今日は休みで、新しく買った漫画を読もうと思っていた。どうせ読むなら行きつけのカフェが良いなと思いたち出かけることにした。

そのカフェは自分の1番のお気に入りで、少し口にするのはこそばゆいが、空いている席に着き「いつもの」で注文が通る程度には通っている。

そこでは大体4冊の漫画か、1冊の漫画雑誌か、1冊の小説を読むことに決めている。時間もそうだ。大体2時間と決めている。

読み切ることができればそれで良し、できなければ栞を挟み代金を払い店を出る。

今日は漫画4冊の日だった。しかし全部が新刊ではなかった。それでも「必ず4冊」と決めているので既刊も混ぜて4冊読むことにした。

店に着き、いつものメニューを注文し、漫画を読む。

新刊4冊であれば、ぴったり2時間程度で読み終わる。しかし今日は既刊も混ざっていたので1時間ほどで読み終わってしまった。

ふと、店内を見回す。

このカフェにはマスターの趣味によって集められた様々な小説やエッセイ、自伝や写真集などが数多く並べられている。

1冊の本が目に留まった。タイトルはさして重要ではないので割愛する。

少し読み「面白い」と思った。そう思ったところでカフェの閉店時間が迫っていた。

ふと見るとその本のページの中頃に栞が挟んであった。自分の読んだところに栞を挟み「次に来たときに続きを読もう」と思い、栞に指を触れたところでこう考えた。

「この栞は誰が挟んだんだろう」

言うまでもなくカフェには沢山の人がやって来る。それぞれ思い思いの時間を過ごす。沢山の本が置いてあるこの場所には本目当てでやって来る人も少なくないだろう。

自分が手に取ったその本は他の誰かに読まれたのだろうか。もしそうなら栞を挟んだその人は本の続きを楽しみにしているのだろうか。

あるいは誰も読んでおらず、たまたまそのページに栞が挟まっていただけなのだろうか。


栞の場所を変えることに、少し悩んだ。



栞は本を読んでいた人にとっての「今まで」と「これから」を同時に指し示すものだからだ。

その人は再びやってくるとは限らない。
その人は再びその本を読むとは限らない。

「砂糖とミルク、お下げします」
マスターに声をかけられる。

「お水のおかわり、お願いします」
マスターに声をかける。

新しく注がれた水を飲み干し、帰り支度を済ませ代金を払い店を出る。


栞の場所は変えていない。


終わり



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