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推しと同じ飛行機に乗った話

唐突ですが、私には推しがいます。
海外の男性アイドル俳優で、Instagramのフォロワー数は65万人。
自国内はもちろん、世界を飛び回りライブ活動などをしています。
彼を追いかけつつ海外旅行に明け暮れる日々は、忙しくも充実していました。

ある日のこと。

その時は、片道8時間かかる国でのライブを一泊二日で成立させる必要がありました。
ライブ以外はほぼ移動時間で、恒例の”出待ち”はできず、ライブ終了後はすぐ帰路に着きました。
(出待ちが黙認されているお国柄です悪しからず)
会場にたむろうファンを羨ましく思いながら、タクシーに乗り込み空港を目指します。

空港に到着した時、時間に余裕があった為「もう少し会場にいれば良かった…」という後悔が湧きましたが、8時間の長旅に向けて準備を始めました。

パッキングが完了し、搭乗手続き開始までカフェで時間をつぶしていると、なぜか空港の入り口がザワザワし始めました。

若い女子の群れが見え、黄色い悲鳴が響きます。

…ん?
…まさか…?
え………………?

推しだーーーーー!!!!!

スタッフやファンに囲まれてはいましたが、長身と髪色のおかげで推しだと確信できました。

実はこの空港、離発着便が多くはないため「もし飛行機一緒になったらどうしよ~」なんて妄想をしていたのです。

このタイミングで空港に来るということは…
“そう”だよな…
まさか、妄想が現実になるとは、夢にも思っていませんでした。

またとない幸運に、パニックと歓喜で震えました。


しかし、女子の悲鳴と関係者の怒号にもみくちゃになっている推しを見て、ある感情が芽生えました。

推しを邪魔しないようにしよう…!

私の年齢のもあると思いますが、推しへの愛は、母性の愛です。
推しが健やかに笑顔でいてくれればそれでいいのです。
温かく見守ることが一番(だと思いたい)

もちろん、己のミーハー心とめちゃくちゃ葛藤しましたよ。

推しの行く手を遮らぬよう「私は通行人です」という鎧を心身に着せ、騒ぐファンを恨めしく思いながら固く拳を握り、カフェを出てゲートに向かいました。

振り返るな…考えるな…
煩悩退散煩悩退散煩悩退散…

出国手続きを早々に済ませ、一目散に搭乗待合室まで駆け抜けます。

芸能人は特別な待合室があるでしょうから、ここまで来ればもう安心。
推しが視界に入ることは無い。

大きくない空港の小ぢんまりとした待合室には程々に人がいました。

Instagramのストーリーに意味深投稿。イキっている。


併設されている売店でジュースを買い一息ついていると、なぜか待合室の入り口がザワザワし始めました。

…ん?
…まさか…?
え………………?

推しだーーーーー!!!!!

数十人のファンを引き連れて、推しが入室。

なぜ、いる???

インスタフォロワー65万人は一般人と同じルートなのか…?とか、
出国手続き後の場所に、なぜファンが同行しているのか…?とか、
思考回路はショート寸前。

(因みに、そのファンに聞いてみたら、フライトを把握しているとのこと。すごい世界だな。)


座した推しを中心に輪ができ、ファンがカメラを取り出し、突如始まる撮影会。
国際線の待合室でもファンサする推し。
偶然居合わせた旅行者も、何事かと興味深々。

何だ…これは…

実際の様子。奥に見える青髪が推し。

ここまで来ると、建前が崩壊し、撮影会に参加してしまいました。

正直…、とても幸せな時間でした。
オフの推しを実際に見ることなんて、普通に考えたら絶対に出来ません。

旅行の最後に、最高の思い出をくれた神に感謝しました。

搭乗時間が近づくと、撮影会の輪は崩れ、みんな準備に入ります。
もうあとは、飛行機に乗るだけ。

この頃には、いい思い出だけ持って、一刻も早く推しから離れたい、と心から思いました。

なるべく誰も邪魔しないよう、搭乗開始後そそくさと飛行機に乗り込みます。

これでホントに安心。
前だけ見て歩けば良い。

機内の通路は混んでいて、列を成していました。
前の人に続きゆっくり進んでいると、前の人が躓いて立ち止まりました。
急に列の流れが止まり、後ろの人とぶつかってしまったので、謝ろうと振り返ると…

推しだーーーーー!!!!!


後ろの人が、推しでした。

美しく整った小顔が、笑みを湛えていました。

どうしよう?!
わざとじゃないのに!!
偶然を装ってぶつかった、タチの悪いファンって思われたかな?!
ナンテコッタイ!!!!

自意識過剰なのは分かっていますが、パニックが勝りました。

自我を保つためには、全てを無視して前に向き直ることしか出来ませんでした。

“推しを邪魔しないように”と全ての感情を隠そうとしてるのに、なんて仕打ちだ!
という、憤りと歓喜の混じった複雑な心境で自分の席を探しました。
(嬉しくないハズないけれど、嬉しくない乙女心、分かってもらえますよね?)

着席すると、遠く離れた前方に、推しの後頭部が確認できました。
これだけ離れていればもう遭遇するまい。
安堵と、寂しさが湧きました。

空港に到着してからのアレコレに混乱していた頭の中も、フライトが8時間もあったのでゆっくり整理でき、この時ばかりは長旅に感謝しました。

目的地に到着する頃にはすっかり落ち着き、
ここまで来れば、あとはお土産を買って帰るだけです。

ラッキーハプニングのある、刺激的な旅行だったなぁ…と免税店を物色していると、
なぜか店の入り口がザワザワし始めました。
…ん?
…まさか…?
え………………?

推しだーーーーー!!!!!

数人のファンを引き連れて、推しが入店。

お土産買うのか可愛いな!
この旅行、最後までチョコたっぷりだな!!

もう無理!!!

逃げるように店を出て、今度こそ前だけ見て帰宅しました。

終幕


推しに偶然遭遇し続けた経験から自覚したことは、
「推しとの距離が適度に必要」ということです。
私の心臓には悪すぎる。

しかし、正直言うと、何事にも代え難く、生涯忘れえぬ幸せな時間でした。
この類いの幸せは、日常生活では味わえないものだと思います。

推しのいる生活って、本当に最高ですね!







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