変身・断食芸人
自分の中で「1ヶ月1冊読書」という目標があります。
本を読みたいなぁと思うけど、読書家ではないので、なかなか本を読むことができません。
習慣化とまではいかなくても、1ヶ月1冊くらいを目標にして、自分の中になにかインプットしたい気持ちがずっとあり、ちょいちょい読むことが増えてきました。
せっかくなので忘れないよう備忘録も兼ねて、読んだ本を記していきたいと思います。
変身・断食芸人/フランツ・カフカ著
岩波書店
フランツ・カフカの代表作ともいわれる「変身」は、一人の男がある朝、目が覚めると巨大な毒虫に変身していることから始まります。
そして、この衝撃的な冒頭以降は、実に淡々と冷静に物語が進んでいき、思った以上に素直に毒虫の現状を主人公とともに読者である私も受け流していました。
「なんで毒虫になったんやろ?」
という質問は無粋かなぁと思います。
この本は子供の頃(10代半ば)読んだはずなのですが、イマイチ内容を覚えておらず、再読してみることにしました。
なにか自分の中の自分への嫌悪からの決別、変身を願ったのでしょうか(笑)無性に読みたくなりました。
最初に触れたように、毒虫になった以降、さほど衝撃的なことは起こりません。
ただただ主人公が自己や人間性を緩やかに失っていく様や、主人公の家族が毒虫となった主人公への態度や想いの変容の描写が実に妙なリアリティを持っていて、ある種の恐怖を抱きます。
毒虫に変身してもなお仕事に行かねばと、家族を養わねばという責任感と家族への想いが強い主人公。反面、気持ちも言葉も一切通じず、虫が故に何も出来ません。
物語が進むにつれて主人公は自分の稼ぎがなくなって家族の生活が慎ましくなっていくのを見て心を痛めていきます。
しかし、いつしか考えることが断片的になっていき、人間らしく、いや自分らしく生きることより、虫として快適に暮らせることを想い始める主人公へと変わっていきます。
最初は突然の主人公の変身に驚きと不安・恐怖を感じていた家族。
昨日までは、普通の人間であった主人公を思うが故に献身的な妹。
毒虫に変身したけれどまた人間の姿に戻るはずと信じながらも持病持ちで気弱であるため、毒虫の姿は全くもって受け入れられない母親。
そして、どう接したらいいのか分からない父親。
そんな中、主人公の稼ぎがなくなって、父親や妹が働きにいくようになると主人公に対するそれぞれの態度が少しずつ変わっていきます。
家族は主人公や主人公の稼ぎを頼りにすることなく自活ができるようなると、むしろ主人公が疎ましく感じ、かといって元家族(人間)であった主人公に手をかけるわけにもいかず、自分達の今後の人生に些かの焦燥感を抱き始めます。
主人公というと初めは家族のことを思っていたものの、少しずつ昔の自分を懐かしみ、また誇らしげにと利己的になっていく反面、時折、毒虫となった今の自分を恥じ、そして家族へ悔悟の情を抱きます。
そして訪れる穏やかな死。
主人公の生への希望が潰えたとき、それは訪れました。
主人公は家族への感動と愛情をこめて回想しながら命の灯を失い、家族は仕事を休んでまで久々に郊外への外出をし、家族が自分達らしく進むべく道を見出します。
この主人公と家族の対比が実に切なくて現実的でした。
何より、家族の気持や行動がまさにある種の「本当の人間らしさ」を表現しているなぁと思いました。
私がある朝、起きて毒虫になってたら・・・と考えるよりは、私の家族がある朝 毒虫になってたら・・・私はどう接していけるのだろうか?と考えるのが怖くて不安な一冊でした。
【追記】
「断食芸人」という短編も収録されていますが、こちらは簡単に少しだけ感想を。
誰にも自分の芸(断食)の高尚さを理解してもらえないという苦悩をもつ、日の目を見た大道芸人がいずれ人々に飽きられ、落ちぶれてく様を描いたものです。
そして、その高尚であったかのような断食の理由は「自分が美味い(食べたい)と思うものがなかった」という荒唐な理由を最後に打ち明けて、果てるという結末でした。
私自身読み終えて、この物語は断食芸人を通して間接的に多情な世の中を描いているような印象を受けました。
物語に起伏は見られず、特に何も刺さることはないんですが、なぜか再読してみたい気にさせられる不思議な物語です。
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