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第五章 自己 7 主体的問題様相

 次に、③と④の[当事する/しないことができる]という〈現実〉/〈物語〉そのものの柔軟性と〈主体〉の有能性からなる選択的/回避的規範様相は、〈自己〉における既存の〈現在性〉/〈想像性〉との連続性において、さらに四つの《主体的問題様相》を形成する。これらもまた、それぞれ、③E現在的現実、③F想像的物語、④G現在的物語、④H想像的現実ということになる。すなわち、

  ③E:いまも当事している し、
      つねに当事する ことができる
  ③F:いまも当事していないし、
      つねに当事しないことができる
  ④G:いまは当事している が、
      いまは当事しないことができる
  ④H:いまは当事していないが、
      いまは当事する ことができる

 ③Eは〈反復〉の可能、③Fは〈抑制〉の可能、④Gは〈終了〉の可能、④Hは〈開始〉の可能である。このうち、③Eと③Fは、〈主体〉の柔軟閉鎖性を、また、④Gと④Hは、〈主体〉の柔軟転回性を意味する。また、③Eと④Gは、現在性の反復/終了の選択を、③Fと④Hは、想像性の抑制/開始の選択を意味する。そして、いずれもが、〈これから〉のこととして、〈主体〉が〈現実〉に介入することになる。すなわち、それは、先述のように、[[〈現実〉に対する〈生活主体〉の実在的水準の全般的行動能力]、および、[主体行動や〈生活世界〉に関する〈生活意志〉の規範的水準の全般的統整能力]によって、実在的水準における〈生活主体〉が、〈生活意志〉として、規範的水準における〈主体〉に従う統一整合性を〈現実〉にもたらす]ということである。

 また、[〈反復〉しないことができない]ことを〈拘泥〉と、[〈抑制〉しないことができない]ことを〈無視〉と言う。[〈反復〉しないことができない]とは、[〈完了〉させることができない]ということ、[いまも当事しているし、つねに当事しないことができない]ということであり、これは、〈拘泥〉という〈主体〉の〈真実性〉である。また、[〈抑制〉しないことができない]とは、[〈進行〉させることができない]ということ、[いまも当事していないし、つねに当事することができない]ということであり、これは〈無視〉という〈主体〉の〈架空性〉である。

 また、[〈開始〉することができる]ことを〈理解〉と、[〈終了〉することができる]ことを〈忘却〉と言う。また、[〈開始〉することができる]とは、〈理解〉という〈主体〉の〈進行性〉であり、そこに「獲得的未来」が成り立つ。また、[〈終了〉することができる]とは、〈忘却〉という〈主体〉の〈完了性〉であり、そこに「放棄的過去」が成り立つ。

 《規範的問題様相》においては、〈主体〉は、〈これまで〉という〈完了性〉、すなわち、[〈主体〉が、その〈事〉に拘泥してはならず、その〈事〉を忘却しなければならない]という規範と、〈これから〉という〈進行性〉、すなわち、[〈主体〉が、その〈事〉を無視してはならず、その〈事〉を理解しなければならない]という規範の二つの規範の間で、〈このとき〉という〈現在性〉に臨在して当事する〈自己〉として、両者を重複して引き受けている。しかしながら、《主体的問題様相》においては、〈主体〉は、また、現在性の反復/終了の選択ないし、想像性の抑制/開始の選択が可能である。このことは、つまり、[〈これまで〉かつ〈これから〉である〈このとき〉に臨在して当事する〈自己〉において、〈主体〉は、つねに連続的に〈これまで〉と〈これから〉との連続性そのものを支配している]ということである。

 もちろん、多くの〈事〉は、〈真実性〉として、いかんともしがたく〈これまで〉でもあり、かつ、〈これから〉でもあるだろう。また、若干の〈事〉は、純粋な〈完了性〉を持つものとしてけっして〈これから〉ではありえず、「喪失的過去」として拘泥することはできないだろうし、また、若干の〈事〉は、純粋な〈進行性〉を持つものとしてけっして〈これまで〉ではありえず、「直面的未来」として無視することはできないだろう。しかしまた、若干の〈事〉は、〈主体〉がどうするかによって、つまり、〈主体〉がどのように当事に関して規範づけるかによって、反復や抑制として〈これまで〉かつ〈これから〉であったり、また、終了や開始として〈これまで〉は〈これまで〉・〈これから〉は〈これから〉となる。これを決定するのは、まさに〈自己〉しだいである。〈主体〉が規範づけられること、また、規範づけることにおいて、〈事〉は、〈主体〉の問題であり、ここにおいて、〈事〉は、〈これまで〉や〈これから〉という〈自己〉が付加する様相によって時変的である。つまり、時制様相は、一見、〈事〉の性質であるかのようであるが、本質的には、主体が事に当たる態度の問題であり、したがって、〈自己〉の様相である。

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