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VRChatイベントの傾向2018-2021

イベントを企画する際、時間やジャンルが他のイベントと被らない様に、主催者はイベントカレンダーをくまなく調べる必要があります。にも拘わらず、企画時に参考になるような、イベント傾向の定量的分析レポートはこれまでありませんでした。そこで本レポートは、VRChatイベントカレンダー(https://vrceve.com/)に登録されたデータを分析しました。分析をもとに、最近のイベントの傾向と考察を述べていきます。
※VRChatイベントカレンダー様に許可を頂いて公開しております。
2022.1.15 理系集会にて講演させて頂きました。https://youtu.be/EFygDzTzfhk

この分析で示される数は正確ではない

この分析では、VRChatイベントカレンダーに2018.1.1-2021.12.31(2021.12.25現在)の期間で登録された19407件のデータを使用しています。(図1.)
ただし、この分析で示される数は必ずしも正確なものではありません。以下に理由を示します。

  • イベントカレンダーの修正や中止は【修正版】を新たに投稿するので、間違ったイベントはカレンダーに残り続ける

  • 毎日開催のイベントであっても、毎日登録されている訳ではない

  • 主催者名に登録がないイベントが7%(1317件)ある。それらのデータは主催者数をカウントする時には用いない

  • グループ主催などは、そのグループ自体を一人の主催者としてカウント

上記を理解したうえで結果を読んでいただけると幸いです。

図1. 使用したデータのサンプル


【分析1】イベント数と主催者数の推移

【結果】
登録されていたイベント数と、その期間にイベントを主催した主催者の数を、四半期間隔で示します。(図2. )

図2. イベント数と主催者数の推移
※主催者名に登録がないイベント(全体の7% 1317件)は
主催者数をカウントする際には使用していない事に注意

【考察】
イベント数と主催者数は共に近年、増加傾向にあります。ただ、主催者数の増加はイベント数より勢いがありません。これは「イベントを複数回主催する人が増えた」事を示していると考えられます。そこで、年間イベント主催回数別に主催者の人数を集計しグラフにしました(図3.)
年が経つにつれ分布が変化し、イベント主催を1.2回で辞めてしまう人の割合が減り、代わりにイベント主催年10回以上の主催者(ベテラン主催者と呼ぶ)の割合が増えていることが分かります。

図3. 年間イベント主催回数別 主催者人数
例えば、2021年にはイベントを1・2回主催した主催者が928人いた

更に、イベントを、主催者の年間イベント主催回数で色分けしたグラフを示します。(図4.)年が経つにつれ、ベテラン主催者によるイベントの割合が増加していき、2021年には約65%のイベントがベテラン主催者による物である事が分かりました。
つまり、近年のイベント数増加は、イベント主催者が増えたからというよりも、イベント主催に慣れてきた主催者が一人で10回以上イベントを主催する様になったから、と考えられます

図4. 主催者の年間主催回数別イベント数
※nullは主催者登録がないイベントを表す
データラベルは該当するイベント数

【分析2】Quest対応イベント数推移

【結果】
Quest対応イベント数を四半期間隔で示します。(図5.)

図5. Quest対応イベント数推移

【考察】
Quest対応イベント数は年々増加し、直近では1/3以上のイベントがQuest対応しています。Quest対応イベントは、Oculus Quest版VRChatがリリースされた2019年5月が含まれる2020年Q1から現れます。更に2020年Q3-4間で大幅な増加が確認されます。これは2020年10月に発売されたOculus Quest 2の影響と思われます。その後のQuest対応イベントの増加は、Oculus Quest 2の普及に伴うものだと考えられます。2018年Q4の謎の一回は登録ミスだと思われます。

【分析3】イベント数と開始時刻の関係

【結果】
2021年におけるイベント開始時刻の割合を示します。(図6.)

図6. 2021年の開始時刻別イベント数割合

【考察】
グラフから分かる通り、70%弱のイベントが21・22時に開始します。この原因は2つの可能性があると考えられます。1つは、ユーザーが会社・学校から帰宅し参加できる時間帯を狙っている可能性。もう1つは、単に定番化しているという可能性です。

2つの可能性を検証するために、追加の検証を行いました。
会社・学校からの帰宅時間を狙っている場合、休みの人が多い週末は、必ずしも夜開催である必要がありません。そのため、21・22時開催傾向は、曜日により変化する可能性があります。それを確かめるために、曜日別にイベント開始時刻の分布をグラフにしました。(図7.)
結果として、イベント開始時刻は曜日に依らず、21・22時にピークを持つことが分かりました。この結果から、21・22時にイベントを行うことが単にVRChatで定番化されている可能性が高いと思われます。(2022/01/06追記)ただし、日曜日は他の曜日に比べて、21・22時以外に開始するイベントが多い事が分かります。

図7. 2021年の曜日別イベント開始時刻分布
グラフにミスがあったため、2022/01/06にグラフを差し替えました

【分析4】イベント数と開催曜日の関係

【結果】
2021年の平均日間イベント数を曜日別に示します。(図8.)

図8. 2021年の平均日間イベント数

【考察】
グラフから分かるように、土曜日のイベント数は他と大きく違い、土曜日にイベントが集中している事が分かります。実際、2021年の全イベントのうち、27%のイベントが土曜日に開催されました。(図9.)

図9. 2021年の曜日別イベント数割合

土曜日にイベントが集中する要因は、次の日が日曜日、かつ仕事・学校が休みであるので、体力に余裕があるためと考えられます。実際、総務省統計局によって行われた平成 28 年社会生活基本調査でも、無償労働(家事,育児,ボランティア活動など収入を目的としない仕事)が土日に集中することが示されました。更に、『【分析3】イベント数と開始時刻の関係』で示したように、イベントの開始時刻が夜から始まる事を考慮すると、次の日から仕事・学校がある日曜日は、避けられる傾向にあると考えられます。

【分析5】イベントジャンル

【結果】
VRChatイベントカレンダーでは該当するイベントジャンルを複数選択できます。そこで、どのような組み合わせのジャンルが多いのかを示します(図10.)ジャンルが設定されていないイベントが、全体の45%あることに注意してください。

図10. イベントジャンル組み合わせ例

【考察】
結果から、イベント組み合わせの多くが【その他交流会】というタグがつけられている事が分かります。これはイベントが多様化し、従来のジャンル分けが機能しづらくなっている事が要因であると考えられます。また【定期イベント】タグが多いことも目立ちます。これは定期イベントの性質上、当然の結果です。

【分析6】イベント内容

【結果】
イベント内容に多く含まれている単語を形態素解析(Ginza)で抽出しワードクラウドで示します(図11.)
※ ['ある','する','いる','なる','行う','方']という単語は除外しています。

図11. イベント内容に多く含まれる単語

【考察】
授乳🍼

【まとめ】

VRChatイベントカレンダーに登録されているイベントデータを分析し、最近の傾向を定量的に示しました。主な結果をまとめます。

  • イベント数と主催者数は共に増加傾向にあり、特にイベント数の急激な増加は、複数回イベントを主催する人が増えた事が要因と考えられます。

  • Quest対応イベントは、Quest端末の販売状況に影響され、年々増加しています。

  • イベント開始時刻は、曜日に依らず21・22時に固定されています。

  • イベントの27%が土曜日に開催されており、これはイベント開始時刻が夜遅くであることが要因であると考えられます。

VRChatイベント 今後の課題

これらの結果からVRChatで今後深刻化するであろう問題があります。
VRChatのイベント数は年々増加し続け、特に土曜日には平均して55件のイベントが開催されることが分かりました。この結果から、VRChatイベントカレンダーで宣伝するという、従来のイベント告知方法では、イベントがユーザーに十分に知れ渡らない可能性があります。実際、ワールド上に設置されているイベントカレンダーでは、一度に全てのイベントを表示させる事が出来ない日が出てきています。(図12.)また、イベント数は増加傾向にあるので、この現象は来年にはさらに深刻になると予想されます。

図12.  イベントカレンダーに全てのイベントが写らない

この解決策として、イベントジャンルでイベントカレンダーを分ける方法が考えられますが、『【分析5】イベントジャンル』の章で示した通り、現在のイベントは多様化しており、全イベントを完璧にジャンル分けする事は不可能です。また、イベントカレンダーが細分化されることにより、イベントカレンダー自体の広報能力が下がる可能性もあります。

イベントを適切にジャンル分けし、ユーザーに十分に広報する方法の登場が今後必要となるでしょう。

あとがき(暇なら読んでね)

完全な余談ですが、【分析1】に補足します。
全主催者数とベテラン割合がどちらも時間tの一次で増えるとすると、イベント数はtの2次で増える筈です。そう思うと、図2の2020Q1あたりが放物線に見えます。ただ2021Q1あたりから、増え方が再び一次に変わります。ここら辺に何があったかとか考えると面白いと思います。マルコフ過程とかでモデル化出来ないでしょうか。現象が複雑過ぎてあんまり意味ないかな。

27時間DJイベントGZに先日参加した事が、私がこのレポートを作成するキッカケになりました。素晴しいイベントに触れ、イベント主催者の為に何か出来ないかと考え、分析を始めました。軽くやった分析のサンプル画像をTwitterに投稿したところ、結構良い反応で嬉しかったです。

VRChatでイベントを主催して、交流を作っている主催者の方々を心から尊敬しています。今後も彼らの参考になるようなレポートを公開出来たらと考えています。もうネタ無いけどね…

最後に、分析&公開の許可を下さったVRChatイベントカレンダー管理者 カッコウ様と、オフ会帰りで頭痛に悩まされながら文章を添削してくれたアシュトンさんに感謝いたします。

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