時事:彼は枝、彼女は葉。二人はカップルだったことが判明した(2020年12月13日NYTimes記事)
原題は、「He Was a Stick, She Was a Leaf. It Turned Out They Were a Match」 New York Times Intl. Weekly (December 13, 2020)
・パプアニューギニア産のナナフシ目コノハムシ科の一種Phyllium asekienseは、frondosumグループ(雌が広い葉状の形態を持つ種の総称)に属するが、この種には雌の記録しかなかった。
・カナダ・モントリオール昆虫館のLe Tirant氏が、フィリピンとマレーシアで採集したPhyllium askienseの雌個体を昆虫館に持ち帰り、飼育し、採卵した。13個の卵のうち、無事幼虫が孵化したのは5個体。そのうち、2個体は若齢で死亡したが、残り3個体については、摂食、脱皮を繰り返し成長を続けた。1個体は母親と同じく、体色は緑で広い葉状の胴体であったが、他の2個体の形態はNanophyllium属の形態と類似した体つきをしていた。Nanophyllium属は、分類学上Phyllium属とは別のグループであり、しかもまだ雄個体の標本しか記録されていない。
・Le Tirant氏は、アメリカ・ニューヨーク市立大学の大学院生Cumming氏に、飼育中の形態の違う個体の写真を送ったところ、それらは同じ種であることが判明した。1世紀にも及ぶNanophyllium属の「失われた雌のミステリー」が解明されたのである。
・コノハムシ科昆虫(leaf insects)は、ナナフシ目(stick insects)という広い分類群に属する昆虫類であるのだが、雌雄のどちらか一方しか発見されないことは、いままでにもよくあることであった。ナナフシでは、極端な性的二形(Sexual dimorphism)を有する種が多く認められる。特に、雌個体の形態は、雄個体の形態からは同定が難しい。
・イギリス・ロンドンにある自然史博物館のPaul Brock博士らの研究グループは、ニュージーランド産ナナフシ目Acanthoxyla属の一種について、いままで雌の標本の記録しかなかったのだが、世界で初めて雄個体の記載を行った。
・Brock博士は、20年前にナナフシ目コノハムシ科Nanophyllium属の雌個体は、frondosumグループから発見される可能性を示唆していた。
・カナダ・モントリオール昆虫館のLe Tirant氏とアメリカ・ニューヨーク市立大学のCumming氏は、Brock博士の仮説を証明できるかどうかを検証することにした。博物館の標本を注意深く観察するのに数年を要した。その間に、コノハムシ科21種の新種が記載された。コノハムシ科Nanophyllium属として分類されている雄に対して、frondosumグループの広い葉状の形態を持つ雌の標本を精査することにより同種であると同定するのに2年を要した。形態的な類似点はわずかであったが、背中側の頭部の2つの節と葉状の裂片のある脚を種特異的な形質として記載した。両氏は、若齢個体を飼育し、それらが成長するにつれ、揺るぎない確信を得るようになった。他の種についても再検討の必要があると考えた。
キーワード
leaf insects コノハムシ類
ナナフシ目コノハムシ科(Phylliidae)は、節足動物門昆虫綱ナナフシ目の生物分類の1つ。熱帯アジアのジャングルに広く分布しており、20種程が確認されている。草食性で、メスは前翅が木の葉のようになっており、翅脈も葉脈にそっくりで、腹部や足も平たく、飾りのための平たい鰭もあり、木の葉に擬態する。一方、オスは細長い体型で、腹部のほとんどが露出しているため木の葉に似てないが、後翅が発達していて飛ぶことが出来る。周囲の色によっては、黄色や茶色の個体も見られる。
stick insects ナナフシ類
世界には約2,500種のナナフシの仲間がいるとされている。ただ、ナナフシの分類は大幅な見直しが進められている。
Genus 属(ぞく)
生物分類のリンネ式階級分類における基本的階級の1つ、および、その階級に属するタクソンである。「分類階級」は上位のものから、「界(かい)」「門(もん)」「綱(こう)」「目(もく)」「科(か)」「属(ぞく)」「種(しゅ)」の順。分類階級が上のものほど、より広い共通点や相違点で括り分けられている。国際動物命名規約 (ICZN Code)において規制される階級は「科階級群」、「属階級群」および「種階級群」の3つのみである。
参考URL: https://montrealgazette.com/news/local-news/montreal-entomologists-passion-for-leaf-insects-leads-to-important-discovery
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