ひつじの読了禄3

0210504 人新世の資本論

「人新世の『資本論』」斎藤幸平著 集英社新書

昨年出版され話題になった本を読んだ。読みやすかった。
資本論の限界、すなわち今の社会システムの限界をどう乗り越えるのか。誰もが今探しているそのことを、明示した本。評判をとるのがよくわかった。
ただ、内容的には本当に目新しいことが提示されていたわけではない。分散型の地域に根ざした経済。グローバルな経済成長はもう古い。そういうことは、緑の党や他の人たちも既に言っている。私自身、2年前のチラシで地域での循環型社会をめざすと言っている。あ、でも、斎藤幸平が参加しているマルクスノートの研究成果が、波及してきていたのかもしれない、ということに今思い当たった。時間的経過を知らないので、そこはなんとも言えない。
ただ、それらのことをまとめて体系づけ、マルクスが言っていると権威づけたので、おじさんたちは受入れやすかったのだろうと思う。ようやくこれが一般的に受入れられて来た。いや、受入れざるをえなくなっている、と言ってもいいかもしれない。先日、金子勝の講演を聴いたが、彼ですら、これからは環境とジェンダー平等の分散型社会だと言っていた。ただ、金子勝は、環境もジェンダー平等もその中身は語っていないので、本当にわかっているのかどうかはわからなかった。
斎藤幸平は、環境に関しては、グレタさんを例に引きながら、SDGsではダメ、温暖化防止にはもっと大胆なパラダイムシフトが必要と訴える。温暖化への課題意識に実感があるように見えるのは、世代感覚と、ドイツとの交流経験のせいだと思う。彼の世代は、成長を実感していない。逆に成長しなくても社会が回る事がわかっている。競争し成長させようとすると無理が生じ破綻する事を、例えば世界各地での公害や、福島第1原発事故等などで実感しているのだろうと思う。60代以上の世代とは根本的に違っている。
そして、世界が本当に変革できるのか。人類は生き延びられるのか。これからの10年10年が非常に重要だと思う。コロナというパンデミックの後の世界、歴史を見れば更に混沌とした争いの世界になっている可能性がある。その中で、本当に人類が生き残れるようなパラダイムシフトが起こせるのか。それが可能なのは成長神話に縛られていない若い世代だと思う。
斎藤幸平や若い世代が今後どのような具体的な理論を展開するか。現実的な変化を引き起こしていくのか。経済は、理論だけではなく、現実的具体的な活動による変化が起きていかなければ変わっていかない。貨幣経済による消費文化はたかだか50年100年で、それ以前は物々交換等のやりとりによる循環が主体だったのではないかと思う。循環して歴史が動いていくこの先を、斎藤幸平が見通しつつ解説してくれるのをまってみたいと思う。

2021年5月4日読了

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?