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僕に続け

この曲の始まりの、荘厳なオルガンの音色は、行進曲のプロローグ。カップリング曲のこの曲は今までの傾向を踏まえると“11thシングル『君はハニーデュー』”というセットリストのラストを飾る曲だ(アンダー曲もあるので一概にそうとは言えないけれど)。
表題曲の最後、横浜港で3回汽笛は鳴って、彼女が広い海に向かって、船を漕ぎ出した後、の物語だ。

長い船旅で、今までとは一変した世界で、人は何を思うのだろう。やはり、最初に出てくる感情は不安じゃないかな、と思う。人は恒常性を求めたがる生き物だから。芸能界という太平洋よりも大西洋に近い海で、孤独にひとり、彼女は自分の歩んできた道を白昼夢として見る。
オーディションに受かったこと。1期生と会えたこと。初めてビブスをもらったとき。2期生との円陣や、3期生が食らいついてきたこと。そして4期生を迎え入れたこと。いつだって彼女は後輩たちから「憧れの先輩」と言われてきた。前を向いて、後ろにいる後輩には涙を見せずに輝いた背中を見せて、未来への希望を与えてきた。そのせいか、孤高の存在すぎてちょっと後輩から話しかけられにくい、同期ともあまり話さない一匹狼、そんな印象もあった(後輩の気持ちも本当にわかる、緊張しちゃって、畏れ多くて難しいと思う。)。
そんな彼女が、最後に後輩の作る花道(ハート道?)をくぐって、同期としっかり手を繋いだこと、1~4期全員で、円陣を組んだこと、そして後輩の円に囲まれて涙を流せたこと。頑なに涙を流さずに、前だけを見て、ただ歩き続けている彼女が立ち止まって涙を流したその理由は、あまり日向坂を知らない一ラジオリスナーの私には、一匹狼に見えていた彼女だったけれど、きっと彼女は自分が思ってるよりずっと、グループを愛していて、そしてグループ全員は齊藤京子を愛していた。涙の結界を、許してしまうほどに。

人を作っているものは、思い出だ。私たちの心の基盤は、心で切り取った永遠の一瞬。齊藤京子の心には、いろいろな感情の思い出が、きっと大事に仕舞われている。どんな思い出だって抱きしめられるのは、その時を何もできることがないくらいまで全力で使ったから。後ろを振り向く時間も惜しいくらい全力で、時間を生きたから。
広い海、そして、荒い海に漕ぎ出した彼女が見た白昼夢は、振り返ったときにはもう消えている。白昼夢はいつだって、移ろうもの。そういう意味では、白昼夢と人生は似ている。人生は、移ろうからこそ美しく、優しい。けれど、辛いときや悲しいときに心の支えとなってくれるのは、ずっと変わらない思い出の欠片。メンバーと紡いだ、この8年間。幸せだったときも、辛かったときも、どの思い出もずっと変わらずに心のアルバムの中に。そのアルバムを開けば、いつでもあの頃へとタイムワープできる。

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しがない一解釈例です。宝物のような曲だったな。
卒コン、楽しみにしています。

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