ひつじの読了録

「カタツムリが食べる音」 エリザベス・トーヴァ・ベイリー著/高見 浩 訳/飛鳥新社/ 2014/02/25

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とある読書会のテキストだったので、読むことになった。普段はほとんど手に取らない分野、ノンフィクションだが、読んで良かった。静謐で端正な文章で、訳もよく、読みやすい。

著者は園芸の仕事をしているアウトドア派の人間だが、旅行中に病を発症し、身体が動かせなくなる。寝たきりの彼女の元に、友人がカタツムリを連れてくる。スミレの花とともに。
夜中に眠れぬ彼女の耳にカサカサと音が聞こえる。カタツムリが食べている音だ。1匹のカタツムリを観察しているうちに、彼女は1人ではないと思えてくる。
病状がやや回復するまでの1年間、彼女はカタツムリと共に生きる。その後調べたカタツムリの様々な生態がさりげなく挿入され、その語りとともに、彼女の闘病中の思い、そのエッセンスが語られていく。

生きているということは、ただそれだけで他者の生きる力や思いを引き出すものなのだと思う。例え小さな昆虫や、カタツムリであってさえも。
人は本当に、一人では生きてはいけないのだ。コロナ災害による3回目の緊急事態宣言下でより強く思う。
オンラインで、顔を見ながら話すのは、電話だけよりも、文字だけよりもずっと良いが、それでも生身の人間と会うときに感じる熱量、気配、様々なボディランゲージ、ちょっとした雑談という余白がない。関係性構築の上で、さらには何かを決める上で、それらの余白が非常に重要だったことを最近とひしと感じている。
そして、誰かとの関係性が上手くいかないときにも、他の誰かの生きる事への強い想いを受け止めることで、この「カタツムリが食べる音」を読んだときのように、私もまたもう少し、よりよく生きたいと願い、その関係性に向き合い直そうと思えるのだ。

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