見出し画像

1.1.3. 階層間システム

 動的、静的、いずれにせよ、〈システム〉の「部品」の間の〈軸〉には、このように〈作用〉の方向性がある。これを見落とし、対称性や相互性を前提にしてしまうと、〈システム〉に全体を貫く「部品」の整層性が存在するかのような誤解が生じてしまう。

 〈作用〉は、〈軸〉による「部品」の間に存立するが、〈軸〉が結びつける「部品」が、《集合論》として同一階層にあるとはかぎらない。つまり、〈システム〉が〈原集合〉の〈要素〉ばかりではなく、より小さな〈システム〉を〈要素〉と同等の〈要素〉として含む場合があるからである。

 たとえば、エンジン自体が一つの〈システム〉であり、プロペラシャフトは、エンジンのどれか一つの「部品」だけにつながっているというよりは、エンジンという〈システム〉そのものに対してつながっている。プロペラシャフトに直接につながっているエンジンの「部品」は、エンジンという〈システム〉の、いわば外部への「窓口」にすぎないのであって、エンジンという〈システム〉から切り離しては、その「窓口」としての意義も失う。たとえば、外交において外務大臣のMM氏と交渉するが、これは、MM氏が外国や政府と独立対等の存在として個人的に交渉を仲介しているのではない。あくまで、MM氏が政府の外務大臣という地位にあればこそ、交渉に値する。

 これは、鎖でできた輪とつながっている鎖金のようなものである。つながってはいるが、輪になっている鎖の中のどれか一つの鎖金とつながっているというわけではない。とくに、〈静システム〉について、この点に気をつける必要がある。

 人為的な会社などにおけるたてまえ上の組織は、概して整層的だが、すべての組織がそうであるわけではない。むしろ、我々の問題の鍵は、多くの場合、非整層的構造の解明にある。現実の〈システム〉は、〈要素〉が階層を超え、複雑に絡みあっている。たとえば、先の学校の例で言えば、そのほかに校長と生徒が直接つながっている場合もあり、また、校長はクラスという教師-生徒の〈システム〉とつながっているとも言える。さらに生徒会というクラスを超えた生徒の〈システム〉、これに対する校長-教師による教職員の〈システム〉というものも存在しうる。このように、〈原集合〉の〈要素〉を共有する多様な〈システム〉の重層性において、全体も〈システム〉として機能する。〈システム〉としての「部品」は、〈原集合〉の〈要素〉の〈部分集合〉として、〈原集合〉の〈要素〉を重層的に共有する。

 〈システム〉における〈軸〉、すなわち、「部品」の間の〈作用〉には、次のようなものがある。

 第一には、同じ〈原集合〉内の水平作用、〈シス=ステム〉である。すなわち、ある〈原集合〉の〈要素〉と〈要素〉の関係である。

 たとえば、同好会のメンバーは、〈シス=ステム〉である。

 第二には、オーバーにおける水平作用、〈インター=ステム〉である。すなわち、それは、なんらかの意味において同じ階層の〈集合〉と〈集合〉の関係である。

 たとえば、企業内でも営業部と製造部の関係がそうである。ただし、さらに別にインターな主体が成立している場合、たとえば、諸国家に対して、国連のような国際的組織がある場合、これは、その〈要素〉に対して、むしろ〈オーバー=ステム〉である。企業内の営業部と製造部に対しては、かならずしも取締役会がオーバーであるとは言えない。むしろ、やはり同様に、その企業において〈シス=ステム〉であって、相互に〈インター=ステム〉である。

 第三に、垂直作用、〈オーバー=ステム〉と〈アンダー=ステム〉がある。これは、〈要素〉からそれの属する〈集合〉へ、〈集合〉からそれに属する〈要素〉への作用である。

 たとえば、会議参加者による会議の動議、会議の議決によるその参加者の拘束がそうである。これは、順序を持つ〈インター=ステム〉におけるアップダウンと混同されてはならない。たとえば、会議議長個人(または議長団)とその参加者(または参加団体)の関係は、会議という集合において〈インター=ステム〉である。というのは、一般の参加者は議長ではなく、それゆえ議長団には属していないからである。

 第四に、〈トランス=ステム〉がある。これは、ある〈集合〉の〈要素〉から別の〈集合〉の〈要素〉への〈作用〉である。

 たとえば、ある国の企業と別の国の企業の契約は、〈トランス=ステム〉である。これは、それぞれ、自国の政府との〈インター=ステム〉、自国の社会からの〈アンダー=ステム〉、さらに、相手国の政府との〈トランス=ステム〉、相手国の社会からの〈アンダートランス=ステム〉の影響を受けることが多い。逆に、たとえば、占領軍の征服国への統治は、〈オーバートランス=ステム〉である。というのは、占領軍は、本国ではその国の一要素にすぎない。また、国連のような国際的な〈オーバーインター=ステム組織〉と、赤十字のような超国家的な〈トランス=ステム組織〉は、区別される必要がある。これは、国連が国家を要素とする集合であるのに対し、赤十字がそれぞれの国家の要素である各国支部の組織であるからである。これは公私の問題ではない。各国政府の共同組織もまた〈トランス=ステム〉にすぎない。

 第五に、〈アンダートランス=ステム〉と〈オーバートランス=ステム〉が考えられる。これは、ある〈要素〉と、それの属さない〈集合〉との〈作用〉である。

 たとえば、異邦人とある国の社会との関係が典型的であろう。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?