あったらどうぞ。

背景と提案手法

イベント滞在時間≠交流

交流の定量的な指標として、参加者のイベント滞在時間があります。しかし、この指標は参加者が実際に会話した時間と、大きく乖離する恐れがあります。

なぜなら、メタバースではイベントに滞在しているものの、会話に混ざらない参加者も数多くいるからです。これは現実のイベントでも起こりうることですが、メタバースという気軽で自由な空間では、この現象が頻発すると考えられ、このことを考慮した交流時間の定量的指標が必要です。

対面時間算出アルゴリズム

交流時間の定量的指標として、参加者同士の対面時間があります。対面した状態は会話をしている場合が殆どであり、実際の交流時間と乖離が少ないと想定出来るからです。

対面時間を算出するにあたり、メタバース上の交流イベントにおける『対面』を以下の様に定義しました。

  • 条件1:参加者の距離が1.8mより短い

  • 条件2:参加者の正面からお互いに100度以内にいる

  • 条件3:2分前からずっと4m移動していない

  • 条件4:2分後までずっと4m移動していない

対面しているか = 条件1 and 条件2 and (条件3 or 条件4)

出典:2022/7/8 東京理科大学イベント Kuroly講演資料「メタバースと異分野融合」

条件1は、参加者同士の距離に対する制約です。
条件2は、角度に対する制約であり、別々の会話グループが近くにいたとしても、別々に対面判定をする効果があります。
条件3は、ワールドを移動している参加者が、他の参加者に移動途中で近づいた時には、対面と判定しない効果があります。
しかし、条件3単体では、参加者が会話グループに入ったとしても、対面したと判定されるまで2分間必要になります。これは実際の対面時間を測定するうえで大きな誤差になります。そこで、条件4は、条件3が満たされてなかったとしても、2分後もその場にいるなら、対面している事にします。

当然ですが、パラメータである距離・時間・角度は、ワールドの大きさや音の減衰距離に依存します。また、この定義はヒノリデと共同で考案しました。

実験

【VRC理系集会】データ取得とプライバシー

アルゴリズムの適用にあたって、VRC理系集会でデータを収集しました。
VRC理系集会とは『DX時代の科学コミュニケーションを提供するをミッションに、幅広い理系分野の方々をお呼びして、学際交流を楽しんで頂くVRChatイベントです。メインとサブの2会場で開催されており、どちらも同時接続上限は50名です。本検証では5回分(3月~4月)のデータを用いました。

来場者の位置と顔の向き情報は、Udonを用いて取得しました。ただし、来場者のプライバシーを考慮して、データの提供に同意した来場者に限ってデータを取得しています。また、分析者のLAMBsunが見るデータだけでは個人を特定できないよう事前にプライバシーを考慮した処理を行いました。

同意を含めた位置情報取得システムはのりたま、プライバシー考慮処理を含めた分析基盤はこくたんが作成しました。分析基盤については動画説明があるので是非ご覧下さい。


アルゴリズムの実データへの適用

作成した対面判定アルゴリズムを実際のデータに適用しました。誰とも対面していない参加者は青く、それ以外の参加者は対面グループごとに色分けされています。

正解データは無いので、見た目による精度検証になりますが、大きな問題なく判定できる事が分かりました。ただし、位置的に近い会話グループを同じグループだと誤判定したり、会話グループ全体が大きく動いた場合は、会話グループに所属する全員を対面していないと判定する事が、稀にあります。

結果と考察

結果① 対面経験人数と時間

過去、5回の理系集会における対面経験人数を、対面時間によって色分けしたグラフを示します。

※注意
一度も対面をしなかった参加者は集計に含まれていない。
理系集会の交流時間は22:00-22:55なので、集計はその時間に限っている。

メインインスタンスでは、対面時間が40分以上の参加者はどの回でも、25人程度いることが分かります。集会時間が60分である事を考慮すると、40分以上の対面時間はほぼ理想的な状態です。サブインスタンスの対面経験人数が少ないのは、そもそもサブインスタンスへの参加者が少ないからです。

結果② 対面時間とイベント滞在時間の関係

対面時間とイベント滞在時間のグラフを示します。

※注意
一度も対面をしなかった参加者は集計に含まれていない。
理系集会の交流時間は22:00-22:55なので、集計はその時間に限っている。

点線は対面時間とイベント滞在時間が同じになる場合を現しており、対面時間の定義から、プロットがこの線の上に行く事はありません。プロットは線から下半分に広く分布しており、イベント滞在時間は、イベントの交流を上手く表現しきれない事が分かります。

結果③ 対面人数推移

おまけで、対面出来ていない来場者数の推移を示します。

対面出来ていない来場者は大体22:05をピークに減少していき、最終的に22:40頃に対面出来ていない参加者は最小値を取るようになります。

まとめ

メタバース上の交流イベントにおいて、イベント滞在時間が交流の実態を大きく乖離しているという懸念から、対面時間算出アルゴリズムを作成し、イベントの対面時間を算出しました。結果として、懸念通り、イベントの滞在時間が、交流の実態を上手く表現しきれない事が分かりました。

参加者へのお礼

データの収集に同意して下さった、理系集会の参加者の方々に感謝を申し上げます。皆さんのご協力なしでは、この分析は出来ませんでした。このような分析を続けていき、皆さんの満足度向上に繋げていきます。ご期待ください!

あとがき(暇なら読んでね)

私は、趣味でメタバース、特にVRChat上のイベントについて調べているものです。少し前には、VRChatイベントの開催数などを調査しレポートにまとめました。

今回の記事は、いわばマクロからミクロに視点を移したものです。いくら年に1万件以上のイベントが開催されていますよ!と発信したところで、実際にイベント内で人が交流していないのであれば、意味がありません。交流が実際に起こっている事を定量的に示した今回の調査は、意義のあるものになったと思っています。

今回の調査分析の機会をくれた、kurolyくんヒノリデさんを始め、理系集会メンバーに感謝いたします。素晴らしいメンバーと一緒に、素晴らしい活動が出来て、毎日が楽しいです。これからもよろしくお願いします。
対面判定に限らず、理系集会全体の分析結果は東京理科大学様での講演で、理系集会主催のkurolyくんが発表しています。是非ご覧になってください。

一番感謝を伝えたいのが、安曇野くんです。最近、なんだか自信を喪失したりすることが多かったのですが、彼が僕を励ましてくれました。一緒に映画を見たり、面白いワールドに連れて行ってくれたり。本当にどれも最高の思い出です。ありがとう。

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